Vol.128-3
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはASUSから発売された小型ゲーミングPC「ROG Ally」。ニッチではあるが売れそうなこのジャンルの製品は、どのようなニーズを満たすのか。
小型ゲーミングPCの主な用途はもちろんゲームだ。
PC用ゲームの普及・一般化により、「机の前に座っていないときにもゲームを楽しみたい、消費したい」というニーズがあるから売れる製品ではある。高性能なので一般的なモバイルPCとしても十分以上に使えるが、キーボードやマウスなどを準備してカフェなどで使うことを考えると、さすがに少し煩雑かと思う。
むしろ、デスクトップPCのようにディスプレイをつけて「据置的」に使うのが良いかもしれない。筆者もときどきそんな使い方をしているが、けっこう快適だ。
小型ゲーミングPCは10万円から15万円程度が中心価格帯となる。Steam Deckも含めるともう少し安価になるが、どちらにしても、ゲーマーではない多くの人々が考える「携帯ゲーム機」の価格帯とはかなり異なるものだ。従来の携帯型ゲーム機とは、購入層も利用層も異なる。
従来、携帯型ゲーム機は、利用者の年齢層が比較的低めの製品だった。それは「ゲームの受容層」が比較的低年齢で、ボリュームゾーンがハイティーンくらいまで……という事情も関係していたように思う。そうした市場に強い任天堂が主要なプラットフォーマーである、ということも大きく関係している。
家庭でテレビの前に子どもが張りつき、ゲーム機が悪者になる時代があった。だが携帯型ゲーム機の登場でそうした姿は減り、さらに、子ども同士がゲーム機を持ち寄ってプレイする、というスタイルも広がっていった。そうした使い方は子どもたちのライフスタイルに合っており、今後もニーズがなくなることはない。
一方で、ゲームの市場は拡大し、特に欧米市場を中心に、ゲームプレイの年齢層は拡大している。いわゆる「大人」がたくさんゲームをしているわけだが、そこでは「テレビの取り合い」や「屋外でのプレイ」は重視されない。日本の都市部のように電車通勤が多い地域はまた別として、ゲーム機の主軸が携帯型でなければならない、という事情は薄い。
ただそれでも、「家の中でどこでも遊びたい」「出張や旅行のときにも楽しみたい」というニーズは多い。特にPCゲームで、買うだけで遊ばない「積みゲー」が増加すると、その消費などの目的から、「ガチなゲーミングPCほどの画質は実現できなくても、どこでもプレイしたい」というニーズが高まってきたのは間違いない。
そうしたニッチなニーズの積み上げとして、今日の小型ゲーミングPCの市場は存在している。すべての製品を低価格にする必要がないのも、まだニッチであるが故だ。
一方で、そこに少し変化も生まれてきた。ゲーミングPCそのものではないが、特別なデバイスを用意することで対抗する流れがあるのだ。
その辺については次回解説する。
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