デジタル
2022/1/28 19:15

【西田宗千佳連載】ソニーのEV参入、勝算はあるのか

Vol.111-1

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは2年ぶりに発表されたソニーのEV「VISION-S」。事業化も発表されたが、その狙いはどこにあるのか。

↑ソニーのEVは、2020年のCESで発表されたVISION-S(右)と今年1月のCESで発表されたVISION-S 02(左)がラインナップされ、EVであることとクラウドプラットフォームは共通。02は7人乗りSUVで、多様化する人々の価値観やライフスタイルに合うプレミアムな移動空間を提供する

 

ソニーが持つ技術で異なるEVを作れる

1月5日、ソニーグループは、米ラスベガスで開催していたテクノロジーイベント「CES 2022」に合わせて開催したプレスカンファレンスの中で、電気自動車(EV)事業への参入を検討する、と発表した。

 

ソニーは2020年のCESで試作EV「VISION-S」を公開した。VISION-S自体は市販を前提に開発されたEVではなく、事業化の際もVISION-Sがそのまま販売されるわけではないようだ。発表が「EVを発売」ではなく、「EV事業への参入を検討」となっているのも、新しい市販前提のEVを開発したうえで、さらに、EVを販売するために必要なビジネス上の条件を整えるためと思われる。

 

ソニーはなぜEVに参入するのか? 同社の試作EV開発を指揮する、ソニーグループ常務・AIロボティクスビジネスグループ 部門長の川西泉氏は筆者の取材に対し、「自分たちで持っている技術を使い、十分に違いを出せる部分がわかってきたから」と話す。

 

ソニーは数年前から、センサーとそれを活用したAIをベースにした事業開拓を積極的に進めている。その代表例が、2018年に再登場した「aibo」であり、2021年に発売されたソニー製ドローン「Airpeak」である。VISION-Sも同じく、ソニーのAIロボティクス・チームが開発している。

 

得意のセンサー技術で新たな付加価値を提供

VISION-Sの試作は2018年ごろからスタートしているのだが、その頃はまだ、ソニーには自動車を作るノウハウがなかった。いまでも、トヨタやホンダなど同列で、自社だけでEVをゼロから開発するのは難しい状況である。そのためVISION-Sは、多数の自動車関連企業との協業の形で作られた。なかでも中核的な存在と言えるのが、オーストリアの大手自動車製造企業であるマグナ・シュタイアだ。実際、VISION-Sの走る、曲がる、止まるという自動車の基本と言える部分は、ソニー以上にマグナ・シュタイアのノウハウが効いている。

 

では、ソニーはEVのどこを作っているのか? それは、センサーと連携して快適な乗り心地や高い走りの質感を実現する部分であり、周囲の状況を把握してドライバーに知らせる安心・安全の機能であり、車内で音楽や映像を楽しむエンターテインメントの部分である。

 

元々VISION-Sは、センサーを生かしてこれからのEVを自ら作り、他の自動車メーカーに、ソニーのセンサーの生かし方をプレゼンするために作ったようなところがある。

 

だがソニーは、その過程で、「自分たちだけでも他の自動車メーカーとは違うものを作れる」という自信を得たのだ。ソニーは単にセンサーを持っているだけではなく、そのセンサーを生かし、自動車に高い付加価値をつける方法を考えていた。人に合わせて乗り味を変えたり、細かな振動をセンサーで把握してキャンセルしたりと、新規メーカーとして参入する良いチャンスでもある。

 

では、ソニーのEVはどんなビジネスモデルで売られるのか? どのくらいのシェアを取る可能性があるのか? その辺は次回解説する。

 

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