Vol.112-3
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはマイクロソフトが発表した、ゲーム最大手会社の買収。買収の背景には、ゲームの規模拡大とPC向けゲーム市場の拡大が関係していることを解説する。
マイクロソフトによるアクティビジョン・ブリザードの買収は、まさに「ゲーム事業」のためのものだ。
アクティビジョン・ブリザードは世界有数の規模をもつゲームメーカーで、実のところ、マイクロソフトが買収を決めるまで、多くのゲーム業界関係者は「大きすぎて買収は難しい」と思っていた。
それが買収に至ったのは、ここ数年、アクティビジョン・ブリザードがパワハラ・セクハラなどのコンプライアンス面で揺れており、会社としての安定性に欠けていたから、ということはある。そこで買収に走ったマイクロソフトは、資金力の面でも決断力の面でもたいしたものだと思う。
一方、ゲームプラットフォーマーにとって「買収」という戦略はそこまで珍しいものではない。ソニーにしても任天堂にしても、規模や戦略はそれぞれ異なるものの、買収は行なっている。
特に買収に積極的なのはソニーだ。マイクロソフトがアクティビジョン・ブリザードの買収を発表したのを追うように、ソニーも独立系ゲーム会社であるバンジーを買収すると発表した。買収額は36億ドル(約4100億円)。アクティビジョン・ブリザードの買収額(約7.8兆円)に比べるとひと桁小さい額だが、それは比べる相手が悪い。バンジーの買収も、過去のソニー・インタラクティブエンタテインメントによるゲーム会社買収の中では最高額である。
ソニーが買収に積極的なのは、自社傘下の開発会社を「PlayStation Studios」ブランドの元に統合し、PlayStationに向けた「独占供給ゲーム」の開発を加速するためだ。そのため、基本的には「ゲームを開発する企業」の買収であり、パートナーを傘下に収めて関係を強化するのが目的だ。
これは任天堂も同じである。元々任天堂は「任天堂のゲーム機でしか遊べない、任天堂ブランドのゲーム」が特徴だ。そのためには開発会社との関係が重要になる。ただ、任天堂はほかの2社ほど頻繁に買収しているわけではないし、額も小さめだ。
昔からゲーム機ビジネスでは、特定のゲーム機でしか遊べない「独占タイトル」が重要だった。別に今に始まった話ではない。だが、過去とは状況が変わっている。ゲームの規模拡大とPC向けゲーム市場の拡大がポイントだ。
大規模なゲームの開発にはコストがかかる。リスクを分散するために、ゲームメーカーは複数のゲーム機・PCで同じゲームタイトルを販売するようになった。俗に「マルチプラットフォーム・タイトル」と呼ばれるものだ。ゲーム開発の手法が変化し、グラフィックや音などの「ゲーム機にあまり依存しない」要素が多くなり、ゲームそのものも機種に向けて開発するのが容易になってきた。だとすれば、無理に1機種に絞るのではなく、多数の機種で販売してビジネスパイを拡大する方が有利になっている。
そうなると困るのはゲーム機を提供するプラットフォーマーだ。ゲームメーカーが自社だけを向いてくれる例は減ってきており、差別化が難しくなる。
だからこそ、ゲームプラットフォーマー自身がゲームメーカーを抱え、「独占タイトル」を自ら出資して開発するようになっていったのだ。
だが、今はそこからさらにビジネスモデルが変化しようとしている。その辺の仕組みについては、次回解説したい。
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