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2019/7/25 21:30

「5G」にはスマホや通信よりも、あなたの「手作業の効率化」が期待できそうなのです

「5Gの時代が来る」と聞いて、まずスマートフォンの通信が速くなるというイメージを浮かべる人は多いのではないでしょうか。確かに、これは5Gの一つの側面を捉えているという意味で、決して間違いではありません。しかし、5G時代に入る恩恵はスマートフォン単体だけに限らず、むしろスマートフォン以外に注目した方が面白いんです。今回は代表的なテーマとして「IoT」に注目してみましょう。

 

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IoTはどんな恩恵をもたらすのか?

IoTとは、ご存知の通り、「Internet of Things:モノのインターネット」を意味する言葉。元々、通信といえば、パソコンやスマートフォンなどのコンピューター同士が行うものでしたが、すでにこれが変わってきている現状があります。

 

今までコンピューターではなかった何か——例えば、「扉」にセンサーと電源を装着して、インターネットに接続してみると仮定します。このセンサーから送られたデータにより、何時に何回くらいその扉が開閉したのかという情報を得られるでしょう。コンピューターではない”モノ”がインターネットに繋がるわけです。すでにこうしたIoTは存在していますが、5Gの時代になることで、こうした世界観がもっと広まると考えられています。

 

「IoT」という難しい用語を聞くとベルトコンベアがぐるぐると動いている工場のようなものを想像しがちですが、決してそうではないのです。むしろ、これまで人力で取り組むしかなかったアナログ感満載な現場作業が、センサーと通信によって効率化される世界観こそ、多くの人の目に新鮮に映るはず。

↑第2回 5G/IoT通信展、会場の様子

 

例えば、7月中旬に開催された第2回 5G/IoT通信展では、アイ・サイナップ株式会社が「ミテテル」シリーズという監視用のセンサー機器で、わかりやすいユースケースを展示をしていました。

鳥獣被害対策わな監視端末である「ミテテル・トラップ」は、ハンターが設置する鳥獣向けの罠の動作を検知して、スマートフォンのアプリ上にそれを通知します。従来は広い山地を移動して、人の手で一つ一つ目視で確認しなくてはいけなかった作業ですが、センサーの活用によって、人の作業を最小限にできます。

 

↑アイ・サナップ社が展示していた「ミテテル・トラップ」

 

また、「ミテテル傾斜計」では、杭にセンサーを取り付けたもので、崖崩れや地盤の傾斜を感知できます。従来、鉄道沿線の崖崩れなどが起きた箇所を確認するのは目視に頼らざるを得ませんでしたが、センサーによってポイントを特定できるほか、目視で気づきづらい場所の変化も察知できるようになると言います。

↑アイ・サナップ社が展示していた「ミテテル傾斜計」(写真中央にある杭にデバイスが付属したもの)

 

これらのIoT機器のポイントは、乾電池で動作し、1年くらい放置していても動き続けるため、管理コストが低いことです。また、端末自体も比較的安価なので、大量のデバイスを設置しやすいことも特長です。

 

IoTで覚えておくキーワードは「LPWA」

さて、IoTに関して覚えておきたいキーワードの一つに「LPWA」があります。これは、「Low Power Wide Area」の略称で、消費電力を抑えて遠距離通信を実現するネットワークのことです。皆さんご存知の「Bluetooth」が主に数十m単位の近距離通信を目的としたものであるのに対して、LPWAでは数十km程度の遠距離通信まで想定されています。「Low-Power Wide-Area Network」の略称としてLPWANと呼ばれることもあります。

 

そして、このLPWAには、策定した団体や性質の違ういくつかの無線規格が存在します。IBM系の「LoRaWAN」、仏Sigfox社による「Sigfox」、LTEカテゴリの一つである「LTE Cat.M1」や「NB-IoT」などなど。ソリューションによって活用する仕様が異なっていて、例えば先のアイ・サイナップのミテテルシリーズでは、「Sigfox」が活用されています。

 

ちなみに、LPWAの通信規格は、免許が不要だが限られた敷地でしか使えない「アンライセンス系」と免許が必要な「ライセンス系」に分かれています。先の例では、LoRaWANとSigfoxはアンライセンス系に相当します。

↑ミテテルシリーズでは、富士通が開発するSigfox対応のセンサーが活用されている

 

こうしたIoT向けの通信回線は、スマートフォンで使用するネットワークと比べると非常に安価です。例えば、KDDIが展開する「KDDI IoTコネクトLPWA」なら1回線当たり月額40円(税抜)〜とされています。

 

5GになるとIoTの何がかわる?

さて、LPWAの規格にも「LTE」の文字があるように、従来でもIoT向けの利用がなかったわけではありません。しかし、5Gになると接続できる端末の数の桁が変わるという大きな変化が待っています。

 

5Gでは1㎢あたり100万台の機器を接続できるようになるとされており、これは4G LTE時代の約100倍。要するにいままでネットワークの限界の問題で実現できなかったようなセンサーの大量設置もできるようになるわけです。

 

「ローカル5G」という概念も

ちなみに、最近「ローカル5G」というキーワードも見かけることが多くなりました。これは要するに、大手通信キャリアでなくても、免許制で5Gの電波が使えるようになるというもの。総務省では、2019年9~10月頃には制度整備を終え、免許申請を受け付けられるようにすると提言しています。

 

すでにNECなどは、こうしたローカル5Gのネットワークを構築するためのコンサルティング事業を見据えています。ただ、具体的な帯域利用のルールはまだ定まっていないため、具体的に何がどうなるのかはまだまだ分からない段階です。

 

こうしたローカル5Gが実現すると、企業や団体は通信キャリアを介さずに独自の無線ネットワークを構築できると想定されています。導入するメリットとしては、インターネットを介さないクローズドなネットワークを構築でき、低遅延なネットワークを実現できること。Wi-Fiとは異なる周波数帯を活用しているので、既存のWi-Fiネットワークとの混線を避けられること、などが大きいようです。

 

ただし、従来のLPWAと比べると、料金も高くなることが想定されるので、カスタマイズ性の柔軟さを求めるような企業などとマッチすると思われます。

 

いよいよ目前に迫った「5G」ですが、注目すべきはスマートフォンの通信速度だけではありません。いままでITが関係せず、汗水垂らしていたような作業にも通信が関係することで、仕事を効率化させられるはず。思いも寄らない分野で、ビジネスチャンスが見えてくるかもしれません。

 

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