デジタル
2023/3/10 11:30

【西田宗千佳連載】実は見えてこない、アップルの超ハイエンドPCの今後

Vol.124-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはアップルの新たな「M2」プロセッサーの話題。このプロセッサーを超ハイエンドなPCに取り入れるのか、あるいは別の戦略をたどるのかを見ていく。

↑M2搭載のMac miniは、4つの高性能コアと4つの高効率コアで構成される、8コアCPUと10コアGPUを搭載。M2 Pro搭載のモデルは8つの高性能コアと4つの高効率コアで構成された最大12コアのCPUと、最大19コアのGPUを搭載する。いずれも処理能力が大幅に向上している。価格は8万4800円から(税込)。

 

アップルは、自社設計半導体を製品に使う戦略を主軸に置いている。最後まで残っていたのがMacだったが、それも、2020年に「M1」を発表し、MacとiPadに採用するようになり、いまはもう“定着”した感がある。

 

一方で、超ハイエンドに近い部分で、アップルは完全な解を持っていない。

 

高性能デスクトップとして、アップルは「M1 Ultra」を作り、2022年に「Mac Studio」という製品ラインナップを作った。M1 Ultraは、M1 Maxを2つ内部でつなぐことで性能を稼いでおり、たしかにかなり高性能だ。メインメモリーとVRAMを共有する「UMA」という構造を生かして、巨大な3Dデータを扱いながら作業するのに向いている。消費電力と性能のバランスも圧倒的に優れている。

 

それでも、20万円を超える高価な最新GPUを搭載したハイエンドPCに敵わない部分もある。GPUの持つ機能や性能面で、Appleシリコンが搭載するGPUは、NVIDIAやAMDのものに劣る部分がある。また、アプリケーション開発上の課題から、アップルのGPUではなくNVIDIAやAMDのものを求めるニーズもある。

 

また、メインメモリーに「数百GB単位」の容量を必要とする用途もある。いわゆるAIの開発などではよくあることだ。Mac Studioのメモリー容量は、現状最大128GBであり、ここでも“不足”の声がある。

 

アップルは「プロ向けのニーズも把握している」として、Mac Studioよりもさらに特定の業務向け、いわゆる“Mac Pro後継機”が存在する……と思える発言をしている。おそらく、特定のGPUへの対応や超大容量メモリーの搭載といった用途については、そうした製品での対応を予定しているのかもしれない。

 

現状、Mac Studioの「M2世代」製品は登場していない。理由はわからないが、M1 MaxとM1 Ultraの違いを考えると、「M2 Ultra」とでも言うべきプロセッサーはあって良いように思う。ただ、「Mac Pro後継機」がどんなものになるかわからず、さらには、M1 Ultra以上の性能が必要な領域をどう定義するのか、という話もあるので、「超ハイエンド向けの戦略」を再度整理する必要はあるのかもしれない。

 

ただ、そもそもアップルが外付けGPUを今後サポートするのか、UMA構造を捨てて大容量メモリーに対応するつもりがあるのかなど、この辺の戦略は本当に見えない。やらないわけにはいかないが、“2つの次は4つ”のような、シンプルにつなぐMシリーズの数を増やすのも困難だ。正確には、性能効率を維持したまま3つ以上のMシリーズをくっつけて1つのプロセッサーにするのは難しい、といった方がいいかもしれない。

 

そう考えると、アップルの戦略で“カードが裏のまま伏せられている”のが超ハイエンド向けであり、いつカードが表になるかもわかりづらい……というのが実情である。あるとすれば今年初夏にある「WWDC」だが、場合によっては、M2世代をスキップしてM3まで待つ……というパターンもありそうだ。

 

ハイエンドはともかく、もっと性能が低いもの、例えばApple WatchやAirPods、HomePodなどでの戦略はどうなるのだろう? その辺は次のWeb版で解説する。

 

週刊GetNavi、バックナンバーはこちら