健康志向の高まりとともに、糖質の摂取量に気を遣う人が増えてきました。“糖質ゼロ”や“糖質オフ”などの商品も注目を集めています。とはいえ、甘いものをあきらめたくないし、おいしく楽しみたいもの。そこで、糖質を抑えながらもおいしく楽しめる糖質オフスイーツの基礎知識と、自宅で簡単に作れるレシピを管理栄養士の沼津りえさんに教えていただきました。
糖質ってどんな成分?
太らないために甘いものを控えたり、ごはんの量を減らしたりして、糖質制限をしている人も多いはず。そもそも糖質とはどういう成分なのでしょうか?
「糖質は、炭水化物から食物繊維を除いたもののこと。主に米や小麦、いも類、果物などに含まれています。体内に入ることで『ブドウ糖』に分解され、エネルギー源に変わる糖質は、私たちの体に必要不可欠な成分。体と脳を働かせるために必要な栄養素の一つなのです」(管理栄養士・沼津りえさん、以下同)
糖質は体にとって大切な役割を担ってくれているようです。ではなぜ糖質は敬遠されてしまうのでしょうか?
「糖質が問題視される理由は、現代人があまりにも糖質をたくさん摂りすぎているから。ラーメンやパスタ、ピザ、お菓子、パン、ファーストフード、甘いジュースなどなど……手軽に食べられて、しかもおいし食べ物が周りに溢れていますよね。ですがこれらは糖質だらけ。何も考えずに摂取していると、糖質過多の食生活に偏ってしまうのです」
糖質の過剰摂取が及ぼす
デメリットとは?
糖質を摂りすぎてしまうことで、こんなデメリットが起こります。
肥満の原因になる
「糖質は体内でブドウ糖に分解されます。ですが大量に分解されることで、血糖値が急上昇。その血糖値を下げようと体内からインスリンが分泌されますが、インスリンは脂肪をため込む性質があるので、肥満につながります」
太りやすい体質になる
「インスリンの過剰な分泌が続いてしまうと、インスリンの分泌量が減ったり、働きが低下して血糖値が下がりにくくなったりする場合があります。これに体が慣れてしまうと、脂肪をため込みやすく、太りやすい体質になってしまいます」
疲れやすい体質になる
「血糖値を下げるためにインスリンが分泌されることで、血糖値の急激な低下が起こります。こうした血糖値の乱降下が繰り返されると、副腎疲労を起こし、疲れやすい体質に。食後にたまらなく眠くなる人は、糖質の摂取量を見直してみるとよいかもしれません」
心に支障が出る
「副腎疲労は、体だけでなく心にも大きな影響を与えます。怒りっぽくなったり、やる気を失ったりなど、日常生活に支障をきたすこともあるのです」
美容ダメージにつながる
「糖質を過剰に摂取することで、終末糖化産物(AGE)が生成されます。AGEとは、タンパク質と糖質が結びついてできる“焦げ”のようなもの。例えると、ホットケーキを焼き過ぎたときに焦げができるのと似ています。この“焦げ”が体内で生成されることで、たるみやしわ、しみなどの原因になるのです」
こうした体質にならないためにも、日々の食事の中に糖質オフを取り入れることが大切。また、太りやすい体質や疲れやすい体質は、糖質オフを習慣化することで変えていけるといいます。
「糖質を控えてタンパク質や脂質をバランスよく摂ることで、血糖値はゆるやかに上昇します。その結果、インスリンの分泌も抑えられますし、血糖値が急激に上昇下降しなくなり、安定します。脂肪を蓄えにくくなりますし、食後に眠くなったりだるさを感じたりすることも減るはずです」
糖質摂取量の目安とは?
摂りすぎることで、私たちにさまざまな悪影響を及ぼす糖質ですが、冒頭でも説明したように、エネルギー源になる成分なので減らし過ぎるのもよくありません。イライラしたり、頭がぼーっとしたり、便秘がちになったりなど、糖質を減らし過ぎることでかえって心身によくない影響も出るのです。そのため、適切な量の糖質を摂取する必要があります。
1日の糖質量の目安は、以下の式で算出できます。
1日の糖質量の目安=1日に必要なエネルギー量×40%÷4Kcal
これをもとにすると、18~29歳で身体活動レベルが普通の女性(1日に必要なエネルギー量:1950kcal)の場合、以下が目安になります。
1950×0.4÷4=195g(1日の糖質量の目安)
*参考:白米ごはん茶碗1杯分(150g)…糖質53.4g
「糖質は、多すぎても少なすぎても心身に大きな影響を与えます。健康的に痩せるためには、最低でも1日の摂取糖質量が100gを下回らないように注意が必要です。適切量を守り、太りにくく、健康的な体を手に入れましょう」
意外と糖質量の多い食べ物&実は少ない食べ物
意外と糖質量が多く、注意が必要な食べ物の例を挙げると、以下のようなものがあります。
・薬局やコンビニで売られている健康ドリンク
エナジードリンク
野菜ジュース
甘いコーヒー
栄養ドリンク など
・朝食でよく食べられるもの
シリアル
加糖ヨーグルト
エナジーバー
「上記のような健康によいとされている食べ物も、実は糖質が急上昇する可能性があります。食品表示を確認し、糖質量に気をつけて選ぶようにしましょう」
逆に、糖質が比較的少ない食べ物だとどのようなものがあるのでしょうか? ここでは、糖質量が少なくおやつにおすすめなものを紹介します。
・カカオ分多めの高カカオチョコレート(カカオ含有量70%以上)
・無糖ヨーグルト
・食塩不使用の素焼きのナッツ類
・ゼリー
・寒天
・クリームチーズ など
「とくに寒天は食物繊維が豊富で、腸にもやさしい食べ物です。小腹が空いたときは寒天を使ったおやつを選んでみてください」
低GI食品とは?
食後の血糖値が上がりにくいという「低GI食品」。健康意識の高い人や血糖値が気になっている人を中心に、近年注目されています。
「“GI”とは、食品に含まれる糖質の吸収度合いを示す値です。そのため、“低GI”は、血糖値が上がりにくいということを表しています。急激な血糖値の上昇を防ぎながら、食品に含まれる糖質以外の栄養素を取り入れることができるのです」
例えば、白米よりも玄米の方が低GIになります。そのうえ、ビタミンやミネラル、食物繊維も豊富に摂取することができます。米だけでなく、小麦粉が原料の白い食パンよりも、全粒粉やライ麦などの雑穀を原料としたパンの方が低GIになります。麺類も、うどん→パスタ→そばの順で低GIです。
「色も目安になり、白色よりも黒や茶色の方が低GIになります。また、粉末状の粉類を原料とするパンや麺よりも、粒状のごはんのほうがGI値は低めです。低GIの知識を上手に取り入れながら、血糖値の急上昇を抑えた食事を心掛けてみてください」
糖質オフを叶える
おいしいスイーツレシピ2選
ここからは、糖質オフのスイーツレシピを2つ、解説いただきます。
糖質が少ない食材を使い、簡単においしく作れるスイーツレシピを沼津さんに教えていただきました。
「私の大好きな寒天を使ったレシピと、小麦粉を大豆パウダーに置き換えたレシピを紹介します。どちらもあっという間にできますよ」
食後のデザートにも!「グレープフルーツ寒天」
食物繊維がたっぷりと含まれている寒天を使ったスイーツレシピ。ちなみに、グレープフルーツには脂肪燃焼の働きがある成分が含まれているので、ダイエットにもおすすめです。
「フルーツだけ食べてもよいですが、寒天にすることでおやつを食べている満足感が得られると思います。簡単に作れるので、来客時のおもてなしとして作るのも喜ばれますよ」と沼津さん。
【材料(2~3人分)】
・粉寒天……2g
・水……200ml
・グレープフルーツの果肉……1個分
・グレープフルーツの果汁……50ml
・きび砂糖……小さじ1
【作り方】
1.グレープフルーツの両端をカットし、りんごのようにくるくると皮をむく。
皮の白い部分もきれいにそぎ落としましょう。
2.薄皮から果肉をひと房ずつ取り出す。
まず房の右側に包丁を入れます。
薄皮を残して左側にも包丁を入れたら、包丁を右にスライドさせると果肉だけ取り出すことができます。
3.残った薄皮をぎゅっと絞り、果肉と果汁に分ける。
絞った果汁は別の容器に移しておきましょう。
4.鍋に水と寒天を入れ、強火にかけて沸騰させる。
火にかけながら、泡だて器などで溶け切っていない寒天を溶かしましょう。
5.沸騰したら吹きこぼれない程度の火加減(弱中火程度)にし、1~2分程沸騰状態を保つ。
このくらい沸騰したら火を弱めましょう。
6.火を止め、きび砂糖を入れて溶けるまでかき混ぜる。
砂糖を入れることで、味がマイルドに仕上がります。「糖質を極力控えたい方は砂糖なしでも大丈夫です。また、白砂糖よりも茶色いきび砂糖などの方が低GIになります」
7.グレープフルーツの果汁を入れて、粗熱を取る。
果汁を入れたら、粗熱が取れるまで少し待ちます。
8.軽く濡らした容器に、グレープフルーツの果肉を入れる。
ひと房を半分に切り、食べやすい大きさにしてから容器に均等に入れてください。「容器を少し濡らしておくことで、寒天を取り出しやすくなりますよ」
9.8の粗熱が取れたら容器に流し入れ、固まったら完成。
「寒天は常温で固まりますが、温度を下げることで早く固まります。急ぎの時は保冷剤などで冷却するとよいでしょう」
アレンジの幅は無限大!「おからクレープ」
小麦粉をおからパウダーに置き換えて作るクレープです。砂糖を加えずに泡立てた生クリームを添え、きな粉を振っていただきます。
「生クリームは、牛乳よりも低糖質。砂糖なしでも満足感があります。軽食にもおすすめですし、野菜を巻いて食事クレープにしても。添えたり巻いたりする食材を変えることで、アレンジの幅が広がります」
【材料(2~3人分/直径16cmの生地5枚程度)】
・卵(M玉)……1個
・おからパウダー……20g
・豆乳(無調整)……100g
・きび砂糖……小さじ1
・バニラエッセンス……3滴程
・きな粉……適量
・純正生クリーム……適量
【作り方】
1.ボウルに卵を割りほぐし、豆乳を加える。
2.きび砂糖、おからパウダーを加え、生地が滑らかになるまで混ぜる。
きび砂糖を加えることで、香ばしさが加わります。こちらも極力糖質を抑えたい場合は入れなくてもOKです。「食事用の具材を包むときは、砂糖ではなく塩を少し加えるのもおすすめです」
3.バニラエッセンスを3滴程加えて混ぜる。
バニラエッセンスを加えた後、少し置いておくことで生地が馴染み、フライパンで熱する際に生地を伸ばしやすくなります。
4.フライパンを熱した後、弱火にして油を引く。
複数枚焼くので、油を染み込ませたキッチンペーパーを用意し、油がなくなったら都度引くようにしましょう。
5.オタマで生地をフライパンに入れ、丸くなるように広げる。生地がふつふつしてきたら裏返して焼く。
生地を広げる際は、フライパンを少しずつ傾けながら広げてみてください。「小麦粉と違いグルテンが入っていないので、少し伸ばしにくいかもしれません。生地を流したら素早く広げるようにしましょう」
6.お皿に盛り付け、砂糖を加えずに泡立てた生クリームときな粉をかけて完成。
糖質オフを実践するために
大切なこととは?
最後に、糖質オフを日々の生活に取り入れるためのアドバイスを沼津さんにお聞きしました。
「カロリーを減らすダイエットと違い、糖質オフは低糖質や低GIの食材に置き換えることで、量を減らさずに食事を楽しむことができます。ただし、一番大切なのはバランスのよい食事です。炭水化物を減らすために主食のごはんをやめてしまう人もいますが、それでは必要なエネルギーが取れず、空腹を感じやすくなります。その反動でドカ食いする原因にも。炭水化物を完全に取らないようにするのではなく、どの栄養もバランスよく摂ることが大切です」
糖質オフを生活に取り入れることで、食品に含まれる栄養素にも意識が行くようになる、と沼津さん。
「食品表示を確認したり、野菜や果物にはどのような栄養が含まれているかなどを日々チェックしたりすることで、頭の中で栄養のことを考えながら食材を選ぶことができるようになっていきます。また、外食事のメニューも、野菜をふんだんに使った料理や、副菜が多くついた定食、トッピングに海藻類やキノコ類を付けるなど、体のことを考えたメニューを選べるようになります」
糖質オフを心掛けていき、体を労る選択をしていくことで、糖質オフの食生活が暮らしの一部になっていくそう。自分の体によいものを選びながら「賢い食生活」を実践していきましょう。
*持病のある方は自己判断せず、まずは担当医に相談ください。
Profile
管理栄養士・調理師・料理教室COOK会主宰 / 沼津りえ
大手食品メーカーで管理栄養士として従事。その後、老舗洋食レストランに勤務し料理の腕を磨いた後、料理家として独立。都内を中心に料理だけでなくパンやスイーツなど、さまざまなコースの料理教室を開き幅広い年代層に支持されている。管理栄養士の知識を生かした食材のうまみを引き出す作りやすいレシピに定評がある。企業のレシピ開発、新聞、テレビ、雑誌などメディアでも活躍中。