大倉孝二インタビュー「この作品に出なければ、絶対にあとあと後悔するなと感じたんです」

ink_pen 2025/9/13
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大倉孝二インタビュー「この作品に出なければ、絶対にあとあと後悔するなと感じたんです」
GetNavi web編集部
げっとなびうぇぶへんしゅうぶ
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ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)氏が作・演出を手掛ける新作舞台『最後のドン・キホーテ THE LAST REMAKE of Don Quixote』で主人公のドン・キホーテ役を演じる大倉孝二さん。劇団ナイロン100℃に入団して以来、さまざまな役を演じてきた大倉さんが挑む“イカれたおじさん”とは――? 「まだまだ未知数だらけ」と語る稽古前の大倉さんにその胸中を伺った。

大倉孝二●おおくら・こうじ…1974年7月18日生まれ。東京都出身。1995年にKERA率いる劇団ナイロン100℃に入団。10月16日スタートのドラマ「緊急取調室」に出演。また劇場版「緊急取調室 THE FINAL」が12月26日より公開。劇作家・演出家のブルー&スカイとともに立ち上げたユニット・ジョンソン&ジャクソンとしても活動し、現在、『どうやらビターソウル』がU-NEXTにて配信中。

【大倉孝二さん撮り下ろし写真】

イカれたおじさんがむちゃくちゃなことをする物語は昔から好きでした

──主演舞台『最後のドン・キホーテ』が間もなく開幕。今作の出演について、公式コメントでは「指折りの消極的人間である私にしては珍しく『やらせてください』と即答した」とおっしゃっていましたが、まずはその思いをお聞かせください。

 

大倉 なんか大げさな感じになってますね(笑)。別に、そんな前のめりで引き受けたわけでもないんですけどね(笑)。というのも、出演の話をKERAさんから頂いたのが数年前で、新作公演ということもあり、その時は当然のごとく台本が全くなかったわけです。ですから、“どうしようかな……”と迷うだけの要素がなかったんですね。

 

――それでも“やろう!”と思われたのは何が決め手だったのでしょう?

 

大倉 これは勘に近いものかもしれませんが、タイトルや簡単な概要をうかがって、“この作品には出ておかないと、絶対にあとあと後悔するな”と感じるときがあるんです。それは舞台でも、映像作品でも。今回も同じようなことをKERAさんからの言葉から感じたので出演を決めました。

 

──公式のコメントには「(ドン・キホーテのような)イカれたおじさんの話が好きなのかも」ともありました。これも要因のひとつになったのでしょうか。

 

大倉 そうですね。KERAさんはナンセンスコメディを多く書かれる方で、ナンセンスといえば、赤塚不二夫さんや別役実さんをはじめ、“イカれた人がむちゃくちゃなことをする”という共通したものがあるように感じるんです。僕自身、若い頃からナイロン100℃の劇団作品でもそういう役を演じてみたいなと思っていましたし、どこか好きな部分があるのかもしれないです。

 

──そして今回演じるのがタイトルロールであるドン・キホーテ役。まさにイメージ通りの役柄になりそうですね。

 

大倉 ただ、イカれた人間の役に憧れを持っていたのは過去の話で、むしろ今はそれほどでもないんです(笑)。だって今は、物語以上に現実の世の中のほうがイカれてますから。昔は社会がまだちゃんとしていて、自分の心も平和だったから、そう思っていたのかもしれないです。……いや、ちょっと違いますね。昔は自分の心が平和だったんじゃなく、単に世の中のことが何も見えてなかったんだと思います。自分のことしか見えていなかった。だから、先輩方が演じるイカれたおじさんの役を見て、安易に、“面白いな、やってみたいな”と思っていたのかもしれません。

 

──なるほど。また、今作はナイロン100℃の代表作のひとつである『カラフルメリィでオハヨ』に近い作品になるかもしれないとKERAさんのコメントにありました。大倉さんも二度、この作品に出演されていますね。

 

大倉 これまでに4回上演され、僕が出演したのは再々演と再々々演でした。妄想と現実が交互に繰り返していく物語になっていて、今回の『最後のドン・キホーテ』も2つの世界を行ったり来たりするような構造になりそうです。とはいえ、まだ最後まで台本をいただいていないので、どうなるかわかりませんが(※取材時)。それにKERAさんは、愉快さや、多幸感のあるような終わり方をするつもりもないとおっしゃっていましたね。……いや、これもはたしてどうなるかわかりませんけどね(苦笑)。その答え合わせをする意味も込めて、ぜひ劇場に足を運んでいただければと思います。

物語がどこに向かっていくのかわからないままでの稽古には、もう慣れました(笑)

──今回の『最後のドン・キホーテ』はKAAT神奈川芸術劇場プロデュース公演となります。KERAさんが生み出す舞台に関して、劇団公演とそれ以外での作品にどのような違いがあると思われますか?

 

大倉 劇団以外というと、緒川たまきさんと一緒にやられているケムリ研究室やKERA・MAP、それに今回のような劇場のプロデュース公演などがありますが、それらと比べてここ数年の劇団公演はあまり一般性を気にされていないのかなという気がします。あくまで僕の印象ですが。例えば、最近の劇団公演だとナンセンスコメディの『イモンドの勝負』や『江戸時代の思い出』がありましたが、物語がどこに向かっていくのか本当にわからなかったんです(苦笑)。

 

──KERAさんはいつも稽古で俳優のお芝居を見ながら物語の展開を作り上げていくタイプの作家さんですから、とくにストーリーがどう転がっていくかわからないナンセンス作品だと、役者さんはより難しさを感じるかもしれませんね。

 

大倉 そうですね。でも、稽古初日の時点で台本が完成してないということについては、それほど苦労はしていないんです。いや、相変わらず大変さがありますし、最初から台本があるにこしたことはないんですが、そこはもう慣れました(笑)。それに、語弊があるかもしれませんが、もともと僕は作品のテーマ性を読み解くとか、観客にこれを伝えたいといった思いで芝居をすることが少ないです。あくまで演出家が目指すものに応えていくことを意識している。これはきっと役者さんによって考え方が違うでしょうし、何が正解ということではないんですが。

 

──なるほど。また、先ほど話題に出た『イモンドの勝負』では主演を務めていらっしゃいました。今作も主演ですが、やはり意識されますか?

 

大倉 正直に言うと、そういうのもないんです。責任を持たなくちゃいけないんだろうなとは思いますが、そもそも“責任がある”と感じて何かいいことあるのかなって考えてしまう(笑)。無責任にやるつもりもないですが、無理してリーダーシップみたいなものは見せず、普段通りにやるべきことをやるということを今回も心がけたいなと思っています。それに、KERAさんの作品は登場人物たちそれぞれにスポットが当たり、群像劇になっていることが多いんです。僕が演じるのがドン・キホーテ役ですから物語の中心に立つようなイメージがあるかもしれませんが、キャスト全員で作品の世界観を作るということを目指していきたいですね。

真空管アンプとレコードで聴くジャマイカ音楽にハマっています

──ここからは趣味についてもお聞きしたいのですが、大倉さんはレコードがお好きで、真空管アンプもお持ちだと伺ったことがあります。

 

大倉 そうなんですよ。むしろ、趣味といえばレコードを聞くくらいで。もともと10代の頃から音楽が好きで、なけなしのお金でレコードも買っていたんですね。でも、演劇を始めてからは食べるものも買えないような生活に突入し、音楽にお金なんて全くかけられない時代が続いたんです。ただ、15年ほど前に、ある方のお宅でエディ・コクランの「Somethin’ Else」をレコードを聴かせてもらったところ、CDで何度も聴いたことのある歌なのに、全然違う曲に聴こえて本当に驚いたんです。それで、その感想を素直に伝えたら、「そうだよ。レコードはそうなんだよ」と言われて。それ以来、聴く音楽は全部レコードに変えました。

 

──真空管アンプを買われたのも同じくらいのタイミングだったのでしょうか。

 

大倉 アンプはもうちょっとあとです。やっぱりなかなか安いものでもないので(笑)、資金がようやく整ったところで思い切って買いました。つい先日、その真空管アンプにノイズが出てしまって。本当に血の気が引いて、原因究明のために秋葉原に走って、非常に気難しそうなおじいさん相手に真空管を買ってきました(笑)。ものすごく優しいんですけどね。

 

──やはり真空管アンプだと音は違いますか?

 

大倉 これは本当に違います。もちろん、聴く音楽にもよりますけど、アコースティックの楽器を使っている音楽は、より温かみがあると言いますか、すぐ近くで生演奏をしているような感覚がありますね。……まあ、僕はそんなエラそうに音の質や曲の良し悪しを語れるような人間ではないんですけど(笑)。

 

──でも、そこまでこだわると、やはりレコードの針やスピーカーにも手を出したり……?

 

大倉 いや、これがですね……そこまでやってしまうと、もう地獄に足を突っ込んでしまうようなものなんです(笑)。こだわりすぎると、最終的には電圧まで気にして、庭に専用の電柱を立てちゃう人がいるほどですから。なので、家族と話して、「これだけはちょっと買わせて」とお願いするもの以外は我慢しています。

 

──先ほどエディ・コクランの話題が出ましたが、普段はどのような音楽を聴いていらっしゃるのでしょう。

 

大倉 聴く音楽の幅は広いです。ただ、若い頃よりはロックが減って、特にここ数年はジャマイカ音楽が増えましたね。スカやレゲエはみんな知っていると思うのですが、その2つを繋ぐ架け橋のような形として存在したロックステディと呼ばれるジャンルがあり、それが今は一番好きです。時代でいうと1960年代の後半くらい。2拍と4拍を強調したようなジャマイカにしかない独特な拍の味わいや、カリブ海のエッセンスとアメリカの古き良きR&Bやソウルミュージックが組み合わさったかのような音楽が楽しめて、聴いているとすごく心地良いんです。

最近は台本も電子化が進み、ちょっと困り始めています

──では、音楽以外で今気になっている家電、または欲しいなと思っている家電などはありますか?

 

大倉 僕はパソコンとかそういうジャンルのものを一切持っていないんですよ。唯一あるのがスマホぐらい。ただ、最近はドラマや映画の現場でも、紙の台本というものがなくなりつつありまして。それで、マネージャーからメールで台本のファイルが山のように送られてくるんですが、スマホだと読みにくいったらありゃしないんです(笑)。

 

──画面が大きなスマホもあるとはいえ、限界がありますよね。

 

大倉 そうなんです。ページを拡大しなきゃ文字が読めないし、大きくしたらしたで、次の行に指で移動させるのが大変だし、そのうち気づいたら別のページになっていたりして。なので、やむにやまれずタブレットの類をそろそろ買わないといけないなと思い始めています。

 

──台本が電子になると、ちょっとしたメモを書き込むといった作業にも変化が起きそうですね。

 

大倉 その点は大丈夫です。僕は全く書かないので(笑)。昔、KERAさんにも言われました。「お前はダメ出しを聞きにくるのに、なんで鉛筆を持ってないんだよ」って。でも、そのうち言われなくなりましたけどね。“あ、こいつ書かないんだな”って認識されたようで(笑)。

 

──(笑)。書き込み作業の必要がなく、メールでファイルを受け取ったり、台本を読む程度であれば、数万円の安いタブレットで十分だと思いますよ。

 

大倉 そうなんですか? それはいいことを聞きました。どういうものを買えばいいのかもさっぱりわからなかったので、ナイスなアドバイス、ありがとうございます!

 

 

KAAT 神奈川芸術劇場プロデュース
『最後のドン・キホーテ THE LAST REMAKE of Don Quixote』

【神奈川公演】2025年9月14日(日)〜10月4日(土) KAAT神奈川芸術劇場
【富山公演】2025年10月12日(日)・13日(月・祝)オーバード・ホール
【福岡公演】2025年10月25日(土)・26日(日)J:COM北九州芸術劇場
【大阪公演】2025 年 11月1日(土)〜3日(月・祝)SkyシアターMBS 

詳細はhttps://www.kaat.jp/d/don_quixote

(STAFF&CAST)
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
音楽:鈴木光介
演奏:鈴木光介、向島ゆり子、伏見 蛍/細井徳太郎、関根真理、関島岳郎
振付:小野寺修二
映像:上田大樹
出演:大倉孝二
咲妃みゆ、山西 惇、音尾琢真、矢崎 広、須賀健太
清水葉月、土屋佑壱、武谷公雄、浅野千鶴、王下貴司、遠山悠介
安井順平、菅原永二、犬山イヌコ、緒川たまき、高橋惠子

(STORY)
騎士道物語を読みすぎたあまり、やがて現実と妄想の区別がつかなくなり、自身を遍歴の騎士だと思いこむようになってしまったドン・キホーテ。スペインの作家ミゲル・デ・セルバンテスによるこの普遍の長編小説は、テリー・ギリアムをはじめとする多くのクリエイターたちに愛され、幾度となく映像、舞台化されてきた。そして今回、満を持してKERAが独自のアレンジと解釈でこの魅惑の物語に挑む。

 

撮影/映美 取材・文/倉田モトキ ヘアメイク/山本絵里子 スタイリスト/JOE(JOE TOKYO)
衣裳協力/BUENAVISTA、ESTNATION、パントフォラ・ドーロ

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