デジタル
2024/3/18 11:30

【西田宗千佳連載】アップルやMetaも直面。VR機器「価格」「利用率」のジレンマ

Vol.136-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはアップルが米国で発売した「Apple Vision Pro」。アップルやMetaが抱えるVRの普及速度にまつわるジレンマを解説する。

 

今月の注目アイテム

アップル

Apple Vision Pro

3499ドル~

↑2023年6月に発表となったApple Vision Proがついに発売開始。全米のApple StoreもしくはApple Storeオンラインで予約したうえでの、App Storeのみでの販売となっている。日本でも2024年下半期に発売開始の予定だ

 

Apple Vision Proの課題はシンプルだ。まだ非常に高価であり、 購入できる人が限られているということだ。アップルとしては、まず現状できる限りで質の高い空間コンピューティングデバイスを提示し、そこから完成度の向上とコスト削減をじっくり進めていくつもりだろう。だから、スマホやタブレットのようにすぐに新製品が出ることはなく、次のモデルや廉価版も、最低でも1年半以上出ないのではないか、と考えられる。

 

このことは、アップル自身の戦略としては理解できるものの、他社にとっては悩ましいことだ。特にアプリを提供する側から見ると、デバイスが普及していない限りビジネスのパイも大きくならないわけで、「どこまで投資して本気でビジネスをするのか」という判断が難しくなる。

 

Metaももちろん、高価なハードウェアを作れば体験を良くできることはわかっている。だが、彼らはまず機器を普及させ、コミュニケーション・サービスの母体となるユーザー数を確保し、そこに向けてゲームなどのソフトウェアを売って収益を得る、というビジネスモデルを持っている。だから一定価格より高いハードは作らず、普及しやすいビジネスモデルを採る。

 

ほかのスタートアップ企業の場合には、「空間にPCの画面を高精細に映す」ことに特化してゲームができるほどの性能は搭載せず、コストを抑えるところも出てきた。それはそれで、アップルやMetaとの差別化を考えるとよくわかるやり方だ。

 

ただ、利用者が増えたとしても、機器自体を毎日使ってもらえないとビジネスにはならない。ソフトやサービスの売れ行きは、ユーザー数×利用時間という形で最大化されるからだ。Apple Vision Proも、普及台数は少なくとも、本当に利用頻度の高い機器になるならビジネスになる。

 

問題は、毎日使ってもらえるには、ゲームだけでなく空間コンピューティング的な「便利な機能」が必要という点だ。それには、OS側の構造も重要になってくる。ゲームに特化した機器とそうでないもの、単一機能とマルチタスク前提のものでは、OSやユーザーインターフェースの構造が変わってくる。

 

アップルは最初からそういうOSを作ったが、MetaはOSのアップデートを行なっている最中であり、おそらく今年前半のうち、遅れたとしても年内には、Meta Quest 3向けのOSの大型アップデートがあるだろう。

 

ここからはハードウェアだけでなく、むしろOSの競争となってくる。この点は、スマホの初期にも似た様相といっていい。そのぶんコストもノウハウも必要なので、競争に参加できる企業の数も絞られて来る。

 

ただそこまでやっても、大きな課題がひとつある。

 

結局便利さが、「なにかを頭にかぶる」という不便さを超えられない可能性だ。Apple Vision Proにしても、このハードルは越えられていない。壁を越えるには、良い体験を作るのが最優先ではあるものの、「どんなメリットがあるか」をきちんと認知することも重要だ。そこでは、機器の普及も大切な要素となる。

 

各社はここから数年の間、可能性は大きいが、どこまでもジレンマがつきまとう競争に苦しむことになるだろう。

 

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