エンタメ
2017/6/18 17:50

女性向けコミックが描く“性”と“モラハラ”―― 話題作『セフレの品格-プライド-』に寄せて

覗けば深い女のトンネルとは? 第28回「女性向けのコミックが自立を促すワケ」

 

『セフレの品格プライド』という女性向けのコミックがおもしろくて既刊11冊大人買いしてしまった。たぶん男性の想像する「セフレの話」とは違う内容だと思いますが。

 

主人公はバツ2の36歳抄子。久しぶりに出身地に戻ってきて同窓会に出席してみたら、たいていの男子は見るも無惨になっていたけど、産婦人科医の一樹だけは昔のまま。いいムードになっていきなり関係してしまうところから話が始まります。わお、大人っぽい!

 

抄子は、てっきり付き合うことになると思っていたのに、一樹は「バツ2で結婚願望のない抄子となら楽しく遊べそうだ」、つまりセフレになれと言い出します。そんな都合のいい関係になれだなんて、女をバカにしてるわ! フザケンナと思ってその場を去る抄子。 

 

一方で同じ同級生でめっちゃくちゃ美人で金持ちの夫を捕まえた華江は、一樹とセフレの関係にあります。そして抄子に3Pを持ちかけます。な、なんて破廉恥な……

 

男性向けAVだと女は脳天気なことが多いですが、これは女性向けのストーリーです。抄子にも一樹にも華江にも、それぞれそういう考え方になったのには理由があり、それがじっくり描かれます。

 

一樹は女性ででっかいトラウマがあり「もう信用するもんか」みたいな気になってます。まー女性向けコミックにはよくあるパターンですね。なんか影があるらしいことがわかった瞬間に、結末が見える感じです。つまり主人公が彼の傷を癒してハッピーエンドですわ。ここは鉄板の展開です。でもここは唯一、このストーリーで安心感が得られるパートなので問題ありません。

 

そして華江にも理由があります。彼女は、乳がんを患い、両乳房を摘出してしまったんです。女ではなくなってしまったという絶望感に打ちひしがれている華江。夫は優しいけれど抱いてくれなくなった。でも一樹は「オレは華江に欲情するよ」と言って抱いてくれるんです。ううむ、これは嬉しいだろうなあ。

 

そして一樹のセフレ提案を断った抄子だけど、なんやかんややるうちに「割り切った関係もいいかも」と思うようになり、一樹のセフレになることに決めるんです。ま、「一樹は上手かった」ってことなんですが。だけど、その関係も最初からそう上手くは行かず、悩んだり戸惑ったりしながら試行錯誤して、居心地のいい関係を探っていきます。

 

この作品が面白いのは、女が抱える悩みや心配事がすべて詰まっているところです。

 

抄子は子宮筋腫で子宮摘出の危機になり、華江は乳がん。主要人物たちが女性系の疾患になり、複雑な心理が描かれます。性に関する葛藤もあの手この手で描かれます。援交を行う女子高生、同僚からの「正社員にしてやるから飯に行こう」セクハラ、超絶年下男子との恋愛、障がい者の性、同性愛、プラトニック、結婚、妊娠、子育て……。もう性教育の玉手箱みたいです。女はやっぱりそこらへん、脳天気にはなりきれないんですよね。

 

そして抄子は1回目の結婚相手にモラルハラスメント(モラハラ)をされていました。料理がまずい、掃除くらい完璧にやれ、妊娠は病気じゃないだろ、誰に食わせてもらってる? などの暴言の数々。何から何まで否定され、「おまえはできないヤツだ」と刷り込まれた抄子は「夫を怒らせる自分はダメな人間だ」と思うようになっていきます。

 

興味深いのは、夫によるモラハラの話が、今話題のドラマとその原作『あなたのことはそれほど』にも登場することです。しょこたんが演じてる奥さんが夫からあれこれバカにされてますね。

 

男の人って、女を自分の手の中に囲って優位に立ちたい願望がありそうですよね。「バカだなあおまえは!」「こんなこともできないんだ?」なんてからかったり。和久井もけっこうな確率で経験があります。でもそれ、ちょっと間違えればモラハラです。一度モラハラを受けると、人は自分に自信がなくなるため、なかなかそこから抜け出せません。専業主婦なら、そんな夫と別れたくても金銭的な自信が持てないかもしれません。

 

女性向けのコミックは、女の自立を描くことが大変多いです。男性に金銭的に負うことはあっても、精神的に自立をしないと、幸せはやってこない。「女を小バカにして見下すような男をさっさと切り捨てる勇気を持ち、自信を失っちゃダメよ」と先生方が教えてくれているような気がします。