2021年のモバイル業界は、3キャリアの「オンライン専用プラン」や、楽天モバイルなどの話題でにぎわいました。ここでは、ジャーナリストの石川温さんが、2021年に起きた5つのビッグニュースと、2022年の注目ポイントを解説します。
【その1】「基本料金ゼロ円」までに突入した値下げ競争
2021年のモバイル業界を語るうえで欠かせないのが「値下げ競争」だろう。3月に3キャリアが相次いでオンライン専用プランをスタート。データ容量20GBで月額3000円を切る値付けにより、日本の通信料金は一気に安くなった。
実際、「世界に比べて高すぎる」という指摘があったが、3キャリアからオンライン専用プランが登場したことで、総務省の調べでは世界でも2番目にデータ通信料金が安い国に生まれ変わった。
この値下げは、菅首相(当時)からの圧力により、3キャリアとも仕方なくオンライン専用プランを新設することで実現したが、一方で3キャリアはユーザーの「囲い込み」を強化している感がある。
たとえば、KDDIとソフトバンクはUQモバイルとワイモバイルというサブブランドに注力し、電力サービスや家族でまるごと契約をすれば安くなるというアプローチを行い、家族ごと囲い込もうと必死だ。これまでは格安スマホと呼ばれるMVNOにユーザーが流出していたが、電気料金や家族をまるごと対象にすることで、ユーザーの流出を防ぎ、MVNOからユーザーを獲得しようとしている。NTTドコモも来年3月「ドコモでんき」をスタートさせる。
また、KDDIでは基本料金がゼロ円、自分の必要なデータ容量をトッピングで選べる「povo2.0」をスタートさせた。これまでは「毎月の基本料金」がベースであったが、povo2.0は必要なデータ容量を必要なタイミングに購入するという新しい契約スタイルになっている。
これは、基本料金ゼロ円でユーザーを集める楽天モバイルに対抗した格好だ。ただ、ソフトバンクとNTTドコモは「ゼロ円競争には距離を置く」としており、今後、楽天モバイルとKDDIの「ゼロ円戦争」が本格化していきそうだ。
【その2】エリア面での信頼性向上が課題の「楽天モバイル」
その楽天モバイルが、ゼロ円から始まる新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT Ⅵ」を始めたのは、当時、20GBで月額2980円という、楽天モバイルを意識した値付けをしてきたNTTドコモ「ahamo」などに対応する意味合いが大きかった。
そんな楽天モバイルの目下の課題は「エリア展開」になるだろう。全国でサービスを提供するにあたり、開始当初は自分たちでエリア展開できていないところはKDDIのネットワークにローミングするかたちをとっていた。しかし、ユーザーがローミングエリアで通信を行うと、楽天モバイルは「赤字」となってしまう。楽天モバイルが黒字化をするには早期に自社ネットワークを全国で構築する必要があるのだ。
楽天モバイルは2021年夏までに人口カバー率96%を達成するとしていた。しかし、半導体不足により基地局の開設が遅れ、計画達成は2022年に持ち越されることとなった。半導体が入手できれば新たに1万局から電波を吹くことが可能となり、エリアが一気に広がる見込みだ。
楽天モバイルユーザーとしても、それだけデータ通信使い放題の場所が広がるだけに、早急な全国展開が求められる。
さらに、一部では「iPhoneだと音声が着信しない」という問題も浮上している。こうした品質向上も課題だ。
【その3】Xperia復活の起爆剤となった「1円スマホ」戦争
2021年、大ヒットとなったスマートフォンといえば「1円スマホ」だ。
アップル「iPhone SE(第2世代)」やNTTドコモ「Xperia Ace II」などが、週末を中心にショップや家電量販店で「1円」で売られていた。
現在、総務省の意向により、スマートフォンを販売する際、回線契約が紐付いている場合は高額の割引は認められていない。上限額が2万円という設定にされている中、Xperia Ace IIは本体価格が2万円程度に抑えられていることで、2万円を割り引き、1円で売られることとなった。
ソニーはXperia Ace IIの大ヒットによって、国内での販売シェアが回復。これまでシャープが4年連続でAndroidナンバーワンだったが、MM総研の調べでは2021年上半期でソニーがAndoridシェアでナンバーワンとなった。シャープは2022年1月に、店頭では1円で売られるであろう「AQUOS wish」を投入し、挽回する構えだ。
一方、iPhone SE(第2世代)においては、回線契約が紐付いていなくても、キャリアが割引原資を負担しているため、端末自体に割引が適用されて販売されていた。他社ユーザーに購入されてしまう恐れもあるが、ほとんどの場合は、そのキャリアで契約している人が買っていく。結果として、ユーザーの囲い込みにつながっているのだ。
【その4】独自チップを開発し、AIのチカラで存在感を示したグーグル「Pixel 6」
今年、モバイル業界内で評判を上げたのがグーグルだ。Pixel 6シリーズが思いのほか、出来が良かった。
自社開発のチップセットである「Tensor」を搭載。グーグルがクラウドで培ってきたAI技術がスマートフォン上で処理される。カメラでは、撮影した画像に対して、背景から余計なものを消すことが可能。ボイスレコーダー機能においては、その場でサクサクと音声をテキストに変換してくれる。
グーグルとしては、これまでクアルコム「Snapdragon」を搭載してきたが、スマートフォン業界で独自のポジションを確立しているアップルのiPhoneと戦うには、独自開発チップが不可欠と判断したのだろう。
かつて、勢いのあった中国・ファーウェイも独自チップで差別化していたし、サムスン電子のGalaxyシリーズも独自チップを展開している(日本は除く)。
まさにスマートフォンの競争は「チップセット」の戦いに突入しようとしているのだ。
【その5】小粒な進化に終わったiPhone 13。驚異的なパフォーマンスを見せる「M1チップ」
2021年に発売となったiPhone 13シリーズは、昨年のiPhone 12シリーズと比べて小粒な進化に留まっており、世間的にはあまりインパクトがなかった印象だ。iPhoneは過去を振り返ってみても、2年に1回、大きな進化を遂げており、昨年は5G対応など劇的な機能強化がはかられていたこともあり、今年は「小休止」といったところなのだろう。来年にぜひ期待したいところだ。
一方で、自社開発チップセット「M1」シリーズの横展開が強烈であった。
昨年、MacBook Pro、MacBook Air、Mac miniに搭載された「M1」であったが、今年はMacBook Proに加え、iPad Pro、iMacにも広がった。特にMacBook Proにおいては「M1 Pro」「M1 Max」という上位スペックも登場。プロがこなすような本格的なグラフィック処理や動画編集がノートパソコンでできるようになった。
今後、期待したいのがアップルのモデム開発だ。アップル自身がチップセットだけでなく通信モデムも開発できるようになればiPhoneだけでなく、MacBook ProやMacBook Airも「5G対応」になる可能性がある。Wi-Fiがなくても、いつでもどこでも通信ができるMacBook ProやMacBook Airの登場に期待が持てる。
【2022年の注目】「なんちゃって5G」から「真の5G」へ
2022年、モバイル業界で注目しておきたいのが「5G SA」の開始だ。
5Gは2020年からスタートしているが、4Gネットワークの設備などを共用する「NSA(Non Stand Alone)」と呼ばれる仕様で稼働している。4Gネットワークとの併用のため、必ずしも5Gで期待されている機能が提供されているとはいえず「なんちゃって5G」と揶揄されているのだ。
これに対して、5Gのコア設備を使い、5Gに特化したネットワークは「SA(Stand Alone)」と呼ばれている。ネットワークをスライスして、スマートフォンだけでなく、IoTや自動運転など、用途に合わせたネットワークを提供できるようになるという。
すでに各キャリアでは実証実験をしていたり、法人向けにサービスを提供していたりする。NTTドコモでは来年夏にもSA対応のスマートフォンを一般ユーザー向けに販売する予定だ。
ただ、5Gのさらなる高速化などが期待されるものの、現状「5Gならではのキラーサービス」が登場しているとは言いがたい。2022年、各キャリアは5Gならではのサービスを見つけ出し、5Gをさらに盛り上げる秘策が求められることになりそうだ。
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