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2023/3/11 11:15

iPhoneとAndroid間でeSIM転送は無理そう? MWCに見るスマホトレンド

2月末、モバイル業界で世界最大級の展示会「MWC Barcelona 2023」が開催。毎年このイベントでXperiaのフラグシップモデルを発表していたソニーは、今回は新機種を発表せずに終わりました。

 

スマホの製品発表の場としての存在感は薄れつつあるMWCですが、特徴的なモデルもいくつか登場しています。ここではそうした発表を中心にチェックしていきます。

 

まだ夢の製品? 伸びるディスプレイの「Motorola Rizr 5G」

Motorolaは伸縮できる“ローラブルディスプレイ”を搭載したコンセプトモデル「Motorola Rizr 5G」の実機を初展示しました。このスマホは2022年の「Lenovo Tech World」で発表された試作機です。

 

特徴は、画面の大きさが可変するローラブル機構。普段は片手に収まるコンパクトなスマホとして使えて、必要なときには画面をクルクルと伸ばして縦長スマホに変身します。動画を横向きで視聴するときや、Gmailでキーボードを表示したときなどには自動で画面が伸びる便利な機能も搭載しているようです。

 

Motorola Rizrという名前は、往年のスライド式ケータイの機種名です。かつてのRizrではスライドするとテンキーが出現しましたが、Rizr 5Gでは伸ばした部分もディスプレイに。名作へのオマージュと新技術を融合したコンセプトモデルとなっています。

 

折りたたみスマホのようなコンパクトさと、縦長ディスプレイの大画面が得られつつ、ディスプレイが伸びる機構もかっこいいMotorola Rizr 5G。このまま製品化を期待したいところですが、現実には課題もありそうです。

 

ローラブルスマホの試作機としてはMotorolaが初ではなく、たとえばOPPOが2021年にコンセプトモデルとして「OPPO X 2021」を発表。実際に世界で数台だけという試作機を製作しています。類例はありますが、発売までこぎ着けた製品は今のところ存在していません。

 

ローラブルスマホの課題は、ローラブルディスプレイそのものではなく、ディスプレイを支える機構の部分です。その構造上、伸びる部分を薄くする必要があるため、割れや曲げなどに対する耐性を確保しづらく、普段使いに耐えるほどの強度を維持するのが難しいでしょう。

 

また、ディスプレイを伸縮させる機構のためにサーボモーターを搭載する必要があり、コスト面でも上乗せとなりそうです。

 

折りたたみスマホではMotorola RazrやGalaxy Z Flipシリーズなど、製品の選択肢が増えつつあり、MWC 2023で展示された「OPPO Find N2」など新機種も盛んに投入されています。機能面では折りたたみスマホと大きく変わらないものの、構造の複雑さが増してしまうローラブルスマホは今のところ、“いつか実現する夢”に類する製品といえそうです。

 

 

スマホの注目の的は「衛星通信」。対応スマホと通信モジュール登場

5Gの舞台として活用が見込まれるのが「宇宙空間」です。2022年のiPhone 14シリーズでは、北米で「衛星経由のSOSメッセージ送信」に対応して話題を呼びました。衛星通信は2023年も注目の的になりそうです。

 

MWC 2023では、その端緒となる発表が相次ぎました。チップセットベンダーのMediaTekは、5G衛星通信対応の最初のチップセット「MT6825」を発表しています。

 

MT6835は、3つの製品で採用されています。2つはAndroidスマホで、「Motorola Defy2」と「Cat S75」の、いずれもタフネス仕様の製品。もう1つはタグ型の通信モジュールで、iPhoneやAndroidスマホとBluetoothで接続して、衛星通信でメッセージを送れるようにする「Motorola defy satellite link」というデバイスです。

↑motorola defy satellite link

 

いずれもBullitt社の衛星通信サービスに対応しており、携帯電話網が入らない荒野や山岳部でも、テキストメッセージを送受信できるという機能を備えています。

 

MediaTekのライバルとなるQualcommも、「Snapdragon Satellite」として衛星通信対応のチップセットを開発していることを発表しました。QualcommのチップセットはIridium社の衛星通信サービスに対応し、スマホメーカーのOPPO、Xiaomi、Motorola、Nothing、Vivo、Honorの各社からの製品が投入される見込みです。

 

MediaTekとQualcommはともに、2023年段階だと衛星通信で送れるデータ量は限られており、当初できることは、テキストメッセージの送受信や、SOS通信の発信への対応にとどまるようです。両社はそれぞれ、今後数年かけて衛星通信の高速化を目指して開発を続ける方針を示しています。

 

欧州の“修理する権利”に応えたスマホ

Nokiaブランドでスマホを製造するHMD Globalは「自分で修理できるスマホ」として「Nokia G22」を発表しました。スマホの構造に詳しくない人でも、ある程度まで分解して、バッテリーなどの部品を交換できるようになっています。

↑Nokia G22

 

欧州では、スマホなどの電子機器を自分で修理できる方法を用意すべきだという、“修理できる権利”の主張があり、制度化に向けた議論が続けられています。Nokia G22は、この動きに対応した製品といえます。

 

Nokia G22では、分解しやすい設計を採用。交換用の部品を安価に販売することで、割れたディスプレイや、へたったバッテリー、ゆがんだUSBポートをユーザー自身で交換できるようにしています。製品開発にはスマホの修理事業者として有名なiFixitが開発に協力。わかりやすい修理ガイドを制作し、修理パーツもiFixitを通して販売されます。

↑iFixitで修理ガイドが公開されています

 

Nokia G22の背面カバーは100%リサイクルのプラスチック素材が使われており、普段使いでの頑丈さも売りとしています。3年間のOSのアップデートに対応しつつ、価格は179ユーロ(約2万5000円)と比較的お手頃です。

 

しかし、主要部品の構成を見ると、CPUはUnisoc T606(1.6GHz駆動、8コア)で、RAMは4GBとかなりスペックが抑えられており、2年以上使いつづけると、動作の重さが気になってくるかもしれません。

 

なお、日本では携帯電話をユーザー自身で分解した後、組み立て直して電源を入れると、電波法違反となります。スマホを修理したいときは、メーカーか、総務省に届け出を行なっている登録修理業者を利用してください。

 

Androidスマホに「eSIM転送」、iPhoneとの互換性は?

Googleとドイツテレコムは、Android OSが「eSIM転送」に対応することを発表しました。eSIM転送は、携帯電話の契約情報が記録されているeSIMを、機種変更先の携帯電話に転送する機能です。

↑業界標準規格の「eSIM転送」に対応すると発表

 

eSIMは物理的なSIMカードを必要としないため、スマホをオンラインで購入してすぐ使いたいときなどに便利なサービスです。ただし、今使っているeSIMの契約を新しいスマホに移したいというときは厄介。eSIMの再発行手続きはキャリアによって手順が異なるため、スマホの操作に慣れていない人には手順を調べるのも難しいと感じるかもしれません。

 

eSIM転送は、この「新しいスマホにeSIMを移す」という手順をシンプルにします。具体的には、eSIMを移し替えたい2台のスマホを横に置いて、数回のタップ操作だけで転送できるとしています。

 

AndroidでのeSIM転送機能は、2023年後半にGoogleオリジナルモデルのPixel 7で対応予定。Android OSの機能として実装されるため、他社メーカー製のAndroidスマホにも順次対応機種が広がる見込みです。

 

通信回線側はドイツテレコムの回線が最も早く対応しますが、業界標準の規格を採用しているため、日本の携帯電話キャリアでの対応も期待できるでしょう。

 

なお、iPhoneが「eSIM クイック転送」という機能を搭載しており、iPhone同士でeSIMを移し替えることが可能となっています。また、iPhone 14シリーズの北米版はnanoSIMスロットが廃止されており、すでにeSIM専用モデルとなるなど、より進んだ対応を取っています。

 

iPhoneとAndroidスマホの間でeSIMが転送できるようになるのかは気になるところですが、iPhoneの「eSIM クイック転送」はアップル独自の規格を採用しているため、現状ではOSをまたいだ転送への対応はできないものと思われます。

 

自社でスマホとOSの両方を提供しているアップルにとって、eSIM クイック転送機能は“次のiPhone”にスムーズに移行してもらうための手段の1つといえます。そこで業界標準規格のeSIM転送に対応するとなると、他メーカーへの乗り換えをスムーズにしてしまうことになるため、アップルとしてはわざわざ対応するメリットは大きくなさそうです。