2枚目「筒美京平自選作品集〜アイドル・クラシックス〜」(ビクター/VICL-64903~4)
【Disc1】
1.「悲しみのアリア」石田ゆり(作詞/なかにし礼 編曲/筒美京平)
石田ゆりさんはいしだあゆみさんの妹で、作詞家のなかにし礼さんの奥様です。バロック調でメロディもクラシカルで美しく、まさに「アイドル・クラシック」というタイトルの1曲目にふさわしい。
2.「17才」南 沙織(作詞/有馬三恵子 編曲/筒美京平)
南 沙織さんがデビューするときに「何が歌えるの?」という質問に「ローズ・ガーデン」と答えたことからこの曲が生まれたという逸話は有名。ワタシはその「ローズ・ガーデン」という歌を知らず「17才」が先だったので、のちに「ローズ・ガーデン」を聴いたときの驚きは大きかった。これはパクリなんて簡単なことではない、非常に高度なサンプリングだと思いました。
3.「芽ばえ」麻丘めぐみ(作詞/千家和也 編曲/高田 弘)
特筆すべきは麻丘めぐみさんの高い歌唱力。フレーズ一つ一つに対する表情、声色、そして抑揚などが完璧であることに改めて気づかされました。にしても「足にまめをこさえて」ってスゴい歌詞だわね……。
4.「初恋のメロディー」小林麻美(作詞/橋本 淳 編曲/筒美京平)
一方、小林麻美さんの歌唱力はとてもたどたどしく、むしろ外国人かな? というくらい日本語の発音やフレーズの表情がちぐはぐ。でもそこがアイドルとしての魅力もあるのでしょう。
5.「私は忘れない」岡崎友紀(作詞/橋本 淳 編曲/筒美京平)
岡崎友紀さんのファルセット部分のせつなさと、地声部分の甘酸っぱさがうまくメロディのなかで表現されています。
6.「赤い風船」浅田美代子(作詞/安井かずみ 編曲/筒美京平)
子供心に感じる夕暮れの寂しさや怖さみたいなものを感じる曲。歌詞もよく読むとちょっと怖い。
7.「娘ごころ」水沢アキ(作詞/山上路夫 編曲/筒美京平)
この曲好きな人多いのよね。しかも男の人に多いの。なんだろ、ファンタジー?
8.「わたしの彼は左きき」麻丘めぐみ(作詞/安井かずみ 編曲/筒美京平)
やっぱ歌うまい。
9.「恋のインディアン人形」リンリン・ランラン(作詞/さいとう大三 編曲/筒美京平)
外国人によるカタコト日本語歌謡の金字塔。このズンドコくる重めのサウンドもたまりません。
10.「ほほにかかる涙」エバ(作詞/橋本 淳 編曲/筒美京平)
70年代アイドル歌謡の大名曲。ゴールデン・ハーフ解散後のエバのソロ曲。アン・ルイス「グッド・バイ・マイ・ラブ」を思わすドリーミーでセンチメンタルなメロディですが、やはり京平センセー、Bメロで展開されるコード進行で歌の景色の縮尺を一気に広げるところはさすがです。
11.「ロマンス」岩崎宏美(作詞/阿久 悠 編曲/筒美京平)
京平センセーにとって岩崎宏美さんは、自分の音楽を表現してくれる歌手の1人として大事にされていたと思われます。京平センセーがディスコ・サウンドに傾倒し、歌謡曲との融合を試みていたころ、それと同時期に現れた彼女の歌唱力や表現力を味方につけて、ディスコ歌謡の量産にパワーを注いでいたように思えます。なので、岩崎宏美さんの70年代のオリジナル曲は、かなりクオリティの高く名曲揃いです。必聴。
12.「センチメンタル」岩崎宏美(作詞/阿久 悠 編曲/筒美京平)
そんなディスコ歌謡の可能性は、ざまざまな試みへと展開されます。岩崎宏美さんの2枚目のLP「ファンタジー」は、当時ラジオDJでも名を馳せていた「糸居五郎」さんを起用し、曲と曲の間をDJで繋げるという斬新なスタイルで発売されました。この「センチメンタル」もLPに収録されています。まんまディスコではなく、ディスコ・サウンドのエッセンスを見事に取り入れた、まさに「ディスコ歌謡」の名曲。
13.「木綿のハンカチーフ」太田裕美(作詞/松本 隆 編曲/筒美京平・萩田光雄)
「日本人ならば知っておくべき歌謡曲10選」みたいなのがあるとすれば、きっとこの曲は入るのであろう、歌謡史に燦然と輝く大名曲。とりあえず若い人たちもこの曲くらいは聴いておきましょう。日本人としての嗜みです。
14.「セクシー・バスストップ」浅野ゆう子(作詞/橋本 淳 編曲/高田 弘)
先ほどの岩崎宏美さんの「センチメンタル」のようなディスコ歌謡ではなく、京平センセーが「Jack Diamond」名義で和製ディスコに取り組んでいた頃のインスト作品で、それを橋本 淳センセーの作詞で浅野ゆう子さんが歌ったもの。その後「ハッスル・ジェット」「ムーンライト・タクシー」と京平ディスコ3部作をリリースします。まさにゆう子はディスコ・クイーン。
15.「恋のハッスル・ジェット」シェリー(作詞/橋本 淳 編曲/船山基紀)
その浅野ゆう子さんがリリースした「ハッスル・ジェット」と異名同曲「恋のハッスル・ジェット」をシェリーも同時期にリリースしています。シェリーの声って、誰かの声に似てるな~と思ったら、南 沙織に似てますよね。どこか攻撃的な声。
16.「6年たったら」五十嵐夕紀(作詞/松任谷由実 編曲/萩田光雄)
70年代アイドル歌謡の名曲のひとつ。なんでしょう。「完璧」としかいいようがない。
17.「リップスティック」桜田淳子(作詞/松本 隆 編曲/筒美京平)
ズンコの「リップスティクス」を歌謡ファンの中では名曲とされていて、もちろんワタシもこの曲は名曲だと思っているのですが、なんかピンと来ない感じもあって、何でだろうな~と思っていたのですが、最近分かったんです。この曲をもし岩崎宏美さんが歌ってたら、ワタシもそう納得出来てたんではないかと。ズンコ、ゴメン。
18.「シンデレラ」高見知佳(作詞/橋本 淳 編曲/船山基紀)
あかん! 名曲続きや! これこそホント「完璧」としかいいようがない。起承転結ある展開、そして何より高見知佳さんのヴォーカル表現の巧さ。特に高音部分。
19.「日曜日はストレンジャー」石野真子(作詞/阿久 悠 編曲/筒美京平)
これも歌謡ファンの中で名曲とされています。「仮面つけて生きていいのよ~」のサビメロが泣けるよぉ。でも今のいままで、「仮面つけて生きてい~ろよ~」と歌っていたのだと思ってました。最後の最後で出てくる、ワタシ曰く「デザートメロ」があり、そこで「ごちそうさま!(はぁ~いい曲!)」って気分になります。
20.「ROBOT(ロボット)」榊原郁恵(作詞/松本 隆 編曲/船山基紀)
出ました、筒美京平meetsテクノ。テクノブームに対しての京平センセーの回答。バート・バカラックであろうとディスコであろうとテクノであろうと、京平センセーにかかれば誰もが美味しくいただける見事な「日本食」へと変わるのです。
【Disc2】
1.「センチメンタル・ジャーニー」松本伊代(作詞/湯川れい子 編曲/鷺巣詩郎)
伊代ちゃんのフワフワした歌唱が耳心地良い。すべてのフレーズの語尾が下降カーブを描くクセはむしろ高度な技術であり、聖子のような語尾をシャクり上げる巷のアイドルからは一線を画する歌唱表現方法として新鮮だったのかもしれない。
2.「夏色のナンシー 」早見 優(作詞/三浦徳子 編曲/茂木由多加)
近年のポップスは、AメロやBメロやサビなどのブロックごとに意外性のある転調をするというのが流行っていますが、この曲は大きく転調はしていませんがその気配を感じます。という意味でかなり新しい。
3.「エスカレーション」河合奈保子(作詞/売野雅勇 編曲/大村雅朗)
先ほどの「夏色のナンシー」のように、イントロや間奏に歌詞の一部を持ってきて、しかもそれをコーラスに歌わせるパターンが流行ってたのか、この頃の歌謡曲に多く見られます。オシャレではありますが、ワタシとしてはバンドとかで歌いたくてもコーラスを2人くらい雇わないと再現できないという辛さがあります。
4.「ト・レ・モ・ロ」柏原芳恵(作詞/松本 隆 編曲/船山基紀)
かなり高度な楽曲かと。お茶の間を軽く突き放したような、そう簡単には飲み込ませてくれない通好みなメロディですが、京平センセーはこれをヒットさせるつもりで書いていたとすればかなり挑戦的だと思います。
5.「卒業」斉藤由貴(作詞/松本 隆 編曲/武部聡志)
みんなこの曲好きよね~。聞き慣れてるからあまり意識しなかったけど、このAメロの符割りとメロディってスゴい。歌詞を当てるためにこういう符割りになったのか、京平センセーがすでにこの符割りを用意していたのか。
6.「あなたを・もっと・知りたくて」薬師丸ひろ子(作詞/松本 隆 編曲/武部聡志)
はぁ……名曲! すべてに紗がかかっているようにキラキラしていて、なんとなくクリスタル。1985年、電電公社から民営化しNTTとなったキャンペーン・ソングとして作られたこの曲は、通信によるコミュニケーションがパーソナルでファッショナブルになってゆく新しい時代の幕開けソングともいえる。しかし現代では「あなたを・もっと・知りたくて」ではなく「わたしを・もっと・知ってほしい」になってきてますが……。
7.「なんてったってアイドル」小泉今日子(作詞/秋元 康 編曲/鷺巣詩郎)
アイドルのアイドルによる「アイドル」職業宣言。そんなまさかの手法もキョンキョンのキャラクターだからこそ成し得るのです。秋元 康さんってそういうところホントに凄いし、一貫してますね。
8.「1986年のマリリン」本田美奈子(作詞/秋元 康 編曲/新川 博)
大胆な衣装とダンス、よく覚えています。
9.「地上に降りた天使」水谷麻里(作詞/松本 隆 編曲/大谷和夫)
へぇ〜これ京平センセー選ぶんだ……というのが正直な感想。
10.「夜明けのMEW」小泉今日子(作詞/秋元 康 編曲/武部聡志)
武部聡志さんのミニマルなアレンジの素晴らしさよ。イントロはもしかして由紀さおりさんの「夜明けのスキャット」へのオマージュでしょうか?
11.「WAKU WAKUさせて」中山美穂(作詞/松本 隆 編曲/船山基紀)
でも船山基紀さんの濃密で豪華なアレンジも好きよ。ミポリンの奔放でじゃじゃ馬な感じが良く出てますね。
12.「teardrop」後藤久美子(作詞/来生えつこ 編曲/武部聡志)
名曲ですな。この頃によくあるこういうマイナー調の刹那ソングを総じて音楽的に何て呼べばいいのでしょうか。ヨーロピアンエレクトロ? ニュー・ロマンティーク? ヌーベルバーグ? 誰か教えて。
13.「さよならの果実たち」荻野目洋子(作詞/売野雅勇 編曲/武部聡志)
歌、ウマっ。
14.「ホンキをだして」酒井法子(作詞/森 浩美 編曲/船山基紀)
歌、ウマっ。
15.「17才」森高千里(作詞/有馬三恵子 編曲/斉藤英夫)
DISC-1に南 沙織版「17才」と両方入っててお得ね。
16.「肩幅の未来」長山洋子(作詞/中島みゆき 編曲/山川恵津子)
京平センセーと中島みゆきさんがタッグを組む珍しい楽曲。割と歌謡よりなメロディなのは、いずれ長山洋子さんが演歌歌手へと転向する予感のようなものか。しかし最後の「……らちもない」ってスゴい歌詞よね。歌詞カード見ないと何言ってるのか正解が分かりませんでした。
17.「ときめいて」西田ひかる(作詞/松本 隆 編曲/渡辺 格)
京平センセーの90年代における大名曲。冒頭「ときめいて」の繰り返し部分で幅の広い音域を歌わせたり、サビのベースラインが8分で刻みながら1音ずつ上がっていく感じとか、すんごくときめいてる。西田ひかるもすんごく光ってる。
18.「元気!元気!元気!」高橋由美子(作詞/秋元 康 編曲/清水信之)
元気だね。
19「TENCAを取ろう! -内田の野望-」内田有紀(作詞/広瀬香美・川咲そら 編曲/松本晃彦)
広瀬香美さんが歌詞を書くと、これホントに京平センセーが書いてる? ってくらいこんなにも広瀬香美節になるのね。ったく恐ろしい女だわ。
20.「理由」安倍麻美(作詞/326 編曲/久保田光太郎)
筒美京平meetsドラムンベース。2003年リリースの時点で京平センセー御歳63になろうとしています。まだまだ感性がお若いこと。初めて聴きましたがメッチャいい曲ですね。歌詞は326さん。ワタシが福岡にいた頃、イラストレーターとして地元の古着屋で個展をしている彼によく会っていました。彼は覚えてないでしょうが。