今年は全面オンライン実施となった世界最大のエレクトロニクスショー「CES」に合わせて、パナソニックが最先端の技術と製品を集めたリアルの展示会「CES 2021 Panasonic in Tokyo」を、都内のコーポレートショールームで開催しました。現場で取材したAI(人工知能)に関連するユニークな技術、今年発売を予定する注目の新製品をレポートします。
なお、パナソニックが開催した展示会の模様は特設サイトで1月15日まで紹介されています。
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人の感性に届きはじめたAI技術
振り返れば、これまでの数年間にコンシューマーエレクトロニクス機器が搭載するAI(人工知能)は、画像・音声認識の技術と連携しながら主にユーザーインターフェースの進化を導いてきました。これからのAIに関連するテクノロジーは、人間の感性にもより深くつながって「ココロを癒やす」役割を担うのかもしれません。
パナソニックは今年のCES関連のイベントに「aura meditation」と名付けた「人間のオーラ(生命エネルギーの形のようなもの)」を可視化できるというヒューマンセンシングデバイスのコンセプトを出展しました。
大きなビデオウォールのようなデバイスは、画面の上部にカメラを内蔵しており、デバイスの前に立った人物の顔画像を認識します。顔の部位が作り出す表情や目線、瞬きの頻度など微細な動きをカメラがキャプチャして、パナソニックの先行分野に特化するデザインスタジオ「Future Life Factory」が開発した独自の評価アルゴリズムにかけて「オーラ」の状態を抽象化します。
カメラの前に立ってからわずか20秒前後で解析が完了します。オーラの要素は色・形・質感を組み合わせた288通りのパターンで図形化され、また画面には同時に「ぎらぎら」「心が豊か」「器が大きい」など対象者の人となりを導き出したコメントを表示します。
aura meditationの原型となる技術は既に完成しており、パナソニックがオートモーティブ向けに発売するナビゲーションシステムの「眠気対策」でのアルゴリズム等にも活用されています。今回のようにaura meditationとしてコンセプトを切り出した機会は初めてなのだとか。パナソニックの担当者は「人の心に寄り添うAIテクノロジーとして、将来はマインドフルネスやウェルネスを向上させる方向に役立てる技術も検討を進めている」と話しています。
aura meditationを商品化する際には全身鏡のような“スマートミラー”や、大画面テレビ、PC・スマホなどに組み込まれると気軽に使える気がします。毎朝起きてその人のオーラを測定、元気づけてくれるようなアルゴリズムにブラッシュアップして、アバターなどキャラクターが結果を知らせてくれればいっそう楽しく使えそうです。
テレビといえば、パナソニックのスマート4K有機ELテレビのビエラに、北米市場向けの2021年モデルとして65型・55型のJZ2000シリーズが発表されました。新開発の映像エンジン「HCX Pro AI Processor」が、画面に表示されているコンテンツに合わせた画質・音質の最適化を自動で行うAI画像処理の技術を実現しています。パナソニックをはじめ、日本のテレビメーカーは早くから機械学習モデルを活用した映像の高画質化処理に取り組んでいます。プロセッサやアルゴリズムの名称にあらためて「AI」を付けることで、時流に乗ったマーケティングにも力を入れることが狙いなのかもしれません。とにかく新しいビエラによるシアター体験がどこまで真に迫る進化を遂げたのか楽しみです。
スマートティーポッド「teplo」で美味しいお茶を淹れよう
日本とインド出身のエンジニアが出会って設立したというブランド「teplo(テプロ)」は、スマホと連携して美味しいお茶を自動抽出する「teploティーポット」をCES 2021 Panasonic in Tokyoのイベント会場に出展しました。パナソニックが実験的に展開するスタートアップ支援のプログラム「100BANCH(ヒャクバンチ)」との縁により、今回のイベントで製品を展示する運びになったそうです。teploティーポットは2019年のCESイノベーションアワードも受賞しています。
teploティーポットは電動で動くインフューザー(茶こし器)と、人の指先から脈拍を検知して飲み手の体調や気分を解析するセンサーなどを搭載しています。本機専用のスマホアプリからお茶の種類を選ぶと、アプリに収録されている「美味しいお茶の抽出条件」を多数収録したデータベースを参照しながら、種類に応じて最適な抽出温度・時間・方法を自動設定。約5分間で抽出してくれます。お茶をさらに美味しく飲めるように別売オプションとして「teploグラス」も商品化しました。
アプリに収録されているお茶のデータベースは日本茶、紅茶、中国茶、台湾茶など約20種類。teplo公式茶葉は今後さらに収録アイテムを増やす予定。気分や体調に応じて抽出条件を微調整することで、同じ茶葉が使われていても毎度異なる味わいや香り、カフェイン量のお茶が楽しめるという仕組みにも注目です。AIほど大がかりなテクノロジーではありませんが、生活に彩りを加えてくれる趣味性の高いユニークなスマート家電だと思います。2020年8月から公式サイトで販売中。
画質と機能が強化されたVRグラス。2021年度に商品化予定
2020年のCESにパナソニックが出展したVRグラス(関連ニュース)の試作機に、改良を加えた最新バージョンもCES 2021 Panasonic in Tokyoの会場に展示されました。
新しい試作機はディスプレイに映像が映せない試作機だったため、残念ながら“かけ心地”を確かめることしかできませんでした。筆者も装着してみたところ、昨年の試作機のように重心が前のめりにならず、快適に身に着けられました。装着感がアップした理由を開発担当者に聞いたところ、テンプル(つる)の形状を見直して先端にヒレのような膨らみを設けて、耳の後ろにしっかりとグリップする構造としたことがバランス改善に貢献しているようです。設計を見直す段階では眼鏡メーカーに協力を仰ぎノウハウを採り入れてきたとのこと。
映像は4Kから5Kに解像度がアップ。HDR(ハイ・ダイナミック・レンジ)の高画質映像を表示できます。筆者が昨年の試作機を体験した際には、ほかのVRグラスと比べて群を抜く高画質に圧倒されました。その映像は“ホンモノ以上に3D”していました。今回の試作機はPCやスマホにUSBケーブルで接続して映像を見ることを想定しています。将来は5Gスマホに様々な形で接続して、オンラインコンテンツのストリーミング視聴も高画質に楽しむ用途を視野に入れて開発の方向性を探っているそうです。
新しい試作機が進化したポイントはパネルの画質にとどまらず、6DoF(6 Degrees Of Freedom)対応のモーションセンサーを載せて将来は体感型のVRゲームや映像コンテンツも楽しめるように機能を拡張しています。
テンプル部分には、パナソニックのハイエンドオーディオのブランドであるテクニクスのエンジニアがチューニングを担当したという内蔵スピーカーとアンプが組み込まれています。本機で映画やアニメを再生すると活き活きとした没入感が味わえそうです。
視度調整と瞳孔間の距離調整の機能も設けられているので、ふだんはメガネをかけている人でも裸眼で装着して映像が楽しめる仕様も魅力的です。パナソニックでは2021年度中に本機の商品化を目指しているとのこと。それまでにまた試作機の映像を見る機会があればぜひ報告しようと思います。
Shiftallのネット接続電子メモ「Croqy」
パナソニックのグループ会社であるShiftall(シフトール)から久しぶりに新製品が発表されました。Wi-Fiに接続して手書きのメモが送り合える電子メモ「Croqy(クロッキー)」です。CES 2021 Panasonic in Tokyoの会場に実機が展示されました。発売時期は1月から3月までの間が予定されており、価格は1万9999円(税込)になります。
Croqyはクラウドサービスを介して複数台のCroqy、または専用アプリをインストールしたスマホやタブレット同士で手書きのメッセージを送り合えるコミュニケーション端末です。同社代表取締役CEOの岩佐琢磨氏は「遠く離れて暮らす家族をつなぐコミュニケーションツールとして活用してほしい」と呼びかけています。
ディスプレイにはE-Ink方式の電子ペーパーを採用。本体に内蔵するバッテリーはフル充電の状態から約2か月間、画面を常時オンのまま使えるスタミナを実現しました。CroqyをWi-Fi経由でインターネットにつなぎ、無料で提供されるクラウドサーバーと常に同期しておけば、自動で画面を更新しながら家族からメッセージが届いたときに画面に表示してくれます。使い勝手はとてもシンプル。本体のフレームに天然木材を使ったデザインにも温かみが感じられました。
CESの初回から“皆勤賞”を続けてきたというパナソニックは、異例の全面オンライン開催となったCES 2021にも全力投球で参加。特設サイトでは連日スペシャルセミナーも開催され、CESホームページで公開されたプレスカンファレンスとリアル展示も合わせると、参加社の中で最も充実した情報を発信していたように思います。
コロナ禍の中で大規模なエレクトロニクスショーを開催する主催者、参加する出展企業も今後しばらくの間は効果的な情報発信とネットワーキングの形を暗中模索する時間が続くものと思います。イベント後はパナソニックの展示内容に寄せられる反響にも関心が集まるのではないでしょうか。
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