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2018/2/5 17:00

視覚障がい者目線のiPhoneとMac――ブラインドライターがApple製品を使って変化したこと

視覚障がいがある人にとって、iPhoneやMacは使いやすいものなのか?

 

本稿は、iPhoneの持つユニバーサル性を掘り下げるべく、ブラインドライター(※1)として活躍する松田昌美さんにインタビューした記事だ。前回は、iPhoneの「アクセシビリティ」機能の解説および、松田さんにふだんのiPhoneの使い方を聞いた。

 

アクセシビリティとは、画面の文字を読み上げる「ボイスオーバー」やSiriのタイプ入力機能など、視覚や聴覚、身体に障がいがある人をサポートをしてくれる機能。iOSのそのほかの機能と同様、こちらもOSアップデートごとに進化を遂げている。

 

今回は、アクセシビリティの新しい機能を松田さんに使ってもらい、実際の使い勝手を聞いてみた。記事の後半では、iPhoneに限らずMacを含めた、松田さんのApple生活を紹介。こうしたテクノロジーの登場によって、松田さんの生活がどのように変化してきたのか、という点にもフォーカスしたい。

 

※1:視覚に障がいがあるが、聴力を生かして音声をテキスト化する「テープ起こし」のプロ。テープ起こしとは、インタビュー・講演などの発話内容をテキストデータにすること。取材者が記事執筆前に行うのが一般的だが、時間と手間がかかる作業といわれている

 

ボイスオーバーが画像の内容を説明できるようになった

iOS 11では、ボイスオーバーの画像認識が進化した。写真の被写体がなんであるのかを判別し、音声で伝えてくれる。同機能を試すには、同機能をオンにしている状態で写真アプリを起動し、写真を指定した状態で「3本指」でタップを行えばよい。

 

筆者が試したところ、「ハンバーガー」や「太陽」「レシート」などが映った写真をズバリ判別できた。一方で、飲料水の写真を「ヨーグルト」と誤認識する場面も。また、現段階では判別できない被写体も多く、はっきりと認識できる対象は限られている印象だ。

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↑ボイスオーバーで、「ハンバーガー」と判定された写真

 

――松田さんは「ボイスオーバー」の画像認識を使ったことはありますか?

 

ありますよ。以前から「何人写っています」「明るいです」といった情報は教えてくれました。判別できる対象が増えると便利ですね。

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↑松田昌美さん。東京都内在住の31歳。静岡県内の盲学校を卒業後、上京。26歳のときに目の病気が進行して、現在の視力は目の前に出された指の数がわかる程度。ブラインドライターとしてテープ起こし業を行っている。メディア出演はNHK「ハートネットTV」、ウェブメディア「ログミー」など多数。https://peraichi.com/landing_pages/view/blindwriter

 

希望としては、もっと具体的なことを教えてくれるとうれしいです。例えば、手書き文字などを読み上げてくれると便利だなって。そうすると郵便物などもiPhoneで読めて日常生活がラクになります。

 

ちなみに筆者は手持ちの「iPhone X」でボイスオーバーを試したが、同モデルではスワイプアップ操作が別の操作に割り当てられるため、iPhone Xの一部操作が行えなくなってしまった。視覚障がいがある人には、ホームボタンがある機種(iPhone 8/8 Plusなど)をオススメしたい。

 

「色を反転」に「スマート」モードが非常にいい

iOSでは、色覚異常をはじめとした視覚障がいに対するサポートとして、ディスプレイの調整が行えるよう。こちらもアクセシビリティの設定項目から、カスタマイズ可能。具体的には、ホワイトポイントを下げたり、グレースケールを有効にしたり、カラーフィルタを選択したりすることができる。なかでも、「色を反転(スマート)」という設定が追加された点には注目したい。

 

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↑「色を反転(クラシック)」(左)と「色を反転(スマート)」(右)の違い

 

――そもそも「色を反転」させるのはどういったメリットがありますか?

 

ウェブサイトなどで、白地の背景が広いと眩しすぎると感じてしまう人がいるんです。私も視力があったときは、そうでした。例えるなら、フラッシュをずっと直視している感じでしょうか、目で文字を追えなくなるんですよ。かといって、バックライトを暗くしてしまうと見えなくなってしまいます。「色を反転」を有効にすると、白と黒が入れ替わるので、文字の背景が黒地になって、反対に文字が白くなる。これで、まぶしさを低減できるわけです。

 

――「色を反転(スマート)」だと、色を反転させても「画像」や「メディア」などの色が変わらないようになりました。

 

それは良いですね! いままでの「色を反転」だと、画像がすべて“レントゲン写真”みたいになっていましたから。写真が“ガーン”って感じになっていて気持ち悪くて……(笑)。あとは、ピンクのハートの絵文字を黒にしないで欲しい、と思うこともありましたから。

 

筆者が検証したところ、新設定だとテキストなどの色を反転しつつ、写真などは自然な色味に保てた。こうした特徴は、「写真」などの標準アプリに加え、「YouTube」などの動画コンテンツでも対応。しかし、Googleの画像検索画面などでは反映されなかった。どうやら、アプリによってまだ差があるようだ。

 

松田さんはどうやって「ブラインドライター」をしているのか?

取材の内容を録音した音源データから、発言をテキストに起こしていく「テープ起こし」という作業。ブラインドライターである松田さんはApple製品を活用しながら、こうした作業をこなしている。

 

――文字起こしではApple製品を使っているんですか?

 

PCでは、もともとWindowsを使っていて、最近Macに変えたんです。実は、テープ起こしの作業は、マシンを酷使してしまうんです。壊れたときに「あっ、依頼の納期が間に合わない!」といった経験も。いまからWindows 10のPCを買って専用ソフトを用意してると、間に合わないし、金額もかかるし……そんなときにAppleの店員さんが「ボイスオーバー」が使えるよって勧めてくれたんです。

 

――実際にMacにしたときはどうでしたか?

 

手に持った時に、「なんじゃこりゃ」と思いました。当時使っていた旧マシンよりもすごく軽くて、これならどこにでも持っていけるな、と。すごい衝撃でした。キーボードの配置が違ったので最初は動揺しましたが、カスタマイズしてもらってなんとかなりました。キーボードタッチが軽いので、肩が凝らなくなったのは良い点ですね。打鍵音も良くて、Mac好きだな、ってなりましたよ。オシャレなのは大事だなって。

 

あとはMacのサポートがとても丁寧でした。普段ボイスオーバーを使っていることを伝えて、「こういうことがしたい」と伝えて。設定などはリモート操作で助けてもらったりしました。

 

――Macの改善して欲しいところはありますか?

 

テープ起こしが快適にできるアプリケーションが欲しいですね。いまある不便な部分を解消しようと、現状では、色々ジェスチャー機能(※2)を駆使して、なんとか使っています。そもそも、Macを操作している視覚障がい者ってあまりいないんですよ。だから各所でアピールしてます。「Macとボイスオーバーをつかうと、こういうことができるんだぜ!」って。

※2:Macのトラックパッドはタップ、スワイプ、ピンチしたり、1 本指または 2 本指を広げたりして、便利な操作(拡大・縮小・ウェブページの遷移など様々)が可能。

 

――iPhone、Macと、Apple製品ファンなんですね。

 

使い勝手とは別で、どうしてもMacを使いたい理由があるんです。私、「tenbo」という障がい者ファッションのデザイナーの鶴田能史(つるた たかふみ)さんと友だちで、鶴田さんがMac用のスキンシートを出していて、とてもオシャレなんです。「せっかくだったら、そのシートを貼って、よりスタリッシュ&かわいくなったMacでカフェで仕事したい!」と思って(笑)。プロダクトのデザインが優れているというのは、人の行動を変えようとするパワーがありますよね。

 

あとひとつ言えるのは、Appleから変える気はないので、「お願いだからもうちょっと安くして欲しいー!」ってことですかね(笑)。WindowsのPCに、音声ソフトを別途購入して追加することを考えたら同じぐらいの金額なんですけれども。加えて、ボイスオーバーがもう少しだけ賢くなってくれたら言うことなしです。

 

――そう言えば、Windowsも同時に使っているんですか?

 

いいえ。例えば「ガラケー」と「iPhone」と2台持ちすると、つい慣れているガラケーを使ってしまいますよね。それと同じことをしてしまいそうだったので、あえてWindowsは片づけてしまいました。Macだけにしてしまえば、Macでやらざるを得ない。覚えてしまえば大丈夫です。そこまでしてカフェで仕事したいか!って話ですけどね(笑)。

 

テクノロジーで松田さんの生活はどう変わったか?

――iPhoneやMacと出会ったことで、生活はどんな風に変化がありましたか?

 

パソコンを外に持ち出せることになったことは大きいですね。そもそもリンゴが好きなので、あのマークを持ち歩けるのも良い。スタイリッシュでかわいいです。あとこれはAppleさんでは推奨していないと思いますが、カメラ性能がよいので、「拡大読書機」を買わずとも、ある程度iPhoneで済んでしまうんですよ。それが凄く助かるなと――。

 

――「拡大読書機」ってなんですか?

 

簡単に言うと、虫眼鏡のテレビバージョンですかね。iPhoneで撮影して写真をズームすれば、ちょっとしたものなら、小さい文字でも読めてしまうというわけです。

 

――ほかにはどんなことがありますか?

 

ブログもかけるようになりました。HTMLなので、だいたいボイスオーバーで読み上げてくれます。これも助かっています。あとは、ウェブ版のKindleとか、気軽に本を買って読めるようになりました。これはうれしかったですね。それまでは、高田馬場にある「日本点字図書館」というところに申請しないといけなかったので。雑誌みたいに文字組が複雑だと、なかなか追いかけられないですけれどね。でも、そういったときも、拡大鏡機能を使ってiPhoneから読んでいます。

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↑慣れた手つきでiPhoneの「写真」アプリを操作する松田さん

 

いまは、iPhoneでマップが音声ナビゲーションしてくれれば、視覚障がい者だからといって知らないところにだって行けなくもない。もし住所がわかれば、どこそこのコーヒーショップにだって行けるようになった。そのうち視覚障がい者でも安全にクルマに乗れるような社会が実現するんじゃないかって、いまから期待してしまう――、松田さんはこう述べる。

 

もちろんテクノロジーは完全ではない。困ったら人に尋ねる必要はまだあるだろう。しかし、じゃあ「点字ブロックあったら、どこでもいけるのか?」というとそうでもない。それと同じだ。

 

松田さんはiPhoneやMacに出会って、いままで制約があってできなかったことができるようになった。そして、挑戦しようとする姿勢も芽生えた。テクノロジーの発展は、私たちを便利にしてくれるのはもちろん、新しい一歩を踏み出す後押しをしてくれるのだ。

 

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