Vol.122-3
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはマイクロソフトが自社PCで採用し始めたARM系CPUの話題。Windows PCになかなか搭載されない理由を探る。
WindowsというとインテルやAMDなどのx86系CPU向けのOS、というイメージが強いと思う。だが実際にはそうではない。Windowsは極々初期からx86系以外のCPUにも提供はされていたのだ。
ただ、x86系以外のWindowsを使ったことのある人は非常に少ないだろう。過去のものはx86系のWindows向けに作られたソフトや周辺機器が使えなかったので、特殊な業務くらいにしか使えなかったのだ。
2012年、Windows 8の登場に合わせて「Surface」が出たとき、ARMを使ったよりタブレット的な製品として「Surface RT」が出た。これはARM版Windows 8を使った製品だったのだが、やはりx86系向けのソフトは使えなかったので、あまり売れなかった。
それが変わったのは、ARM版のWindows 10が発売されてからだ。こちらではついにx86系のアプリを動かす機能が用意され、実用性が高まってきた。ただ、このタイミングでは「32ビット版」のx86系ソフトが動作したのみなので、64ビット版アプリが全盛のいまでは少々厳しかった。
そして、さらに状況が変わったのがWindows 11以降だ。こちらではついに、x86系アプリを動かす機能が64ビット版アプリにも対応。ほとんどのソフトが動作するようになった。ゲームなども、動作が軽いものなら問題なく動くようになったほどだ。
ARM系プロセッサーを使ったSurface Pro 9に組みこまれているのもこのARM版Windows 11だ。筆者も実機を試してみたが、正直x86版との差はほとんど感じられない。
「ならば、もっとARM版Windows搭載機が出てきてもいいのでは」
そう思う人もいそうだ。確かにそうなのだ。
だが問題は、現状のARM系プロセッサーを使ったPCが“安くはならない”ことにある。スマートフォンやタブレットのプロセッサーを出自とするARM系の製品は、現状、x86系プロセッサーに比べると性能では劣る。メインメモリーなども少なめだ。そうすると、全体のスペックではx86系に劣るにも関わらず、生産数量が少ないこともあって、似たような価格帯になってしまう。つまり、よほどこだわりがない限り、x86系のものを購入するのがおトク……ということになってしまうのである。
Surface Pro 9は、ARM版については5Gでの接続機能を搭載することで差別化しているものの、価格的にはやはり、x86系に比べ割高。その事情をわかって買う人向けであり、まだちょっとマニアックな製品でもある。
この悪循環を変えるには、ARM系であってもx86系と同等以上のパフォーマンスを実現できるプロセッサーが必要になる。アップルがAppleシリコンでx86版を凌駕して移行を促進したように、少なくとも、x86系とARM系が同列で戦えるようにならないといけない。
というわけでクアルコムは現在、ARM系新CPU「Oryon」を開発中である。それはどんなものになるのだろうか? その辺は次回説明しよう。
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