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2018/3/27 21:00

出会いと別れの季節に聴きたい―― ギャランティーク和恵が選ぶ「男と女の別れ歌」

みなさんこんばんは、ギャランティーク和恵です。毎月その季節に合わせた歌謡曲を10曲選び抜き、みなさんにご紹介する「マンスリー歌謡プレイリスト」。今月は「別れ歌」特集です。春といえば別れの季節。卒業式で友人たちとの別れもありますし、新しい環境に変わるために住んでいた町との別れなんかもあります。しかしやっぱり歌謡曲には男女の別れ歌がほとんどです。それは季節関係なく年中あることですけど……。ということで、春を感じるかどうかはさておき、ワタシがグッとくる恋人たちの「別れ歌」を厳選してお送りいたします。泣かないでね……。

↑ギャランティーク和恵さん(撮影:下村しのぶ)

 

01.また逢う日まで/尾崎紀世彦
(作詞:阿久 悠 作曲/筒美京平)

まずはベタにみなさんがよく知ってるであろうこの曲からスタート。1971年にリリースされた尾崎紀世彦さんの2枚目のシングル曲。もともとは三洋電機のエアコンのCMソングとして作られた曲がボツになってお蔵入りしていたものでしたが、阿久 悠さんの作詞によって、当時ヒットしていたズーニーブーというグループに「ひとりの悲しみ」というタイトル曲でリリースさせたもののやっぱりヒットせず。その後、歌詞のテーマを「別れ」に変えて、さらには力強いボーカルの持ち主に歌わせればヒットするだろうと、尾崎紀世彦さんに「また逢う日まで」というタイトルで歌わせたところ大ヒット、1971年のレコード大賞を獲得するまでとなりました。……という逸話は歌謡曲愛好家のなかでは有名な話。男女の別れを、「誰かが立ち去り誰かが悲しむ」という構図ではなく「ふたりで決意して別々の道を歩み出す」という前向きな別れを描いた新しさに、作詞家としての阿久 悠さんの挑戦が伺えます。

 

02.美しい別れ/いしだあゆみ
(作詞:なかにし礼 作曲:加瀬邦彦)

お次は、1974年にリリースされたいしだあゆみさんの44枚目のシングル曲。タイトル通り「美しい別れ」にするため、旅立つ男との別れまでの時間をわざと1時間残しておくという小憎い演出をする女の歌。この歌の中の2人の「別れ」というのは決して悲しい結末を迎えた恋の終わりではなく、愛し合っているけれども離れなくてはいけなくなったやむを得ない事情の上での「別れ」で、だからこそせめて悲しい気持ちでお別れするのではなく、最後まで楽しい時間を過ごしたいと願う気持ちが痛いほど伝わります。こんな粋な女でいられたらいいですよね……。

 

03.リクエスト/ジュディ・オング
(作詞・作曲:中村泰士)

続いて、1976年にリリースされたジュディ・オングさんのシングル曲。一度コロムビアでリリースしたものの、ソニーへ移籍した後1980年に改めて録音し直してシングルでリリースするほど、きっと本人もこの曲がお気に入りだったのではと思わせる、隠れた名曲です。こちらも恋の終わりの歌う別れ歌ですが、歌謡曲によくある「捨てられてさめざめ泣きすがる」みたいな女ではなく、悲しみを隠しつつ最後の夜のデートを楽しみながら、別れの瞬間にもどこか凛として気品を漂わせる、大人の女性の美しさと強さを感じます。別れのシーンをエレガントにできるかどうか、そこが上質な女であるかどうかのポイントです。

 

04.孔雀の羽根/安倍律子
(作詞:千家和也 作曲:筒美京平)

4曲目は、1974年にリリースされた安倍律子さんの14枚目のシングル曲。こちらは70年代ならではの「男に捨てられ逃避行」系失恋ソング。この頃の歌は失恋すると住んでた街から出て行くパターン多いのよねぇ……。新しく住むアパートとか新しい仕事とか探すの大変だろうなぁとか勝手に心配しちゃいます。しかしこの歌、男を「孔雀」と見立てて、「孔雀が羽根を広げるように心を変えた」という多少意味がわからないけれどどこか仰々しいキッチュな歌詞世界が素晴らしい。そこがほかの「男に捨てられ逃避行」系のどこか自虐的で貧乏くさい感じとは一線を画しています。良曲。ちなみにワタシもCD「ANTHOLOGY#4」にてカバーしておりますのでぜひ聴いてみてくださいませ。

 

05.ワン・シーン/近田春夫
(作詞:山口洋子 作曲:近田春夫)

お次は、1979年にリリースされた近田春夫さんのLP「天然の美」からの1曲。沢田研二さんの「勝手にしやがれ」はみなさんご存知だと思いますが、この「ワン・シーン」という曲、スーパースターのジュリーに対してや、「勝手にしやがれ」という大ヒット曲へのオマージュもありつつ、どこかアイロニカルに山口洋子センセーは歌詞を書かれたのでは? という個人的な見解を元に、両曲を比較しながらこの「ワン・シーン」という曲の素晴らしさをお伝えできれば思います。女の家に転がりこんで1年ほど住んでいた男が、ある日部屋に帰ってドアを開けると別の男がいて、そのまま何も言わず扉を閉めて出てゆく……というまさにワン・シーンを歌った歌なのですが、「行ったきりなら幸せになるがいい」(勝手にしやがれ)的なセリフで「世話になったな!」と気障にキメたいが、「言葉のナイフでぶった切るほど熱い仲でもなかったな……」と冷静になってみたり、「背中で聞いている」(勝手にしやがれ)ものは、ドアを閉めたあとに聞こえてくる男と女の堪え加減の笑い声だったり、「思い出かき集め鞄に詰め込む」(勝手にしやがれ)ほど長い仲でもなかったことに気付いたりして、みんなジュリーに憧れているけれど、現実は「勝手にしやがれ」みたいにはいかず結構淡白で情けないものだったりするし、この歌の男のほうがワタシはジュリーよりもアーバンを感じます。ということでワタシは断然「ワン・シーン」派です。近田春夫さん大好きすぎて文章長くなってしまいました。ゴメンナサイ。

 

06.ロマンチスト/伊東ゆかり
(作詞/松本 隆 作曲:筒美京平)

6曲目は、1977年にリリースされた伊東ゆかりさんの36枚目のシングル曲。こちらも「部屋」が出てくるのですが、この「部屋」というのは、恐らく主人公の女の部屋だとは思うのですが、歌詞の中の「カフスをはめ込む」とか「シーツをすっぽりとかぶって」などの言葉に、これはラブホテルか? という感じもします。どことなくアダルト。松本 隆さんの描くモチーフや男の仕草がいちいちキザで、別れの男女(というか一方的に男)がここまでカッコつけられたら絵にはなるのですが、実際にこんなナルシストな男に捨てられたらワタシならムキーッとなりそうです。主人公の女も、そんな終始キザに決める男(ウザい)にムキーッとなりながら、そんな男に惚れてしまった自分を責めつつ、部屋を出たあとまでキザに決めまくる(マジウザい)男に結局キュンとしてる自分にも気づいているのです。あるある〜!

 

07.春なのに/柏原芳恵
(作詞・作曲:中島みゆき)

こちらは1983年にリリースされた柏原芳恵さんの14枚目のシングル曲。春だから選んでみました「春なのに」。春は別れの季節……という今回のテーマには1番ピッタリな曲ですね。卒業式での好きな人との別れを描いたこの曲、当時のヨシヨシとしても歌の主人公と同じ年頃だとは思いますが、可愛げなおぼこい歌い方をしつつ、1番のAメロの「それだ〜けです〜か〜」という部分だけ妙に大人っぽく怨念深い声になっているのが聴きどころ。どんな時代のアイドルにも、10代にしてすでにスナックの香りが漂うオヤジ受けするアイドルっていると思うんですが、柏原芳恵さんもその1人ですよね。

 

08.花吹雪/ちあきなおみ
(作詞:吉田 旺 作曲:都倉俊一)

この曲は、1975年にリリースされたちあきなおみさんの19枚目のシングル曲。こちらも卒業をテーマにした春の別れの曲。しかしちあきなおみさんが歌う卒業ですから、そう一筋縄にはいきません。卒業したのは好きだった男の方で、そんな男子大学生と付き合っていたスナックのママ、という設定です。ヨシヨシもビックリ! 大学を卒業して、就職か何かで地元へと帰ってゆく男を見送り、そのタイミングで自分の店を閉めて故郷へ帰る決意をする歌。スナックのママと付き合っちゃう男子大学生もなかなかやるな、という感じですが、男子大学生と付き合っちゃうママもママでなかなかやるな、という感じです。一体何歳の設定なんだろう……。しかもそんなママを男子大学生はビンタとかしちゃったりして、もう何? プレイ? 桜も散ってて和風SMの匂いもしてとにかく官能小説のようなエロティシズムを感じます。

 

09.ブルースカイブルー/西城秀樹
(作詞:阿久 悠 作曲:馬飼野康二)

お次は、1978年にリリースされた西城秀樹さんの26枚目のシングル曲。こちらも一筋縄にはいかない男女の別れの歌です。いわゆる「不倫」関係にある2人で、恐らくこの男女、男はまだ血気盛んな20代前半くらい、女は30代くらいの人妻でしょうか。周りの大人からの忠告を無視してでも、その若さゆえの情熱で彼女の自分のものに奪い取ろうとしたあの日。しかし、その女とは結局終止符を打たれ、二度と逢えない関係となってしまったのです。歌詞では「遠く連れ去られ」るという表現でそれを描いているのですが、結婚相手の男が主人公と妻の関係を断ち切るために強引に遠い街へ移り住んだのか、もしくは女が何かの理由でこの世から去ってしまったのか、そこは色々と想像をさせます。これが後者だった場合、愛し合ってしまったからこそ彼女を追い詰めてしまった結果だったかもしれません。そして少しばかり大人になった今でも、目に沁みるほどの青空を見るたびに、あの若き日々の愛と悲しみと過ちが蘇ってくるという、なんとも切なく胸に突き刺さってくる歌です。ブルースカイブルーは青春の青。阿久 悠センセー、深すぎます。

 

10.いつか何処かで/平山三紀
(作詞:橋本 淳 作曲:筒美京平)

最後はこの歌でお別れです。1972年にリリースされた5枚目のシングル「希望の旅」のB面曲。アップテンポで軽快なリズムにのせて、爽やかに別れを歌います。平山ミキティもビンビンにハネまくって歌ってます。フィフス・ディメンションの「ビートでジャンプ」を明らかに下敷きにしていて、当時他にもこの曲をベースに作られた歌謡曲がいくつかあり、それをまとめてワタシは「ビートでジャンプ」歌謡と言っております。この歌も男女の別れを歌った歌ですが、もっと男らしくなって帰っておいでと女が旅立ちを送り出すという歌。橋本 淳さんの歌詞にはよく「心を開く」とか「心の扉」とか「心」というモチーフが出てきますが、この曲にも「自分を変え 心を閉ざさずに あなたにふさわしく」という強いメッセージが。こんなことを別れ際にサラリと言える、海のような懐の深い女になってみたいものでございます。

 

以上、今月のプレイリスト、3月は「別れ歌」を特集してお送りいたしました。そういうワタシも、実はひとつお別れのお知らせがあります。なんと、数か月に渡りお送りしました「歌謡プレイリスト」ですが、なんと! 今月で最終回となってしまいました。理由(わけ)は聞かないで……。その代わりといってはなんですが、4月より新しい企画が用意されております。そちらのほうをどうぞ引き続きお楽しみに!(つまりまだ別れません。)

 

【インフォメーション】

ギャランティーク和恵さん、ミッツ・マングローブさん、メイリー・ムーさんによるコーラスユニット・星屑スキャットの1st ALBUM「化粧室」が2018年4月25日に発売決定しました!これまでのシングルに加え、“星屑スキャットを見初めた男”リリー・フランキー作詞「新宿シャンソン」を初収録するなどバラエティに富んだ作品に仕上がっています。どうぞお聴き逃しなく!

【収録曲】

DISC1

1.Knock Me In The Middle Of The Night
2.愛のミスタッチ
3.ANIMALIZER (2018 new mix)
4.半蔵門シェリ
5.波の数だけターコイズ
6.降水確率
7.星屑スキャットのテーマ (2018 new mix)
8.マグネット・ジョーに気をつけろ (シングル・バージョン)
9.Interlude – Cosmetic
10.コスメティック・サイレン
11.REMEMBER THE NIGHT (2018 new mix)
12.HANA-MICHI
13.ご乱心 (2018 extended mix) ※Bonus Track

DISC2

1.新宿シャンソン

 

そして、2018年6月9日(土)10日(日) 丸の内「COTTON CLUB」にて星屑スキャットLIVE 2018「化粧室で逢いましょう」の開催も決定! 詳しい情報は、日本コロムビアの「星屑スキャット」公式サイトでチェック!