コラボから生まれた新しい展示方法
8Kは、テレビ市場で標準となっている4K解像度のさらに4倍という高解像度です。現在はデジタルサイネージなど商業用で使われはじめていますが、今後は市販のテレビでも採用する製品が増えてくる見込みです。
シャープはその8Kを広めるため、業務用途などで活用方法を模索しています。一方で、東京国立博物館や文化財芸術センターでは、文化財に親しんでもらうための取り組みを継続してきました。その両者の思いがひとつになって、今回の「茶碗型コントローラー」の仕組みが生まれたそうです。
文化財にもっと親しんでもらいたいと考えていた東京国立博物館では、実際に手に取って鑑賞してもらう仕組みをシャープに提案。実物のレプリカを手に取りつつ、8Kディスプレイで眺めるという仕組みを実現しました。
シャープはもともと、携帯電話の加速度センサーを利用して操作する仕組みの特許を持っており、「茶碗型コントローラー」にはその仕組みを応用しています。茶碗の中には加速度センサーが仕込まれていて、8Kディスプレイの前面にはカメラを搭載。この2つの組み合わせで、茶碗がどのような位置・角度で持たれているのかを検出し、3Dモデルを同じ形状で表示しています。
8Kディスプレイでの表示に耐えられるよう、茶器の3Dデータは8Kを上回る16Kの解像度で作成されています。実際に作成するにあたって難しかったのは、茶器ならではの色味の再現。色味の見え方は光の当たり具合によっても違うため、展示室の照明環境にあわせて再現されています。
色味の調整は難しかったと語るのはシャープで開発責任者を務めた本山 雅さん。特に青磁の淡くなめらかな輝きが美しいと「青磁茶碗 銘馬蝗絆」のデータを作成したときには「最初に再現したデータでは、光の反射がうまく再現できず、安物茶碗のような見た目になってしまいました。何度も現物と見比べ、改良を重ねて色ツヤを再現しました」と話します。
3Dモデルはシャープのスタッフが何度も展示室に通って実物と見比べて改良を加え、トーハクの陶磁器専門の研究員が監修し、実物の特徴に近づけています。茶碗型コントローラーは人工大理石を削り出しで制作されていて、塗装はないものの、釉薬(ニス)の塗り方や重心の位置まで再現されています。
また、博物館のプロには浮かばなかったアイデアも展示に盛り込まれています。たとえば「大井戸茶碗 有楽井戸」は枇杷色の釉薬で色付けされていますが、その解説の横に果物の「ビワ」のイラストが添えられているのは、シャープのスタッフのアイデアだったといいます。
トーハクで陶磁器専門の主任研究員を務める三笠景子さんは「中身について何を伝えたいか、茶碗のどこを見ていただきたいかを我々がシャープさんにお伝えして、共同で制作しました。表面の色の諧調やひび割れなどを細部まで見ることができ、普段、展示品を手に取っている研究員でも、新たな表情を発見する瞬間がありました」と話していました。
展示は予約制。新たな活用も検討
今回の「8Kで文化財『ふれる・まわせる名茶碗』」の展示は実証実験と位置づけられており、7月29日から8月2日の期間、東京国立博物館の東洋館で行われます。
新型コロナウイルス感染症が流行している状況もあり、文化財活用センターのWebサイトからの完全事前予約制での実施となっています。29日午前時点で、すべての予約スケジュールが埋まっている状況です。
ただし、今回作成した3Dデータや展示の仕組みは、繰り返し活用できるようなものとなっています。現時点では具体的な計画はないものの、今回の展示の反響をみつつ、再展示の実施なども検討するとのこと。なお、3Dデータそのものをインターネットなどで公開するのは、データ容量が大きいことから、現時点では困難としています。
また、シャープでは「レプリカを手に取って8Kディスプレイで鑑賞する」という今回開発した仕組みを「シャープ8Kインタラクティブミュージアム」と名付けて、ほかの美術館・博物館向けに展開する方針を表明しています。古美術品を“手に取って楽しむ”という鑑賞スタイルは、少し先未来の当たり前になっていくのかもしれません。
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