Vol.112-4
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはマイクロソフトが発表した、ゲーム最大手会社の買収。そのメリットはこれまでのコンテンツ「独占」とは違うところにあることを解説します。
ゲーム・プラットフォームのビジネスにおいて「独占」は重要なファクターだ。ただ前回も述べたように、その意味合いは昔とは異なってきている。
昔はゲーム機ごと、PCごとにアーキテクチャが大きく異なり、ソフトを作り分けるのは大変なことだった。だが、PS3/Xbox 360世代から状況は変わり、PCを含めた複数の機種へ出すのが当たり前になってきた。そのようにしてリスクヘッジをしないとゲームビジネスが回らないのだ。
結果的に、プラットフォーマーは自分がコンテンツを持つことで「独占」を得るようになってきた。
だが、これもまた崩れつつある。
大手ゲーム会社を買収するということは、そこで出ていたゲームを「自社グループ独占にできるのか」という話につながる。結果的に言えばこれはできない。元々のファンを裏切ること、ビジネスパイが狭まること、独禁法上のリスクが上がることなど、諸々の課題があるからだ。
そうすると、いかに強いコンテンツを持つ他社を買収したとしても、単純な「独占」は難しい、ということになる。事実、マイクロソフトはアクティビジョン・ブリザードのゲームをPlayStationにも供給すると後日発表しているし、ソニーも「バンジーの独立性を保つ」として、バンジーがPlayStation以外にゲームを供給することを認めている。
では独占のメリットはどこで出すのか? シナリオは2つある。
ひとつは「サブスクや追加コンテンツで差を出す」こと。マイクロソフトは有料会員制のサブスクリプション型サービス「Game Pass」を展開しているが、アクティビジョン・ブリザードの作品もここに「発売日から入れる」ことを目指す。
他社向けに売らないのは問題だが、「サブスクは自社限定」は問題がない。そうやってお得感を演出することでユーザーを惹きつける方法はある。また、追加コンテンツの先行公開などで差別化する方法もあるだろう。
2つ目は「ゲーム以外への展開」だ。人気のあるゲームなら、それを題材にした映画やドラマの展開もあり得る。マイクロソフトは自社の人気作「Halo」をドラマ化した(日本では今夏、U-NEXTで配信予定)。ソニーはPlayStation独占作品の「アンチャーテッド」シリーズを、トム・ホランド主演で映画化している。その後も「ゴースト・オブ・ツシマ」などの映画化が続く。
こうした部分での権利は当然、自社のものになる。任天堂のように、映画化だけではなくテーマパーク展開もある。才能のあるアーティストが作った世界は魅力的なものだ。巨額の費用と時間をかけて生み出したものは、本気で他メディア展開し、中長期的な収益源を目指すのが当たり前になってきた。
こうやって考えると、仮にゲームが短期的には「独占供給」とならなくても、ビジネスとしてのうま味は十分にある、ということになるのだ。
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