Vol.80-2
iPadはアップルにとって、いまどのような存在になっているのだろうか。2010年の春に登場した後、タブレットの代名詞となったiPadだが、そのビジネス状況がこれまで順風満帆だったか、というとそうではない。2015年以降、タブレット市場は全体的に見ると伸び悩んでいる。理由はいくつもあるのだが、端的に言えば、「スマートフォンやPCのように必須の存在ではない」という点が大きい。スマホはすべての人にとって必須のものだし、PCも仕事をするなら欠かせない存在だ。これに対して、タブレットは便利な道具だが、現状、なくても生きていける。しかも、ハードウェアの性能がなかなか陳腐化しないので、買い替え需要もスマホほど旺盛ではない。結果として、販売数を一定水準からなかなか伸ばせずにいたのである。Googleは今年の6月に、同社製タブレット製品のページを閉じた。実質的なタブレット市場からの撤退である。
そのような状況のなかで需要を拡大するには2つの方向性がある。ひとつは、とにかく低価格化して裾野を広げる方法。Amazonが「Fireタブレット」で採ったのはこちらである。だが、低価格製品は利益率が低い。Googleも一時は低価格タブレットでシェアを確保したが、利益率の低さに音を上げ、高価格路線にシフトした。低価格市場に残っているのは、価格戦略に強い中国企業と、サービスや物販で利益を得ているAmazonだけだ。ハードウェアの販売で利益を得るアップルにとっては厳しい。
となると、採るべきはもう一つの方法だ。それは、ハードウェアの魅力を高め、PCとは違う個人向けコンピュータとしての価値を高めたうえで、ニーズを喚起していくというもの。2015年に「iPad Pro」を発売し、それに伴って精度の高いペンである「Apple Pencil」導入して以降、アップルが強化しているのは明らかにこちらの方向性である。
高価なペンタブレットに匹敵する精度と反応速度を持つApple Pencilを用意し、性能も高めにし、プロ・アマ両方のアーティストが使えるものにする。カメラとペンの存在は、教育用途などにも効く。「超低価格」とはいえないが、同じことができるPCよりはずっと安価で軽い。
そうやって、「スマホやPCでなくiPadを選んでもらう理由はなにか」を、アップルはこの4年間積み上げてきた。特に昨年以降は、この戦略を加速しており、iPadの販売数量も上向いている。
一方で、「にもかかわらず、PCと同じことをしようとすると面倒な点が多い」というのが、iPadの評価だった。「できない」という評価は間違っているが、PCと同じことをするためには追加でアプリを入れ、独特の操作を覚えなければならない。これがかなり面倒でわかりにくかったのは事実だろう。本来、2017年に登場した「iOS 11」では、iPadがPC的になることが期待されていたのだが、実際には不満が残る部分が多かった。iPadOS 13は、2017年にできていなかったことを完成させたOSであり、「PC的に使う」という課題について、ようやくひとつの到達点に達した、といえるものなのだ。
では、iPadOS 13の改善点とはどのようなものなのか? そのあたりは次回のVol.80-3で解説する。
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