1981年の誕生以来、日本のアイス市場を席巻し続け、現在では年間4億本の販売を突破したアイス「ガリガリ君」。今ではほとんどのスーパー・コンビニで見かける身近なアイスですが、開発当初は並々ならぬ努力があり、販売以降も度重なるターニングポイントがあったようです。
40周年を迎える今年、あらためてその変遷を辿るべく販売元の赤城乳業に取材を依頼。応じてくれたのは赤城乳業開発マーケティング本部マーケティング部係長の岡本秀幸さん。
2012年にガリガリ君・リッチシリーズの一つとして登場した異色フレーバー、コーンポタージュ味の仕掛け人でもある岡本さんに、ガリガリ君の歴史を聞いてみました。
青空の下で、子どもたちが遊びながら食べられるものを
ーー今から40年前の1981年に誕生した「ガリガリ君」の歴史をお聞かせください。
岡本秀幸さん(以下、岡本) ガリガリ君の前身商品に、「赤城しぐれ」というものがありました。いわゆるカップ式のかき氷商品で当時の弊社の主力商品だったと聞いています。
ただ、オイルショックの際、各アイスメーカーが値上げするだろうという憶測があり、30円だった赤城しぐれを50円に値上げをしたんです。しかし、実際に値上げしたのは弊社だけで他社さんのほとんどが値上げをせず、そのせいで赤城しぐれの売り上げは大きく落ち込んでしまいました。
岡本 主力商品の売り上げが落ち込んだことで、会社自体もちょっと傾きかけたそうなのですが、そんな中、起死回生を図って開発をしたのがガリガリ君でした。
赤城しぐれをワンハンドに転じ、バーアイスにすることで、青空の下で、子どもたちが遊びながら食べられるものを目指したようですが、開発をスタートさせた1980年当初は、かき氷をただ型に流し込んで固めただけだったようです。これは氷が崩れやすい、溶けやすい、中のスティックから抜けやすいという問題がありました。
これをクリアさせるために新開発となったのが、外側にアイスキャンディーを巻き、内側のかき氷部分を覆うという2層構造です。このことで、前述の問題が解決し、1981年にガリガリ君として誕生したという経緯です。
ーー今ではかき氷アイスの代名詞的でもある「ガリガリ君」という商品名ですが、どのようにして決まったのですか?
岡本 ご想像通り、食べるときの「ガリガリ」という音をイメージしたものです。しかし、「単に『ガリガリ』だけだと寂しい」という意見が出て、当時の専務(現会長)が、「君付けにしてみてはどうか」と言い満場一致で決まりました。
当初はキャラクターの設定は考えていなかったようですが、「君」がついたことで「キャラクターも必要だ」となり、前述のコンセプト「青空の下で、子どもたちが遊びながら食べられる」に合わせて、ガキ大将をイメージしたキャラクターが同時に誕生したようです。
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ーー発売当初のキャラクターは、ものすごい焦っているような絵ですね(笑)。
岡本 当初のキャラクターは社内で絵が得意な社員が描いたそうなのですが、たしかに歯茎が出ていたり、汗をかいたりしていますね。このキャラクターはマイナーチェンジをしながら1999年まで続くことになりますが、お客さまからあまり良いイメージを持たれていない調査結果が出まして、2000年にキャラクターデザインを一新しました。合わせてテレビCMも実施して、現在のキャラクターが定着し、現在に至っています。
岡本 1981年の誕生から始まり、2000年にはシリーズ年間1億本を販売し、2012年から現在まで年間4億本を超えていることを考えると、キャラクターを変えたことの効果も強くあったのではないかと思います。
ガリガリ君が先駆けだった「水色のソーダ」のイメージ
ーーガリガリ君ブランドで、この40年間にリリースされたフレーバー数は150種以上。この数だけを見ても、常に新しい挑戦をし続けてきたことがわかります。これまで様々なフレーバーが出てきましたが、発売当初はコーラ、グレープフルーツ、ソーダ味でした。なぜこの3種だったのでしょうか。
岡本 発売当初かき氷アイスでの人気フレーバーを、そのままガリガリ君に転じたと聞いています。ただ「見た目が水色で、味がソーダ」は当時なかったとも聞いています。その時代はソーダをイメージした商品は、透明だったり緑色のものだったりが多かったようですが、ガリガリ君はここでも「青空の下で、子どもたちが遊びながら」に合わせて、あえて水色のアイスにしたのです。
当初からのコーラ、グレープフルーツ、ソーダの3フレーバーは今日まで長い間定番となっていますが、この中のソーダは、特にガリガリ君を象徴するものだと思っています。
ーーさすが40年の歴史があるだけあって、ガリガリ君・ソーダだけでこんなにパッケージのデザインがあったんですね。
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兄弟商品だったソフト君(1985年)とガリ子ちゃん(2006年)
ーーまた、この40年間では様々な関連商品や異色フレーバーも登場しています。まず気になるのが1985年に登場した「ソフト君」です。
岡本 ガリガリ君のかき氷に対し、アイスを使っているのでソフト君というものを出したのですが、8年でなくなってしまいました。
岡本 また、ガリガリ君誕生から25周年経った2006年には、新しいラインナップに「ガリガリ君リッチシリーズ」も加わりました。ミルクを使用したり、かき氷の中に菓子素材を混ぜ込んだりしたもので、現在も継続して展開し続けています。さらに同年「ガリ子ちゃん・やわらかクリームソーダ味」を発売しました。
岡本 それまでのガリガリ君は、どうしても春に売れてきて、夏にピークを迎え、秋冬は売れなくなる……といったことを繰り返していました。アイスを年間を通して親しんでいただくことを目標に、開発したものがガリ子ちゃんです。
ガリ子ちゃんは新しいキャラクターで、インターネット上でおおいに話題になりました。2ちゃんねるなどでも「ガリ子ちゃんは萌え系なのかどうか」みたいな論争に発展したり、お客さまがガリガリ君のキャラクターを通して、より親しみを抱いてくださったのがこの時代です。合わせてネット上に「ガリガリ部」というファンコミュニティを作り、お客さまとの交流の場を持てるようにもなりました。
「ガリガリ部」は現在はFacebookで継続してやっていますが、年に一度、ガリガリ君ファンの方を抽選でお招きして「新しいフレーバーを考えよう」や「ガリガリ君の絵の描き方を覚えよう」といった企画を実施しています。こういったお客さまとの交流の中で生まれた提案で、2007年にはマンゴーが生まれるなど、非常に有意義な試みだと思っています。
他の候補の完成度をあえて低くし、社員の選択を仕向け実現させたコーンポタージュ
ーーこういった異色フレーバーの中でも、特に気になるのが2012年に登場した「リッチ・コーンポタージュ」や2013年に登場した「リッチ・クレアおばさんのシチュー味」、2014年の「リッチ・ナポリタン味」です。これらの開発経緯を教えてください。
岡本 コーンポタージュは「お客様がアッと驚くようなフレーバーを開発しよう」という思いで開発したアイスです。まず、アイスには考えられないような味を30~40種類くらいプロジェクトメンバーで挙げ、そこから5種類くらいまで絞って試作しました。一方で商品化までには多くの部署が関わっていますので、奇抜なアイディアを言うと批判的な意見も社内では出てきます。
しかし、コーンポタージュはまず私自身がやりたかった。もともとのガリガリ君のコンセプトは「子どもたちが遊びながら」というもので、これはずっと変わらず、みんなでワイワイ楽しみながら食べるコミュニケーションツールの側面もあるだろうと思っています。そういったシーンを想像すると、駄菓子屋さんが思い浮かびました。
かつての駄菓子屋さんは、学校帰りの子どもたちが集って何かを食べながらワイワイ楽しんでいる。そこで駄菓子屋さんの市場を調べたところ、コーンポタージュのお菓子がすごい人気があったんです。
温かい料理・コーンポタージュを冷たいアイスに転じるのも面白いし、そもそも「コーンポタージュが嫌い」という人も少ないだろうと。そこで「これしかない!」と思いました。
ーーでも、こういったお話で会社を説得することはできたのですか?
岡本 いや当初はオープンにはできませんでした。真っ正面から「コーンポタージュをやりたいです」と言ったら、やはり「やめとけ」という意見が出そうな気がして……。それで社員みんなが帰った夜に、私だけが会社に居残り、いろいろと試作をしました。実はここでも気を遣いましたね。やはり試作だと匂いが残ってみんなにバレてしまう可能性がありますので、窓を開けたりして(笑)。
また、前述の最終候補5種類のうち4つくらいはあえて完成度を抑えて、コーンポタージュだけ完成度を高めました。これを試食した社員が「これが一番美味しい」となるように仕向けて(笑)。そうやってうまく誘導しながら実現させたのがコーンポタージュでした。結果的に当初の販売予測を大きく上回り、3日で発売休止となりました。
ーーコーンポタージュの成功で、クレアおばさんのシチュー味、ナポリタン味にも繋がったのでしょうか。
岡本 そうです。クレアおばさんのシチュー味は、江崎グリコさんとのコラボ企画です。アイスメーカーとしては競合なのに「一緒に作っちゃうの?」というオモシロ企画でした。また、ナポリタン味は、2014年当時、東京・新橋などでナポリタンが再評価されていた頃で、「ナポリタン味も良いんじゃないか」という社内の意見があり出したものです。アイスの中にトマトゼリーと、パスタを連想させる柔らかいゼリーも入れた商品でした。
春にはお披露目? 40周年を経たガリガリ君の新機軸
ーークレアおばさんのシチュー味以外にも、コラボやキャラクターを使ったグッズなどを見ると、もう無数にありますね。
岡本 そうですね。コラボやグッズ展開は、本当に数多くあります。ただ、今年は40周年なので、さらに新しく、独立したガリガリ君のプロモーションに注力していきたいと思っています。今から20年前にガリガリ君のテレビCMが誕生し歌も作ってやってきましたけど、これから先の20年に向けて新しい試みを行おうと、動いています。今年の春くらいにはリリースできると思いますので、期待していただきたいです。
ーー昨年から今年にかけてはコロナ禍でもありましたが、ガリガリ君の売り上げに影響はありましたか?
岡本 昨年はマルチパックと大人なガリガリ君シリーズがすごく売れました。アイス市場全体がそうだったと思いますが、「巣ごもり需要」と「家の中で少し贅沢なものを食べる」ものとして売れたのだと思います。飛び抜けて動いたのはこの2つですね。
ーー奇しくも、40周年の今年はまだしばらく厳しいコロナ禍が続く見込みです。この節目の年に、あらためてガリガリ君にかける思いを聞かせてください。
岡本 前述の通り、もうすぐ新しい試みを発表しますが、ただ原点である楽しみながら食べるアイス、キャラクターはこれからも変えずにいきたいと思います。その上での冒険は恐れずに、従来のガリガリ君にどんなことをプラスして提案できるのかをチャレンジしていきたいと思っています。これからの20年のガリガリ君も、ぜひ多くの人に親しんでいただければ幸いです。
発売から40年の間、裏側で起きていたお話をたくさん聞きしました。いつも身近にあるガリガリ君ですが、最後の岡本さんのコメントを信じれば、この先の20年もみんなを喜ばせてくれるような展開がありそうですね。ガリガリ君の新展開、おおいに期待しています!
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