Vol.139-3
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは新たに登場したiPad Pro。最新のプロセッサー「M4」が搭載された理由を探る。
今月の注目アイテム
アップル
iPad Pro
16万8800円~(11インチ) 21万8800円~(13インチ)(※)
※ いずれもWi-Fiモデル
5月に発売されたiPad Proには、アップルの最新プロセッサーである「M4」が搭載されている。
アップルは自社設計のプロセッサーとして、主にiPhoneに使われる「Aシリーズ」と、主にMac・iPadに使われる「Mシリーズ」を持っている。前者はiPhoneから導入されるが、後者はこれまでMacから導入されてきた。
しかしM4についてはMacにはまだ使われていない。iPad Proで導入され、iPad Proでだけ使われている、というのは非常に珍しいことだ。
ここにはアップルならではの事情も影響している。
他社の場合、プロセッサーは、クアルコムやMediaTekなどの専業メーカーから仕入れる。プロセッサーメーカーが対象製品を定めて開発し、本体メーカーがプロセッサーのラインナップから選んで採用する形だ。
一方でアップルは、自社でプロセッサーを設計して選択する。開発と生産にコストと手間がかかるが、制約条件は緩くなる。だからこそ、アップルは「プロセッサーがその時期にあったから」ではなく、このタイミングに合わせて意識的にM4を作った……ということになる。
ただ、同じMシリーズではあっても、Macに使われるものとiPadに使われるものは同じではない。基本設計は共通ではあるものの、製品に組み込まれるものは最適化されている。だから、仮に今後M4を搭載したMacが出てきたとしても、Mac用のM4とiPad用のM4はまったく同じではない点に留意しておきたい。
iPad Pro用のM4には、タンデムOLEDを効率的に使う機構が搭載されている。これはiPad Proでの採用を前提にしたものであり、いまのMacには不要だ。そのへんもあってM4がiPad Proから……という部分もありそうだ。
それ以外の要素を見たとき、M4はどんなプロセッサーなのだろうか?
現在Macに使われている「M3」は、CPUが高効率4+高性能4の8コア、GPUが10コアで、トータルのトランジスタ数が250億となっている。対してM4は、CPUコアが高効率6+高性能4の10に増えた。GPUの世代はM3に近く、機能も近くて若干の性能アップが図られている。トランジスタ数は280億なので、性能アップぶんはCPUの高効率コアが中心、ということになる。
GPUはM3世代で大幅に強化され、ゲームなどでの性能・表現力が上がっている。それがiPad Proに入ったというのは、クリエイティブ向けの価値だけでなく、ゲームを志向したものと言えるだろう。アップルは今秋公開の新OSで、Windows用ゲームの移植を容易にする技術を強化する。以前はMacだけに対応していたが、新世代では、Windows用ゲームをiPadやiPhoneに移植しやすくなる。iPad ProでのGPU強化は、この路線で考えるとわかりやすい。
スペック上の数字が劇的に大きくなっている部分もある。それが、AI処理用のNeural Engineだ。AI処理速度の指針である「TOPS」という値で言えば、M3は18TOPS。それに対してM4は38TOPSと劇的に向上している。AIのピーク性能を拡大させているわけだ。この部分をどう使うかが、今後差別化に重要な要素となってくる。
それはどういうことなのか? そこは次回解説していこう。
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