1月7日から、二十四節気(にじゅうしせっき)の「立冬」に入ります。寒さを感じ始める時季こそ、食材の力で体の中から温めたいもの。そこで、料理の人気ジャンルのひとつでもある「薬膳」から、寒い季節にぴったりの料理を紹介しましょう。 薬膳・発酵料理研究家・山田奈美さんに薬膳にまつわるお話をうかがうとともに、立冬の時季に作りたい薬膳のレシピを教えていただきました。
立冬の頃によく見られる体の状態とは?
「冬が立つ」と書く立冬は、二十四節気における冬の始まりです。この時季によく見られる体の状態には、どのようなものがあるのでしょうか?
「立冬の時季になると一気に空気の乾燥が進み、外気の影響を受けやすい肺も乾燥します。そのため咳や痰が出たり、喘息や気管支炎の症状が現れやすくなったりします。肺が乾くと肌や大腸が乾燥すると言われており、便秘にもなりやすくなります。
また、立冬を過ぎたころから気温が下がり始めるため、私たちの体温も低くなり、免疫力が落ちやすくなります。免疫力を上げるには、体を温めたり、腎機能を高めたり、血の巡りを良くしたりする食材を摂るのがおすすめです」(薬膳・発酵料理研究家・山田奈美さん、以下同)
さらに秋冬は日照時間が短くなるため、気分が上がらず鬱々としたり、生命エネルギーである気の流れも悪くなったりしがちです。
「『風邪を引きやすい人は“気”が足りない』と言われるくらいに、気は体にとって大切なものです。この時季の食事は、気を補って体を元気にする献立を取り入れるといいでしょう。例えば、お肉を食べると少し元気になりますよね。お肉と同じように、野菜にも元気をもたらすものがあるので、積極的に取り入れたいところです」
薬膳って、どんな料理?
薬膳とは、中国の伝統医学「中医学」に基づいた食事のこと。食材がもつ力で体を整え、健康を維持することを目的とします。薬膳の発祥地である中国には、ナツメやクコなどの生薬を使った料理が多くありますが、和食薬膳教室を主催されている山田さんは“昔ながらの和食が、日本人にとって薬になる料理である=薬膳である”と考えているそう。
「普段口にしている食材が、薬と同じように働くと考えていただいて良いと思います。すべての食材には薬効があり、食べると体に何らかの影響を与えます。こうした食材の働きを理解し、それぞれを組み合わせ、自分の体を整えていく料理が薬膳です。その組み合わせは、季節や自分の体質、体調に合わせて変えることができ、うまく組み合わせると、薬効をより効率良く取り入れられるようになります」
食材の働きを考え、組み合わせる……と聞くと、なんだか難しそうに感じられますが、山田さんによると、私たちがすでに日常に取り入れている食材の組み合わせのなかにも薬膳と呼べるものはあるようです。
「例えば、さんまのような焼き魚に大根おろしとすだちを乗せるだけでも薬膳と呼べるでしょう。タンパク質である魚は消化に時間がかかるので、腸の中で腐敗しやすいのですが、そこに殺菌作用のある大根が加わると、腐敗を抑えることができます。さらにすだちが栄養素の吸収も促します。大根をすりおろすのが面倒な場合は、さんまに七味をひと振りするだけでも良いでしょう。
他の和食を例に出すと、きんぴらごぼうに血の巡りを良くする唐辛子をプラスしたり、納豆に殺菌作用のあるからしやねぎを加えたりするのも薬膳と言えるでしょう。和食で使われる薬味にはそれぞれ意味があるので、それらを省略せずに取り入れるだけでも、普段の食事が簡単に薬膳料理に変わるということです」
和食薬膳で体をいたわる
“立冬レシピ”3選
ここからは、スーパーマーケットで手軽に購入できる食材で作る立冬に食したい和食薬膳を3つ教えていただいたので、レシピとともに解説いただきます。
「今回ご紹介するのは、冷えた体を温め元気にしてくれる献立です。どの料理にも胃腸を冷やしてしまう“生もの”は使わず、食材はすべてじっくりと加熱しています。消化力の弱い日本人の体には、和食が一番合うと思います」
・「さつまいもと鶏の酒粕味噌煮」
・「根菜の利休汁」
・「鮭ねぎごはん」
冷え性の人に!「さつまいもと鶏の酒粕味噌煮」
大腸の働きを良くするさつまいもと体を温める鶏肉を酒粕と味噌で煮込んだ料理で、便秘がちの人や冷え性の人におすすめです。酒粕を加えると料理にコクが出てうまみが増します。 「栄養価が高く、体を元気にしてくれるさつまいもと、元気をつけながら体も温めてくれる鶏肉は、立冬の時季にぴったりの組み合わせ。にんにくや酒粕など体を温める調味料を加えて10分ほど煮込むので、より体がポカポカします」
【材料(2人分)】
・鶏もも肉(唐揚げ用)……250g
・さつまいも……1本(約200g)
・しいたけ……3枚
・春菊……2〜3本
・にんにく……1片
・米油など炒め油……大さじ1
・酒粕……大さじ1
・酒……大さじ2
・水……150ml
・味噌……大さじ1/2
・塩……ひとつまみ
【作り方】
1.鶏もも肉は、常温に戻しておく。さつまいも、しいたけ、春菊、にんにくを切る。
さつまいもは1cmの輪切りにします。さつまいもが太い場合は半月切りに。
しいたけは石づきを取ってから、縦半分に切ります。
春菊は4~5cmの長さに切ります。
にんにくは皮をむいて、薄切りにします。
2.鍋を中火にかけ、油をひいて、鶏肉の皮めを下にして並べる。
「鶏肉は皮をカリッと焼きたいので、皮めを下にします」
3. 鶏肉の様子を見ながら3~5分焼き、香ばしい焼き色がついたら裏返す。
「鶏肉がしっかり焼けると、鍋から離れやすくなるので、そうなるまで待ってからひっくり返しましょう」
4.鶏肉を鍋のはしに寄せて、できたスペースにさつまいもを入れる。あまり動かさずに焼き色がつくまで焼く。
「さつまいもは、両面に焼き色がつくまで焼きます」
5.しいたけ、にんにく、酒粕を加えてさらに炒める。
「しいたけは、焼き色がつくほどには炒めなくて大丈夫です。酒粕特有のにおいは炒めることで消えるのでご安心を。酒粕が料理にコクを出してくれます」
6.酒と水を加えて蓋をし、沸いたら弱火にして10分ほど煮込む。味噌を溶き入れ、塩で味を調える。
「初めは中火で、沸騰したら弱火にします。味噌は少量の煮汁を加えてのばし、やわらかくしてから鍋に入れたほうが、しっかり混ざります」
7.春菊を加えたら火を止める。
「春菊は煮込むとしなっとしてしまうので、鍋の余熱を使って調理しましょう」
便秘がちな人に!「根菜の利休汁」
ごまがたっぷり入った、根菜の味噌汁です。ごまは腸の中から体を潤すので、便秘がちな人におすすめです。肺が乾燥して咳が出る人にも。
「腸内環境を整える根菜がたっぷり。にんじんには、体を温めるだけでなく、肌を潤したり、血を補ったりする働きがあります。しょうがは加熱すると、内臓を温める力に。ごぼうは、腎臓の働きが弱まりがちな冬に摂りたい食材です」
【材料(2人分)】
・にんじん……30g
・大根……100g
・ごぼう……20g(5cm)
・しょうが……1/3かけ
・こんにゃく……50g
・白炒りごま……大さじ1/2
・ごま油など炒め油……大さじ1
・だし汁……250ml
・白練りごま……大さじ1/2
・味噌……大さじ1-1/2
・しょうゆ……少々
【作り方】
1.にんじん、大根、ごぼう、しょうがを切る。
にんじんは半月切り、大根はいちょう切りにします。「野菜の皮は剥きません。うまみや栄養は皮と実の間にもっとも多く含まれており、薬膳の考え方ではそこが特に効能が高いとされます」
ごぼうはささがきにします。「ごぼうのアクは炒めれば取れるので、わざわざ水にはさらしません」
しょうがは薄切りにしてから、せん切りにします。
2.こんにゃくを手またはスプーンなどでちぎって、塩少々(分量外)でもんでから下茹でする。
「アクを取るために塩をもみ込んでから、沸騰したお湯で2~3分茹でます」
3.白炒りごまはすり鉢でする。
「ごまは、そのままよりもすったほうが香りが立ち、料理全体をより香り高くしてくれます」
4.鍋を中火にかけてごま油を入れ、ごぼう、にんじん、大根を炒める。
「ごぼうはしっかり炒めたほうが、アクが抜けてうまみが増します。反対ににんじんと大根は、さっと炒めるだけでじゅうぶんです」
5.しょうがを入れた後、こんにゃくを入れて炒める。
6.だし汁と練りごまを加えて蓋をし、沸いたら弱火にして7~8分煮る。味噌を溶き入れ、しょうゆで味を調える。
「味噌は、煮汁を少し加えてのばしやわらかくしてから鍋に入れます」
7. 器に盛り、ごまをたっぷりふりかける。
「お好みで、七味唐辛子をふってもおいしくいただけます」
貧血の人に!「鮭ねぎごはん」
こんがり焼いた鮭とねぎの混ぜご飯は、体を温める食材を組み合わせているので、冬にぴったり。血を補って血行も良くしてくれるので、貧血や冷え性の人に。
「鮭は体を温めて元気をつけたり、血を補ったりできる本当に良い食材です。ねぎには、体の表面を温めて汗をかかせ、熱を発散させる作用があります。立冬を過ぎると気温が下がり、血の巡りが悪くなって体が冷えるので、こういった料理で調子を整えましょう」
【材料(作りやすい量2〜3人分)】
・鮭の切り身……1切れ
・塩……適量
・長ねぎ……1/3本(20cm)
・ご飯……2合分
【作り方】
1. 鮭に塩を少々をふってすりこみ10分おく。水気が出たらキッチンペーパーで拭き取る。
「鮭の臭みを取って下味をつけるために塩をふります。10分置くことで鮭に塩味がしみ込み、ご飯にほどよい塩味が加わります」
2.長ねぎを1~2cmの長さに切る。
「大きめに切るとグリルで焼きやすくなり、食感も楽しめます。なお薬膳では、長ねぎは白い部分が生薬となっており、薬効が高いと言われます」
3.グリルに鮭とねぎを並べ、塩をひとつまみふって焼く。(鮭は10分、長ねぎは5~6分)
「鮭と長ねぎは一緒に焼き始め、後ほど鮭を取り出します。香ばしい焼き色がつくまで焼きましょう。グリルがない場合は、フライパンに油をひいて焼いてもかまいません」
4.鮭の粗熱が取れたら、骨をとって身をほぐす。
「鮭の皮には栄養が豊富に含まれているので、皮ごとほぐして使いましょう。しっかりと焼けていれば、次の工程でご飯に混ぜ込むと良いでしょう」
5.ご飯に長ねぎと鮭を加えて、さっと混ぜ合わせる。10分ほど蒸らして完成。
「好みで塩や炒りごまをふっても、おいしくいただけます」
体質を知ると取り入れるべき食材がわかる
最後に、自分に合った薬膳料理を作るためのコツを、山田さんにお聞きしました。
「自分の体質を知ると、自分に合った薬膳を作りやすくなります。まずは、自分が冷え体質なのか、熱を持つ体質なのかを知りましょう。日本人は体が冷えやすく、胃腸と腎臓が弱い人が多いです。熱を持つ体質の人は、汗をかきやすかったり、常に体がカッカとしていたりします。食材には体を温めるもの、体を冷やすもの、どちらにも偏らないものがあるので、自分の体質を知ったうえで組み合わせて料理に取り入れましょう」
冷え体質であれば、野菜の摂り方にも気を付けた方が良い、と山田さんは言います。
「和食に出てくる野菜は、茹でたり、煮たりして食べることが多いです。生野菜を取り入れたサラダ文化は新しいもの。生野菜のサラダを食べると体が冷えてしまうので、冷え体質の方には温野菜がおすすめです」
日常的に手に入る食材を使いながら、体のためになる料理を作ると捉えると、薬膳はさほど難しいものではありません。食べ方に迷ったら、日本人はどのような和食を食べてきたかを思い出すと良いそう。免疫力を上げたいこの時期から、さっそく薬膳を取り入れてみましょう。
Profile
薬膳・発酵料理研究家 / 山田奈美
「食べごと研究所」主宰。「東京薬膳研究所」の武鈴子氏に師事。東洋医学や薬膳理論、食養生について学ぶ。雑誌やWebなどで発酵食や薬膳レシピの提案や解説を行うほか、神奈川県葉山町の自宅兼アトリエ「古家1681」で和食薬膳教室なども開催。日本の食文化を継承する活動を行っている。『体が整うごはん』『砂糖なしおやつ』など著書多数。
「食べごと研究所」