忘年会、新年会に正月の祝い膳と、ごちそうが続いた年末年始のあと。さらに休み明けとあって、ますます胃腸に負担がかかります。新しい年もすこやかに過ごすには、胃をいたわりながら体調を整えたいもの。そんな年始に食べたい「疲労回復レシピ」を、料理家の吉川愛歩さんに教えていただきました。
胃にやさしくて消化に良い食材は?
消化によい食べ物とは、繊維質や脂肪分が少なく、水分が多くて胃液が混ざりやすく、胃の中に止まる時間が短いもののことを言います。反対に、消化に悪いものは脂肪と食物繊維が多いもののことで、疲れているときには胃もたれや消化不良などの原因になることがあります。
「胃にやさしいものを食べたいなと思ったときは、なるべく薄味を心がけ、油を使わないお料理にします。となると、炒めたり揚げたりという調理法は選択肢から消えますよね。もともと日本料理は油が少なく、油を使わずに調理できるレシピが多いので、昔ながらの食べ物を思い浮かべるといいと思いますよ」(料理家・吉川愛歩さん、以下同)
【消化に良い食材】
大根・白菜・キャベツ・かぶ・たまご・豆腐・鶏むね肉・うどん など
【消化に悪い食材】
油・バター・食パン・れんこん・ごぼう・ベーコン・海藻・きのこ など
消化に良い年末年始の食べ物。正月明けに食べる「七草粥」とは
正月に食べる消化にやさしい食べ物といえば、七草粥。1月7日になると、日本では七草粥を食べる風習がありますが、これは平安時代から続く伝統的にならわしです。
「年末年始に食べ過ぎたから七草粥を食べるという説をよく耳にしますが、こちらは現代になってあとから意味づけしたもの。1月は、これから一年でいちばん寒い季節が来るとき。今も昔ももっとも人が亡くなる時期でもありますし、そんな厳しい季節を乗り越えるため、雪の下でもしっかり育つ生命力の強い野草を使ったレシピで栄養をつける、というところからはじまったと見られています。とはいえ、七草にはそれぞれ薬効があり、胃にやさしい食べ物ですから、お正月明けにはぜひ取り入れたいですね」
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ここからは、消化に良く胃腸にやさしい「内臓疲労回復」レシピを吉川さんに考案、解説していただきます。まずは大豆を消化の良い豆腐にしたあんかけ豆腐。
つるんと食べられるやさしい味「柚子あんの手作り豆腐」
はじめにご紹介するのは、あんかけにしたお豆腐です。大豆は消化にあまりよくないのですが、豆腐になると、消化に良くなります。植物性タンパク質は胃への負担が少ないので、体調不良や食べ疲れてしまったときにもぴったり。つるんとした喉越しで体調がすぐれないときにも食べやすく、ゆずの華やかな香りにも癒されます。
「豆乳ににがりを混ぜて蒸した、自家製のお豆腐です。お豆腐が作れる無調整豆乳とにがりを冷蔵庫に常備しておくと、いつでも作れます。今回はおいしさも考えてあんかけにしましたが、おしょうゆやだし汁、お塩などをかけて食べることもできます。熱々に蒸しあがったお豆腐は、身体を内側から温めてくれますよ」
【材料(2人分)】
・無調整豆乳(豆腐が作れるもの)……150ml
・にがり……1.5g(豆乳の1%)
〈ゆずあん〉
・水……大さじ3
・しょうゆ……小さじ2
・みりん……大さじ1
・片栗粉……小さじ1/2(同量の水で溶く)
・ゆずの皮……適宜
【作り方】
1. 豆乳ににがりを入れてよく混ぜる。
「豆乳を泡立てたくないので、ゴムベラなどで静かに混ぜます」
2. 耐熱の器に流し入れる。
「今回は2つ分で作りましたが、材料を倍にすれば4つ作れます。容器はマグカップでも大丈夫。作って冷蔵庫に入れておくこともできるので、まとめて作りたいときは分量を増やしてください」
3. キッチンペーパーの端を使って泡を吸い取る。
「泡立ててしまうとスが入りやすくなるので、そっと混ぜてそっと流し込み、それでも残った泡は、最後にペーパーで吸い取ります」
4. 器にラップをして、しっかり蒸気の上がった蒸し器に入れて強火で10分蒸す。
5. 小鍋にゆずあんの調味料と、千切りにしたゆずの皮を入れて加熱する。
「はじめに水としょうゆ、みりん、ゆずの皮を入れておき、中火でふつふつとしてきたら水溶き片栗粉を入れてさっと混ぜ、とろみがついてきたらすぐに火を止めます」
6. 蒸しあがった豆腐にゆずあんをかける。
「お豆腐は、蒸しあがったら数分置いてからラップをはがします。すぐに食べない場合は蒸し器の中に入れておき、食べる前にまた温めてからあんをかけましょう」
次のページでは、使う調味料は塩だけの、とろんとした食感のポタージュと、脂肪分控えめの部位を使っ鶏団子の鍋を紹介していただきます。
調味料は塩だけ。とろんとろんのスープ「里芋のポタージュ」
茹でた里芋をだし汁と牛乳で伸ばしたスープ。里芋の滋味ととろみが、疲れた胃を癒してくれます。
「里芋は食物繊維が豊富なのですが、ぬめり成分が胃や消化管の粘膜を守ってくれる役割をしてくれる野菜です。また、食べたものの消化を促し、腸内の環境を整えてくれるので、消化不良や便秘に効果的。柔らかく煮てポタージュにすることで、消化にかかる時間を少なくし、さらに胃腸にやさしい味つけにしました。素朴でシンプルな味ですが、疲れ気味のからだのお助けレシピになってくれますよ」
【材料(2人分)】
・里芋……正味200g
・だし汁(昆布だしまたは水)……100ml
・牛乳……100ml
・塩……小さじ1/2〜
【作り方】
1. 里芋の皮を剥き、竹串がスッと刺さるまで茹でたら潰す。
「里芋は、皮つきのままチンして皮を剥くのでも構いません。なめらかになるまで潰していきます」
「フードプロセッサーを使ってもいいのですが、つぶつぶが少し残っているのがおいしいので、潰し過ぎに注意してください」
2. 里芋をだし汁で伸ばす。
「だし汁を少しずつ入れながら、さらに里芋を潰していきます。だしは、一度だしをひいた後の昆布を煮出した二番だしを使っています。昆布の旨みがあるほうが深みが出ておいしいのですが、もし面倒であれば、添加物が多く味の濃い市販のだしや麺つゆではなく、水で代用してください」
3. 中火にかけて牛乳を加える。
「次は牛乳を入れて、さらに伸ばしていきます。あまり加熱しすぎず、ふつふつと煮るくらいいで大丈夫」
4. 塩で味をととのえる。
「最後に塩を加えて、味をととのえます。味見をしてみて、おいしいと思える塩加減に調整していきましょう」
脂肪分少なめの胸肉で。生姜でぽかぽか温まる「鶏団子とせりのひとり鍋」
最後に紹介していただくのは、鶏むね肉を使った鶏団子に野菜を合わせた鍋。鶏むね肉は、肉のなかでも脂肪分が少なく、消化に負担がかかりにくい食材です。
「今回はひき肉を使いましたが、より脂分を少なく胃への負担を軽減したい場合は、皮なしのむね肉を包丁で叩いて、ひき肉にしてから使います。取り合わせたせりは、ミネラルとビタミンCが豊富で、抗酸化作用や免疫力を高める役割をしてくれます。ネギや生姜には胃液の分泌を促進して、消化を良くする成分がありますが、同時に刺激物でもあるので、体調を見なから具材を考えてみてください。だしに鶏のうまみとせりの香りがうつって、ホッとする味ですよ。身体も温まるので、食べられるときは最後にごはんを入れて雑炊にするのがおすすめです」
【材料(1人分)】
〈鶏団子〉
・鶏ひき肉……200g
・木綿豆腐……50g
・生姜(すりおろし)……小さじ1/2
・塩……少々
〈鍋の汁〉
・だし汁(昆布だし)……300ml
・酒……大さじ1
・しょうゆ……小さじ1
・みりん……小さじ1
・生姜(薄切り)……1かけ
〈鍋の具材〉
・ねぎ……1/2本
・木綿豆腐……半丁
・せり……適量
【作り方】
1. ボウルに鶏団子の材料を入れてよくこねる。
「肉と豆腐を先によく混ぜておき、ある程度混ざってから生姜と塩を加えていきます」
2. 鍋にネギと豆腐、汁の材料を入れて中火で煮る。
「グツグツと煮て、ネギに火が通ったら次の工程に進みます」
3. (1)の鶏肉を団子にして入れる。
「スプーンを2本使って、お肉をくるくると丸めて入れていきます。手で丸めても、もちろんかまいません」
4. 鶏団子がしっかり煮えるよう、よく加熱する。
「鶏肉に火が通ったら、せりを乗せてさっと温めていただきましょう。具材は全部最初に入れてしまわなくて大丈夫。食べながら少しずつ加えていきます」
休みに入ると、身体は楽になる一方、生活リズムが乱れたり食べ過ぎ・飲み過ぎなどで胃腸に負担をかけてしまったり。羽目を外す楽しみを大切にしながらも、 “整える日” を意識的に作り、新しい年も健康でいられるよう丁寧なはじまりを心がけたいですね。
プロフィール
料理家 / 吉川愛歩
出版社に勤務後、ライターとして独立。雑誌や書籍の出版に携わりながら茶懐石を学び、料理家・フードコーディネーターとして活動をはじめる。企業広告や雑誌等でレシピを制作するほか、趣味が高じて『メスティン自動BOOK』(山と渓谷社)や『キャンプでしたい100のこと』(西東社)などでアウトドア料理のレシピを考案。また、誰にとっても読みやすいバリアフリーレシピの書き方を研究中で、編集者・ライターとしても幅広く活動している。『1年生からのらくらくレシピ』(文研出版)や『糖質オフのやさしいお菓子』(ワン・パブリッシング)の制作に携わり、『日本一おいしいソロキャンプ』(KADOKAWA)では執筆とともに調理も担当している。