ビジネスシーンで、いま最もパワーワードと言えるのが“働き方改革”だろう。労働力不足への対策は、さまざまなアプローチがあるが、欠かせない要素のひとつとして挙げられるのが“ITソリューション”である。業務フローを見直して人手がかかっていた作業を自動化したり、テレワークの導入してワークスタイルの自由度を拡げたり、いわゆる“デジタルトランスフォーメーション”が求められているのだ。
今回、NECからリリースされた法人/教育市場向けのパソコンや顔認証ソリューションは、働き方改革の支援をテーマで、テレワークの支援やオフィスワークの利便性が向上しているという。まずは、新たに投入されたパソコンをチェックしていこう。
オフィスワークとモバイルワークの両方を意識したモバイルPC「VersaPro UltraLite」
リリースされたモデルの中でも、最も注目したいのはモバイルPCの「VersaPro UltraLite タイプVG」だ。同製品は、厚さがわずか15.5mmと極薄設計に加えて、約837グラム(LLバッテリー搭載時)という軽量性を備え、モビリティに優れたシリーズ。新モデルでは、CPUを刷新し、メモリー倍増するなど、パフォーマンスを向上しつつも、バッテリー駆動時間は最長約20時間駆動を実現しており、基本性能をシッカリと強化している。また、待望のLTE(SIMフリー)対応も実現し、パフォーマンスもモビリティも大幅に向上されている。モバイルワーカーの生産性向上が期待できる1台だ。
VersaPro UltraLite タイプVGが優れているのはモビリティだけではない。本製品では“Web会議支援ソリューション(Webミーティング機能)”を備えており、テレワークを支援できるという。自宅などから会議へ参加する場合に役立つ「パーソナル会議モード」では、筐体正面に音声出力を集中し、周囲の音を遮ることなく、会議室の音声をユーザーにシッカリと届けてくれる。一方、パソコンの音声を全方向に出力する「マルチユーザー会議モード」も搭載。Web越しに参加しているメンバーの声を会議室全体に伝えることが可能となっている。打ち合わせや会議を離れた場所に居る相手と快適にこなせる仕組みを備えることで、テレワークの不便を解消できるというわけだ。
そのほか、ナローベゼルを採用して、筐体サイズはそのままに、ディスプレイがひと回り大きくなった「VersaPro UltraLite タイプVB」、従来機に比べて1割ほどスリム化をしつつも生体認証に対応した「VersaPro」(A4ノート)シリーズなど、作業効率を向上したり、モビリティが強化されたり、それぞれのモデルで、働き方改革に向けて進化している。
スリムベゼル設計を採用し、従来機と同程度のサイズながら、ディスプレイがひと回り大きくなったVersaPro UltraLite タイプVB(画像左)。処理性能だけではなく、視認性も向上
生体認証技術を突き詰めた「顔認証ソリューション」
ハードウェアに磨きをかける同社だが、働き方改革は、ハードウェアだけで解決できることに限界がある。働き方改革を推進するためのソリューションとして、アプローチしているのが「顔認証ソリューション for オフィス」だ。
NECでは、顔、虹彩、指紋・掌紋、指静脈、声、耳音響の6つの生体認証技術を有するソリューション「Bio-IDiom」を提供しているが、中でも顔認証は利用者の心理的負担が少なく、利便性に優れた認証方法として注力している分野だ。その実力は、米国政府機関による精度評価テストで何度も1位を獲得するなど、抜群の信頼性を誇る。
そして、顔認証技術をオフィス内の認証手段としてカスタマイズしたものが同サービスだ。サービス自体は、従来から提供しているが、今回は“ポータル管理画面”を追加して、管理者の負荷を軽減しているという。顔認証技術が、働き方改革をどのように支援するのか、チェックしていこう。
そもそも「顔認証ソリューション for オフィス」は、同社が提供している顔認証サービス「NeoFace」シリーズを利用したもの。NeoFaceシリーズとは、企業の入退室管理やパソコンのログオンなど、幅広く展開しているサービスで、ハンズフリーで認証ができ、ユーザーの手間を省きつつセキュリティも向上できるメリットを持つ。従来までは、各サービスごとに設定画面があり、管理者は個別にアカウントを管理する仕組みだったが、ポータル管理画面を設けることで、対象のサービスをまとめて管理できるようになった。
また、顔情報の登録方法に、スマホで撮影した画像で写真で登録できる機能“NeoFace 顔登録Webサービス”も追加されている。ユーザー自身が撮影した写真を顔情報として登録できるようになり、より手軽にサービスを利用できるようになったというわけだ。
また、パソコンがユーザーの顔を認識すると、サインインが実行される。パスワードの使い回しや認証キーの紛失などを防ぎ、安全性と利便性の両立を実現。サインイン時の時刻や位置情報も記録できる仕組みで、外出先でも打刻ができるという。
NECのアプローチは、本当の意味での改革となるのか?
モビリティやユーザービリティを向上したパソコンと、導入や運用がしやすくなった顔認証ソリューションの両面から、働き方改革を支援していくのが同社の狙いだろう。
そこで気になってくるのは、同社のアプローチが“働き方改革につながるのか?”である。例えば、会社のパソコンを社外へ持ち出すことが簡単ではない企業は、まだまだ多い。また、会社で残業できなくなったため自宅で作業したという愚痴は良く聞く話だ。
職場の環境や制度を改善し、前述のような問題を解決して、生産性を向上するのが働き方改革であり、そのために有効な手段がデジタルトランスフォーメーションだろう。今回同社がリリースしたパソコンやソリューションは、現状ではそういったアプローチとは、少し異なるような印象がある。
あくまでも著者の個人的な見解だが、デジタルトランスフォーメーションの本質は“スタッフの生産性をいかに向上するか”にあると考えている。対して、同社が提案しているのはまだ“経営者側がコストやスタッフを管理しやすいこと”を追求とした仕組みのように感じる部分もあった。
もちろん“勤務時間”で評価する制度がベースで、デジタルトランスフォーメーションが浸透しはじめたばかりの現段階では、スタッフの実状を把握するために“いつ・どこで・どのように”仕事をしているか詳細なデータを記録する仕組みになるのは仕方ない面もある。「テレワーク時にスタッフがキチンと作業をした証明をするためにも必要」という説明も理解はできる。
とはいえ、それが“生産性の向上につながるか”となると疑問を感じざるを得ない。生産性と勤務時間(労働時間)は常にイコールにはならないからだ。しかし製品の持つテクノロジー、考え方は労働者の側に寄り添えるものと感じた。試行錯誤する同社のオフィスPC、セキュリティシステムから、経営者・労働者ともに“時間”から“成果”に意識を変革するための仕組みが出てくるのを期待して待ちたい。