デジタル
2020/7/8 7:00

【西田宗千佳連載】新型コロナ禍のなかで、苦境のカメラメーカーが飛びつく「ウェブカム化」というニーズ

Vol.92-3

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、ビデオ会議。新型コロナウィルスの流行によって、急速に拡大した新しい働き方の背景を解説する。

 

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の流行は、人々の行動を変えた。外出・遠出といった行為が難しくなり、自宅で楽しめる行為に重きを置く人が増えた。緊急事態宣言が解除され、一見流行が落ちついたように見えるが、いまも「第二の感染拡大期」への警戒は続いており、今年1月までのように「旅行消費」の拡大は難しい状況にある。

 

そんな状況を受けて、家電業界では、2020年前半の「勝ち組」「負け組」がはっきりと現れているという。勝ち組の典型はPCとテレビ、そして電子レンジだ。テレワーク増加でPC需要が増え、巣ごもり需要でテレビの買い替えが進み、家の中で調理する時間が増えたので電子レンジが売れる。とてもわかりやすい図式だ。一方で明確に負け組と言われているのがデジタルカメラだ。旅行だけでなく、入学式・卒業式といった節目の行事も自粛され、そこでのカメラ需要が失われた結果、「外に出れなくてもカメラは買う」という相当なカメラマニア以外には、買い替え・買い増しが進まなかったのである。

 

こうした傾向は早期から予測できたので、カメラメーカーはなんとか対策を考えた。その対策の1つが、「PCとデジカメをつなぎ、ウェブカメラにして会議に使ってもらう」というものだ。

 

配信する動画の画質は、結局のところカメラの画質そのものだ。高性能なカメラをウェブカメラとして使用すれば、単にノイズが減るだけでなく、背景に適度なボケが入り、非常に見やすい映像になるうえ、光の入り方もより自然に表現できる。レンズやセンサーの性能は、PC内蔵のウェブカメラに比べると文字どおり段違いであり、高画質になるに決まっているのだ。

 

ソニー  VLOGCAM ZV-1/実売価格9万9900円/発売中

 

とはいえ、そうした手法に比較的すぐ対応できたメーカーと、そうでないメーカーは分かれた。いち早く対応したのはキヤノンで、その後富士フィルムやニコン、パナソニックなどが続き、6月末現在、ソニーも今後の対応を検討しているという。ソニーの場合、この時期に「VLOGCAM ZV-1」というビデオ会議にも向いたカメラの発売を予定していたことも話題となった。ただし、これはあくまで偶然に近く、COVID-19流行を受けての製品ではないと思われる。

 

こうしたソフトの登場はとても大きな意味があるもので、現在では高性能なデジカメを会議だけでなく、ライブ配信などにも利用可能になった。全体の需要が減退するなか、デジカメの売れ行きを支える機能になれるかといえば、やや厳しいところもあるが、それでも、カメラの用途を増やして「圧倒的な画質こそがカメラの本質」であることを思い出させる効果はあるはずだ。ビデオ会議を続けると実際の会議よりも疲れるといういわゆる「ZOOM疲れ」は、画質の悪さによって相手とのコミュニケーションが阻害されていると感じるからではないか、という説もある。真偽のほどはともかく、画質の良いビデオ会議は確かに快適なのだ。

 

さて、デジカメのこうした用途への展開は、COVID-19によって導かれた部分があるのは間違いない。だが実際には、そのはるか以前から、同じようなニーズに注目し、実践していた人々がいる。カメラメーカーの対応が比較的早いのも、ソニーがこの時期、偶然にもビデオ会議に向いたカメラを発売できたのも、そういう「先を走る人々」がいたからである。

 

ではそういう人々とは誰か? それは次回のウェブ版で解説したい。

 

 

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