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2017/5/8 17:00

Galaxy S8/S8+の画面比率はなぜ「18.5:9」なのか? 開発者の声からそのヒミツを大解剖!

サムスン電子は3月末、フラッグシップモデル「Galaxy S8/S8+」を発表し、グローバルでは4月21日に発売しました。同機は18.5:9という新しい画面比率のディスプレイを採用。ベゼルを感じさせないデザインは、一度手にすれば多くの人を虜にすること間違いなしです。

 

さらに周辺機器が豊富なこともポイント。VR用途で活用できるのはもちろん、専用のステーションに設置すれば簡易PCにもなるというハイテクぶり。日本国内での発売については、いまだに詳細が明かされていないものの、次期ラインナップ注目の一台として期待は高まります。

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↑「Galaxy S8」と「Galaxy S8+」

 

今回、筆者は韓国にあるサムスン電子本社で、Galaxy S8/S8+の開発陣にグループインタビューをする機会を得ました。本記事では、開発者のコメントを交えながら、同機の特徴を改めてご紹介したいと思います。

 

ホームボタンを廃止するという決断

Galaxy S8/S8+の最大の特徴は、そのデザインにあります。従来モデルと比べると、前面下部にあったホームボタンが無くなりました。スリムさを維持したまま、ディスプレイは上下に約400ピクセル分伸びており、全体が画面であると錯覚しそうになるほどです。

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↑グローバル商品企画グループ シニアプロフェッショナルのチェ・スンミンさん(左)とヤン・ヒョンヨンさん(右)

 

グローバル商品企画グループのチェ・スンミンさんは、ホームボタンを無くしたことについて、「ホームボタンはGalaxyの象徴的な部分でもあったので、内部からも外部からも様々な意見がありました。特に悩んだのは、ユーザー様がどういう風に受け止めるのか、というポイント。それを踏まえ、ホームボタンを廃止する代わりに感圧センサーを搭載することで、いままで通りの使用感を経験できるようにしました」と述べています。

 

ちなみに、感圧センサーを配置したディスプレイ上に指紋センサーはありません。その代わり、虹彩認証によるロック解除が利用できるので、不便さは感じないでしょう。

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↑ホームボタンはソフトウェアになったが、押すとブルッと反応する。指紋センサーはカメラ横へ

 

また、指紋センサーもしっかり搭載していて、背面カメラの横に位置します。一部のユーザーからは「間違えてカメラレンズを触ってしまう」という声もあるようですが、ここは従来機では心拍数センサーが搭載されていた場所。「Galaxyユーザーは指を当て慣れているだろう」という配慮でこの位置が選択されたようです。

 

画面サイズはなぜ「18.5:9」になったのか?

画面が縦長になった理由については、「スマホの利用シーンを考えたとき、ブラウザやSNSのように上下にスクロールする場面が多い。縦長のほうがより多くの情報を表示するのに適しています」ということが挙げられました。また、「大きいディスプレイでありながらコンパクトでもあってほしい」という市場ニーズも踏まえているとチェ・スンミン氏は言います。

 

また、同氏曰く、「見た目を変えるだけでなく、ディスプレイにコンテンツをフルで表示させる必要があった」とのこと。「18.5:9」という新しい画面アスペクト比は、映画コンテンツのトレンドにも関係しています。

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↑スマホで映画を見るなら、縦長の画面は大活躍!

 

従来の「16:9」という比率は、一般的なビデオコンテンツのサイズを想定したもの。一方、最近のハリウッド映画は「2.35:1」のシネマスコープサイズが主流で、「21:9」のウルトラワイド液晶モニタのほうが黒帯を少なく表示できます。Galaxy S8/S8+では、ちょうど両社の間を取ることによって、様々な画面をより大きく表示できるようにしているのです。

 

デスクトップパソコンがいらなくなる時代がくる?

冒頭でも述べたように、Galaxy S8/S8+は周辺機器連携にも注目しておきたいところ。なかでも専用のドックにセットすることでデスクトップパソコンのように活用できる「Samsung DeX」機能には、食指が動く人も多いはず。インタビュー会場ではサービスプロダクトマネジメントグループのキム・ミンチョルさんがデモを交えて同機能を解説してくれました。

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↑サービスPMグループ シニアプロフェッショナルのキム・ミンチョルさん

 

まず、Galaxy S8/S8+を「DeX Station(デックスステーション)」という専用のドックにセットします。DeX Stationには2つのUSBポート、HDMIスロット、LANアダプタ、充電用USB Type-Cソケットがあり、ディスプレイやマウス、キーボードと接続可能。端末をセットすれば、接続したディスプレイにDeXの画面が自動で表示されます。

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↑韓国のショップで展示されていたSamsung DeXのデモ。デスクトップ画面で3D描写の多いゲームアプリを起動している

 

基本構成はWindowsのデスクトップにそっくりですが、Androidをベースにしているため、ファイルやフォルダが画面上に直接配置できません。どちらかというとChromebookに搭載されている「Chrome OS」に近いでしょう。

 

類似の機能としてWindows 10 Mobileの「Continuum(コンティニュアム)」を思い出した人も多いはず。しかし、複数のアプリを同時に立ち上げられることや、アプリのウィンドウをリサイズできること、端末着脱時のスムーズさ、などを考慮するとSamsung DeXのほうが完成度は高いと言えます。

 

Samsung DeX ではPlayストア上のアプリはほとんど利用できるので、もちろんMS Officeのアプリも使用可能。「未来のパソコンはきっとこうなっていくのかな」という期待感を覚えました。ちなみに、キム・ミンチョル氏によると「リサイズに対応するのはAndroid 7.0のマルチウィンドウに対応しているアプリ」とのことでした。

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↑DeX Station自体は携帯もできるサイズ感だが、キーボードやディスプレイは別途必要

 

また、同氏はSamsung DeXについて「市場調査をした結果、様々な人がパソコン、スマホ、タブレットなど複数の端末を持っていることが判明しました。こうした負担を軽減できるのではないかと思っています」と述べています。

 

同ステーションは基本的には別売りとなりますが、韓国では「S8+の128GBモデルを予約購入した方にはDeX Stationのプレゼントを実施した」そうです。

 

革新的なデザインの源泉はいわゆる「ミニマリズム」にあり

さて、サムスンでは世界各国にあるデザインセンターと一緒に、社会的な現象やデザインのトレンドについて研究しているとのこと。製品デザイン1グループのキム・ユンジンさんは、S8/S8+のデザインを作り上げるうえで注目したトレンドについて「モノを持たないということ」であったと言います。また「情報技術の発達によって、空間やビジネス、ファッション、産業などさまざまな境界線が無くなってきており、特定の性別や人種を分けられない」という背景もあります。

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↑製品デザイン1グループ のキム・ユンジンさん(左)とバン・ヘジンさん(右)

 

Galaxy S8/S8+のデザインでは、「スマートフォンのディスプレイデバイスである」という前提で本質を追求しています。ディスプレイも手掛けるサムスンらしいアプローチですね。特定の要素や機能を付加するわけでもなく、誰にとっても使いやすい、手に馴染むデザインが心がけられています。

 

特に「手に馴染む」という条件については、100台以上のプロトタイプを作成し、目を閉じた状態でじっくりと選んだとのこと。ガラスとメタルの境界線が引っかかることがないようにも配慮されています。

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↑背面のカーブは、端末を持つときに手にフィット

 

視覚的には、左右の曲面に注目しがちですが、ディスプレイの上部にあるカメラセンサーの類が目立たなくなっていることも重要なポイント。開発陣はこの部分について「技術的には必要な要素だが、ユーザーは認知する必要がないものと考えた」と述べています。ベゼルがブラックで統一されていることは、こういった理由があるようです。

 

カラーバリエーションは、「ミッドナイトブラック」「オーキッドグレイ」「コーラルブルー」「アークテックシルバー」「メイプルゴールド」の5色を展開します。

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↑左から「コーラルブルー」「メイプルゴールド」「オーキッドグレイ」「アークテックシルバー」「ミッドナイトブラック」

 

注目は「オーキッドグレイ」。キム・ユンジンさんは、この色について「落ち着いたグレーにトレンディなパープル加えた色を実現。今後はサムスンのユニークアイデンティティなカラーになっていくのではないかと思います。女性が憧れるような女性性、トレンディな男性性を代弁するようなカラーになるのではないでしょうか」と述べています。

 

Gear VRではコントローラーが使えるように

さて、Galaxyといえば「Gear VR」も気になるところ。今回は、S8/S8+用のゴーグルとして新モデルも発売されています。従来のGear VRは白でしたが、新モデルではオーキッドグレイに合わせたカラーが採用されています。

 

機能面で変わったのは、コントローラーが付属すること。従来モデルではHMDの側面にあるタッチパッドで操作するため、長時間操作すると手や首が疲れるデメリットがありました。新モデルではコントローラーを採用することで、こうした問題が解消され、より自由度が増しています。

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↑コントローラーは片手に収まるコンパクトサイズ

 

筆者も現地の店頭で「的にレーザーを当てる」ようなゲームアプリを試しましたが、コントローラーを使うことで、左右に大きく首を振る必要がなく、快適さが増していることを実感しました。

 

既存アプリの対応については、ウェアラブルBizグループのキム・ミンギュさんによると、「ボタンなどの操作は既存のアプリケーションでも対応。しかし、方向の連動なども対応させるには新しくアプリをビルドする必要があります」とのことでした。

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↑ウェアラブルBizグループ シニアプロフェッショナルのキム・ミンギュさん

 

Gear 360は持ち運びやすいコンパクトサイズに

360度カメラの「Gear 360」はコンパクトになりました。従来はカメラ部と三脚部がセパレートしていましたが、新モデルでは一体化しています。また、GalaxyだけでなくiOSにも対応しました。

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↑新しいGear 360

 

ウェアラブルBizグループのパク・ウンギョンさんによれば、「FacebookなどのSNSが360度放送に対応したことで、メディアだけでなく若者も気軽に発信できるようになりました。些細なことまで共有したい世代にとって新しいコミュニケーションとして使われています」とのこと。また、「臨場感のある伝わり方に加え、リアルタイムにリアクションを得られることが新しい楽しさに繋がります」と、ライブストリーミング配信の重要性についても注目していました。

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↑ウェアラブルBizグループ シニアプロフェッショナルのパク・ウンギョンさん

 

なお、実際に360度のライブストリーミングを行うと、7~10秒くらいのレイテンシー(遅延)が発生するとのこと。これは利用するサービスによって異なるそうです。

 

Galaxy S8/S8+には、デザイン、周辺機器ともにチャレンジングな要素がたくさん詰まっていました。1年ぶりのフラグシップモデルとして登場した、サムスン本気の一台は果たして日本でも発売されるのか否か、今後も要注目です!