デジタル
2023/3/17 11:15

【西田宗千佳連載】新HomePodもアップル独自チップ。全部自社で作る背景は?

Vol.124-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはアップルの新たな「M2」プロセッサーの話題。アップルが自社でチップを作る背景を探る。

↑M2搭載のMac miniは、4つの高性能コアと4つの高効率コアで構成される、8コアCPUと10コアGPUを搭載。M2 Pro搭載のモデルは8つの高性能コアと4つの高効率コアで構成された最大12コアのCPUと、最大19コアのGPUを搭載する。いずれも処理能力が大幅に向上している。価格は8万4800円から(税込)。

 

アップルの独自開発半導体というと、多くの人はiPhoneやMacに搭載しているものを思い浮かべるだろう。だが一方で、アップルを支えているのが「もっと性能は低いが、いろいろなことに使える半導体」であるのもまた事実だ。

 

例えば「Hシリーズ」。AirPodsなどのワイヤレスヘッドホンに使われているもので、現在の最新は「H2」。空間オーディオやノイズキャンセルなどの対応には高性能=比較的コストの高いプロセッサーが必要になるが、アップルはできるだけプロセッサーを統一し、一気に大量に作ったうえにソフトウェア開発効率も上げることで、ヘッドホンの機能とコストのバランスをとっている。

 

Apple Watchでは「Sシリーズ」を使っている。サイズが小さく相応の処理性能を備えたものだ。実はSシリーズは、アップルのスマートスピーカー「HomePod」でも使われている。

 

今年2月に発売された「HomePod(第2世代)」では、Apple Watch Series 7(2021年発売)にも使われていた「S7」というプロセッサーを内蔵。アップルは自社内にあるプロセッサーをコストと性能で区分けして、必要な製品に使い回すことで、他社への依存度を減らしているわけだ。

 

スマートスピーカーについて、アップルはアマゾンやグーグルと比べて出遅れている。ただ、昨年秋に策定された標準規格「Matter」の影響から、他社に対する不利がある程度緩和できるのが見えてきた。2023年は、Matterを軸にスマートホーム関連が盛り上がる可能性は高い。

 

その際、当然、スマートスピーカーの新製品が必要になる。圧倒的に売れるのがわかっていれば専用プロセッサーを作るかもしれないが、アップルはそこまで大きなシェアを持っていない。そのうえで、音質やアップル製品同士の連携を高度なものにしようとするなら、他社よりも高いプロセッサー性能が求められることになる。機能を維持しつつMatterにも対応したものを作るには、自社内にあるリソースを使うのが効率的ではある、ということなのかもしれない。

 

他社の場合には、半導体メーカーから適切なものを購入するのが基本。ソフト開発コストを考えても、そうするのが現実的だ。あらゆる部分を自社完結したいアップルならではの“力技”とも言える。

 

この辺のプロセッサーについては、ヘッドホンとApple Watchのハイエンドモデルが出るときに切り替わることが多い。ただ、昨今はハイエンドモデルが出ても前世代と同じプロセッサーが使われることも増えていて、この種の製品が「プロセッサーについて、性能アップを求められ続けているわけでもない」という事情も見えてくる。

 

その辺が、同じ“ソフトが重要”な機器であっても、iPhoneやMacのような「コンピューターに近い製品」とは違うところなのではないだろうか。

 

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