「週刊GetNavi」Vol.57-2
iOS 11に搭載されるARKitは、なかなか衝撃的な体験を与えてくれる。CGのキャラクターや文字を実際の空間に表示し、しかもそれがほとんどずれない。SFの中に入ったような映像が、自分の持っているiPhoneで実現できるのは、体験してみるとなかなかにインパクトがある。しかも、これが秋に無料で、多数のアプリを伴って世に出るのだから、一般公開になった時のインパクトはかなりのものになると予想できる。
一方で、ARKitが「業界最高のAR技術」であり、先行例がすべて不要になる、というようなイメージで語る人もいる。だが、これは明確に間違いだ。
優秀なAR技術としては、Googleの「Tango」やマイクロソフトの「HoloLens」がある。これらに比べ、ARKitは機能的に劣っている。TangoやHoloLensは距離センサーを使い、周囲の状況を“立体”として把握する。しかしARKitは、iPhoneに特別なセンサーを追加することなく高度なARを実現するために、把握するものは床や机、地面などの“平面”に限られている。ほかにもいくつか制約はあり、Tango・HoloLensの方がより複雑なことはできる。また、AR用の技術開発を専業とする企業が提供するフレームワークを使えば、ハイエンド・AndroidスマホでもARKitに近いことはできる。
だがそれでも、ARKitの戦略は現状「最良の選択」であり、当面他を圧倒することだろう。理由は、新iPhoneだけでなく、iPhone 6s以降の製品で使えるという汎用性だ。ARKitはTangoやHoloLensほど高度ではないが、iPhoneがすでに搭載しているカメラとモーションセンサーだけで動作する。だから、多くのiPhone・iPadがOSの無料アップデートだけで対応可能になるのだ。
しかも、Appleはどうやら、いつかARKitが実現する日を想定し、iPhone 6s以降で使っているモーションセンサーと、それを制御するコプロセッサーである「M9」を、「普通にスマホに使うだけなら少々オーバースペックなレベル」にしていたようだ。同じレベルの機能のモーションセンサーを搭載したAndroidスマホは少数であり、現状、Androidで実装するとごく一部の機種でしか使えなくなる。そのため、ARKitほど精度を最適化することができず、若干「甘い」作りになる。iPhoneは「同じ仕様のハイエンドスマホ」が大量に市場に出ている。Apple製品の特殊性がARKitの価値に直結しており、「現状最高ではないが、最良のスマホ向けAR環境」を生み出しているのだ。
では、その結果どのようなアプリが登場しうるのか? そうした部分は次回Vol.57-3で解説する。
●Vol.57-3は8月7日(月)公開予定です。