Vol.100-2
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「Xperia PRO」。高価格にばかり目が行きがちな本機だが、そのコンセプトにこそ斬新さがあった。
5Gは4Gと同じように、複数の周波数帯の電波を使ってサービスが展開されている。ただし、周波数帯による特性の違いは、4Gよりもさらに大きい。なかでも特別な扱いになっているのが「ミリ波」と呼ばれる、26GHz以上の領域を使った部分だ。以前にも本連載で解説したが、ミリ波はこれまで携帯電話向けにはあまり使われてこなかった周波数帯で、帯域がかなり広く用意できる。そのため、「実行通信速度で数Gbpsを超える」ような、4Gとはレベルの違う速度を実現するには、ミリ波対応であることが望ましい。
だが、ミリ波に対応しているスマートフォンは少ない。理由は、街中ではまだミリ波がほとんど使われていないからだ。ミリ波は非常に電波が届きづらく、いままでの感覚では使えない。搭載しても価値が出づらいので、ミリ波基地局の増加や技術の進化が実現するまで、マス向けのスマホにはなかなか搭載されないだろう。一般化するまで最低でも2年くらいはかかりそうだ。
だが、先日発売されたXperia PROはミリ波に対応している。ハイエンドな製品だから……というわけではない。「ミリ波がありそうな場所で活用することを前提とした」製品だからだ。
ミリ波がありそうな場所とは、野球やサッカーなどが行われるスタジアムだ。現状、ミリ波を一般的な街中で活用するのはなかなか難しい。将来、ノウハウが蓄積され、効率の良いインフラ構築と端末の開発が進めば別だが、いまはまだ、「ある程度ひらけた、特定の場所にミリ波の電波を集中的に降らせる」形がベスト。そうすると、スタジアムの席やプレスが使う撮影エリアに向けて、ピンポイントにミリ波のインフラを構築するというのは最適なやり方といえる。特に撮影エリアからは、ダウンロードよりも「アップロード」の速度を重視した用途が求められる。5Gの特徴として、4Gよりもアップロード速度を劇的に向上させられる点がある。それを考えても、「映像などをアップロードするニーズがある」撮影エリアに向けて、スタジアムでミリ波をサポートするのは非常に理にかなったものなのだ。
一方、そこで使う端末はどうするのか? これまでのミリ波対応端末は、ミリ波サポートを他国より早く開始しているアメリカ市場向けのハイエンド端末が多かった。だが、それらのスマホはあくまで「個人市場を狙ったもの」。そのため、発熱対策が不十分で、長時間大量の通信を続けるには困難があった。
そのあたりを意識して開発されたものとしては、2020年春にシャープが発売した「5G対応モバイルルーター」がある。本機はイーサネットのコネクタもあり、業務用を強く意識している製品だ。Xperia PROがミリ波対応したのも、同じような市場を狙ってのことである。「ミリ波を使ってスタジアムから写真や動画をアップロードする」用途は、プロ市場で大きな可能性を持っているのだ。
では、なぜソニーはそれをやるのか? そこには、スマホメーカーとしての顔以外の側面が大きく影響しているのだが、それについては次回のウェブ版で解説したい。
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