Vol.138-1
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはイギリスに拠点を置く「Nothing」が日本市場に投入するスマホ。上位メーカー数社が大きなシェアを占める日本での商機はあるか。
今月の注目アイテム
Nothing
Phone(2a)
実売価格4万9800円~
FeliCaを搭載し、日本向けに販売体制も強化
イギリスに本拠を置くデジタル機器メーカーである「Nothing」が日本に本格進出した。同社はスマホの「Nothing Phone」やイヤホンなど、特徴的なデザインを採用した製品で知られるメーカー。日本でも2年ほど前から製品を展開しているが、海外で売っているものをそのまま導入する形だった。
だが今年からは変わる。同社CEO(最高経営責任者)のカール・ペイ氏は「いままでは日本市場に合わせた製品も用意していなかった、お試しのようなもの。ここから本格的に展開する」と語る。
その一例が、同社製最新スマホである「Nothing Phone(2a)」だ。2024年4月から流通を開始した製品だが、過去と異なり、日本市場向けは他国向けと機能が異なる。いわゆる「おサイフケータイ」に対応するために、NFCだけでなくFeliCaも搭載した。日本でより多く売るには必須と判断したためだ。
さらに、マーケティング・販売・サポートなどのチームを本格的に立ち上げる。日本チームのトップとなるのは黒住吉郎氏。黒住氏はソニーモバイルでXperiaに関わり、その後楽天モバイル・ソフトバンクと携帯電話事業者でも勤務し、さらにAppleでも経験を重ねたという、日本のスマホ業界全体を見た経験を持つ、稀有な人物だ。十数年に渡り取材してきた、筆者にとっても顔なじみのひとり。そうした人物を雇用したことからも、同社の本気度が伝わってくる。
消費者側から見ると、長年にわたって不景気な日本のどこに魅力があるのか……と感じるが、Nothingは、それだけ日本市場に可能性を感じているのだろう。
コスパの高さを武器に選ばれるスマホを目指す
理由は複数ある。
ひとつ目は、“大手以外があまり定着していない”こと。ご存知のように、日本はiPhoneのシェアが高い。それ以外となると、GoogleのPixelにサムスンのGalaxy、シャープのAQUOSやソニーのXperiaといったところだろうか。
それ以外のメーカーはシェアが小さい。携帯電話事業者以外で流通する「オープン市場」(俗にいうSIMフリー製品。現在は携帯電話事業者もSIMロックをかけていないので、呼称としては正しくない)の規模も大きくない。メーカーそれぞれにファンもいるのだが、大手に食い込めるほどの存在感になっていないのが実情だ。
体制という意味ではNothingもまだまだなのだが、数年かけてブランド認知を高めれば、“指名買いされるスマホ”のひとつになり得る……と分析したのだろう。
特に同社が商機と感じているのは、おそらく「コスパ」だ。ハイエンドスマホがどんどん価格を上げていくなかで、デザインとコストパフォーマンスで目立つことができれば、十分商機があると見込んだのだろう。
では、高コスパで売れるスマホの条件とはなにか? ハイエンドと高コスパスマホはどう棲み分け、結果としてスマホ各社はどう生き残っていくのか? そのあたりは次回以降に解説していくことにしよう。
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