スポーツを支えるテクノロジーといえば、どんなものを思い浮かべますか? 選手たちのユニフォームや水着、厚底シューズなどありますが、スポーツを見るという点でも5Gマルチアングル視聴のような新しい観戦スタイルが生まれています。
そんなテクノロジーの開発を支える活動をしているのが、パナソニック。同社はスポーツ発展のためのアイデアを募集する「SPORTS CHANGE MAKERS」を開催しています。3月9日には8月の本大会に向けたプレイベントを開き、プロジェクトの紹介や識者による座談会が行われました。
今回はそのプレイベントの模様とともに、「Mirror Field」という新しいオンライン体験の詳細もレポートしたいと思います。
あらゆる壁を越えていけ
SPORTS CHANGE MAKERSとは、パナソニックがIOC(国際オリンピック委員会)、IPC(国際パラリンピック委員会)の協力を得て進めているプロジェクト。パナソニックの映像・音響技術を用いてスポーツの価値や魅力を広げるアイデアを学生から募集。最終プレゼンテーションで選ばれた優秀案は、パナソニックとの共同プロジェクトとして実現に向けた支援を受けられます。
第1回のテーマは「GOING BEYOND BARRIERS」。バリアというのは、健常者と障がい者、リアルとバーチャル、ジェンダー間に存在する壁や境界を指しています。スポーツ×テクノロジーの力であらゆる壁を越えていく。そんな可能性を持ったテクノロジーが、日本や中国、アメリカ、フランスの学生から集まったそうです。
本番の最終プレゼンは8月のため詳細は語られませんでしたが、各チームが寄せたビデオメッセージでは、「言語や文化の壁を越えたコミュニケーション」「競技のルールをすぐに理解できるツール」「聴覚障がい者のためのテクノロジー」と、各案のキーワードを聞くことができました。
新しいオンライン体験「Mirror Field」
今回はプレイベントでしたが、バリアを越える1つの試みが行われました。それが、この日のために開発された「Mirror Field」。リアルの会場であるパナソニックセンター東京をバーチャル空間に再現し、参加者は自身のアバターを操作してイベントに参加できる新しいイベントモデルです。
イベントのURLにアクセスし、まずアバターを作成。操作方法のガイドを終えると、アバターとして会場に参加。プレゼンをリアルタイムで聞きながら、会場を自由に回遊できます。前方のスクリーンをクリックすると、会場で流れている映像を全画面表示で見られます。
筆者もコロナ禍ではオンラインでのイベント取材が増えましたが、Mirror Fieldがそれらと異なるのは、臨場感や没入感が強いこと。ただ資料や映像を見るよりも、自分で動いたり映像を見たりできると、“参加している感”がとても強くなります。
さらに、リアル会場の映像にオンライン参加者を重ねられます。開発を担当したパナソニックの北島ハリーさんは「バーチャル空間を作るだけでは単なるデータにすぎない」とし、「Mirror Fieldは本会場とバーチャル空間を結ぶインタラクティブな場所」であると説明していました。
しばらく映像を見たのちに全画面表示から戻ると、周りにアバターが増えていて少しびっくり。臨場感だけでなく、他の参加者の存在もしっかり感じられます。
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Mirror Fieldはリアルの観客から見るとAR(拡張現実)、バーチャルの観客から見るとVR(仮想現実)のような構造になっています。
たとえば、スポーツ観戦にMirror Fieldを導入するとしたら。スタジアムでは席の間隔を空けて観客が座ります。しかし、大型スクリーンを見るとその空いている席にはオンラインで観戦しているアバターが座っていて、アプリから拍手したり歓声を送ったりできます(会場では音が流れる仕組み)。得点シーンに観客は映像を見ながら隣のアバターとハイタッチ。そんな楽しみかたを想像しました。
映像で重なるだけでなく、リアルとバーチャルの観客が相互にはたらきかける仕組みやアクション(ハイタッチしたりペンライトを振ったり?)があると、さらにインタラクティブな体験になるのではないかと思います。
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「無観客はやはり寂しい」
イベントでは「スポーツ×テクノロジーでバリアを超えることができるのか」をテーマにパネルディスカッションを開催。東京2020組織委員会スポーツディレクターの小谷実可子さん、東京2020組織委員会アドバイザーの澤邊芳明さんらが参加しました。
今回のMirror Fieldについて、小谷さんは「リモートでも一体感があり、アバターの向こうに人を感じられます」とコメント。澤邊さんは「世界中の人が参加できたらおもしろい。講演などをしていても、無観客だとやはり寂しいんです。バーチャルだからできるアクションもありそうですね」と期待を込めて語りました。
最終プレゼンに臨む京都工芸繊維大学の横瀬健斗さんは、アイデアが自身の体験に基づいたものであると説明し、「映像を見て完結するのではなく、自分でやってみようと思えるようなテクノロジーを考えていきたい」とさらなる目標を語っていました。
オンラインでのイベントは「どれだけリアルに近づけられるか」「オンラインならではの体験を提供できるか」が課題であり勝負どころでもあります。今回のMirror Fieldはその1つの解決策。こういった自由度のあるオンライン参加がスポーツイベントや音楽ライブ、美術館、動物園などにも活用できるのではないかと期待感を持ちました。
コロナ禍では、観客の人数制限や中立地での集中開催などスポーツのありかたが大きく変わっています。しかし、マルチアングル視聴やリモート応援システムなど、いままでにない新しい楽しみかたが生まれたのも事実。これからどんなテクノロジーが誕生するのか。そのテクノロジーがスポーツをどう変えていくのか。まずは8月のSPORTS CHANGE MAKERS最終プレゼンを待ちましょう。