早いもので、気づけば梅雨の真っ只中。今年の関東甲信と東海、近畿の各地方の梅雨入り宣言は6月6日(水)でした。雨降りが続くと少し憂鬱な気分にもなりますが、梅雨の時期は大好きな夏が待っていると思えばワクワクしてきますし(私だけ?)、雨降りシーズンならではの進化したレインファッションも楽しめますよね。
そして、この時期に控えめに咲き誇るアジサイの花。雨露に濡れたアジサイを街中で目にするたびに、見慣れた通りの風景もいつもとは違って見えますし、梅雨ならではのワビ・サビ的な季節感を実感し、それこそ夏の到来もますます心待ちになってきます。
今回は、シーズン的な切り口で、いわゆる「レインソング」をセレクトしてみました。雨をモチーフにしている楽曲、雨降りのシチュエーションを描いた楽曲、梅雨時期の象徴でもある「アジサイ」を扱った楽曲など、雨にまつわる題材を取り上げた楽曲を10曲選んでみました。
「Spotify(スポティファイ)」アプリをダウンロードすれば有料会員でなくても試聴ができますので、雨降りのときにこそ、楽しんでいただければうれしいです。
【雨の日に聴きたいレインソング10曲】
01.雨のステイション/ハイ・ファイ・セット
(1977年2月5日リリース)
荒井由実が1975年に発表した3枚目のオリジナルアルバム「COBALT HOUR」の収録曲を、コーラス・ユニットのハイ・ファイ・セットがカヴァー。「六月は蒼く煙って」と歌詞にあるように時期は梅雨シーズンと思われ。始発列車を待つ少女。会えるはずのない人を待ち続ける切なさ、愛おしさ。山本潤子の情感溢れる歌声で歌われると、ドラマティックな歌世界へと劇的に昇華されていくのは気のせいでしょうか。全編に漂うソフィスティケイトされたサウンドプロダクションも必聴です。ちなみに当時のJR青梅線の西立川駅がモチーフとなっているそうで、駅の発車時のメロディも「雨のステイション」が使用されていたりします。アルバム・チャート首位を13週連続で独走した「Love Collection」に収録。
02.あじさい/鈴木祥子
(1995年6月21日リリース)
松田聖子や小泉今日子など数々のアーティストに楽曲提供し、奥田民生や草野マサムネらもファンを公言する、まさにミュージシャンズ・ミュージシャン的な日本を代表する女性シンガーソングライター。雨降りが続くこの季節ならではの象徴的な花「紫陽花(アジサイ)」をモチーフに、「水たまりは虹色 紫陽花はむらさき 昨日のことみたいな あの街で暮らしてた日々を想うよ」と、アジサイを通して雨露を纏った街の情景と、かつてのあなたと私の姿を鮮やかに浮かび上がらせる。ローファイなサウンドメイクに踏み込んだ傑作アルバム「SNAPSHOTS」に収録。
03.雨降る東京/古内東子
(1998年8月19日発売)
今年でデビュー25周年を迎えた彼女。かつて「恋愛の神様」なる枕詞もあった女性シンガーソングライターによる隠れた名曲。雨降りのアイテム「傘」を効果的に使った、いわゆる相合傘のシーンを歌ったメロウな楽曲。「雨が止んでも どうか傘は閉じないで 時々触れあう腕に 夢を見させて」と、男女問わず皆さんが通ってきたであろう雨降る東京でのちょっとドキドキするシーンを描いてみせる。かつての甘酸っぱい記憶を手繰り寄せてくれる、そんな1曲かもしれません。自身初のオリコンアルバムチャート1位を獲得した7枚目のオリジナルアルバム「魔法の手」に収録。
04.縦書きの雨/東京スカパラダイスオーケストラ feat.中納良恵
(2012年3月21日リリース)
毎回、あっと驚くアーティストをゲストに迎えて、我々を楽しませてくれるスカパラですが、アルバム「Walkin’」リリース時のプレスリリースで、「EGO-WRAPPIN’の中納良恵が参加!」のニュースにミュージック・ラヴァーたちは狂喜したものです。しっとりとした大人のミディアム・チューンといった体で、なんとも沁み入る歌世界と芳醇な歌声は、まさに相思相愛。メンバーがずっと彼女にラブコールを送っていたのは有名な話。バリトンサックス奏者の谷中 敦による「縦書きの雨」=「口には出さない秘めたる想い」が溢れ出し、人を癒していく。雨を別のメタファーに置き換えた好例でもあります。
05.雨/Suchmos
(2017年3月22日発売)
数多くのバンドに愛されるペトロールズの結成12周年を祝して、昨年にリリースされたトリビュート・アルバム「WHERE, WHO, WHAT IS PETROLZ?」で、Suchmosが人気曲の「雨」をカバー。軽やかに刻まれるキーボードの音色とYonceの気怠くもソウルフルな歌声が、原曲が持つメロウな側面を増幅させて完全に自分たちのものにしている。「逢いたい気持ちはこの雨のように 全てを濡らして色を増すように」と、雨という要素が歌詞中の2人の関係性と距離感をそれとなく伝えてくれているようだ。
06.雨は毛布のように/KIRINJI
(2001年6月13日発売)
兄弟時代のキリンジによる7枚目の傑作シングル。この楽曲をフェイバリットに挙げる人は非常に多し。外は土砂降り。ケンカしていた2人が雨宿りにも飽きて、雨降りの街に飛び出す。いつしかケンカ中の2人も、子どものようにずぶ濡れではしゃいで仲直り。負の感情の高ぶりを、2人の肌に降り注ぐ雨水が毛布のように優しく包み込んでいく。憂鬱な雨もいつしか「クールな調べ」に聴こえてくるメロディの雄弁さ。コーラスでさりげなく華を添えているaikoの参加も話題になりました。振付家の川口ゆいが出演したミュージックビデオで披露するコンテンポラリーダンスも必見です。アルバム「fine」に収録。
07.雨のフライデー/フレンズ
(2017年11月22日リリース)
メンバーはおかもとえみ(元THEラブ人間)、ひろせひろせ(nicoten)、長島涼平(元the telephones)、三浦太郎(元HOLIDAYS OF SEVENTEEN)、SEKIGUCHI LOUIE(元The Mirraz)の計5人。様々なキャリアを持つ東京のバンドマンが集結した、広義的な現代のシティポップを奏でる「神泉系バンド」。本作はキラキラとしたイントロからつかまされてしまうセンチメンタルなナンバーで、もちろん設定は雨降りのフライデーの夜。「特別な フライデー 期待した 甘い言葉だけ変わらないで」と、女性目線の甘酸っぱくもアーバン・ブルース的な側面も盛り込まれたポップチューン。ミニアルバム「プチアルバム」に収録。
08.あめふりヒヤデス – alternate mix-/UA
(1998年4月22日発売)
ドラマ「不機嫌な果実」(TBS系列)の主題歌に起用されたシングル「悲しみジョニー」のカップリング曲で、こちらは別ミックス・ヴァージョン。ダブバンドのLITTLE TEMPO(リトルテンポ)によるプロデュース&演奏で、現在KIRINJIに在籍する田村玄一によるスティールパン(トリニダード・トバゴ共和国の打楽器)の音色が、ひんやりとした雨音を思わせるようでとにかく心地いい仕上がり。蒸し暑さをしばし冷却してくれそう。ところでヒヤデスには「雨を降らせる女」という意味があるのだとか。1997年に発表されたセカンドアルバム「アメトラ」に収録。
09.Another Rainy Day In New York City/Chicago
(1976年2月リリース)
ロックにブラス(ホーンセクション)を取り入れたブラス・ロックと呼ばれる音楽性で、70年代前半から80年代にかけて活躍したロックバンド。それがシカゴ。この頃には元々の売りでもあったアグレッシブなブラス・アレンジは後退し、ポップ色やバラード色が強くなっていた時期でもあった。バンドの創設メンバーでもあるロバート・ラム(Vo&Key)が幼い頃に過ごしたニューヨークの思い出を、雨の情景を通して振り返った内容で、ライトなラテンタッチのアレンジが心地いい。こちらもスティールパンの音色がアクセントになっている。ちなみにリリース時の邦題は「雨の日のニューヨーク」。あらゆる音楽要素を取り込んだ8枚目のオリジナルアルバム「シカゴX(カリブの旋風)」に収録。
10.Sun After The Rain/The Salsoul Orchestra
(1979年リリース)
ニューヨークの伝説的なダンスミュージック・レーベル「サルソウル」のハウスバンド(箱バン)として1974年に結成された、凄腕ミュージシャン集団「サルソウル・オーケストラ」。ヴィヴラフォン奏者であり名アレンジャーのヴィンセント・モンタナ・ジュニア率いる彼らは、フィリーソウルをディスコへと発展させ、後のハウスミュージックに多大なる影響を与えたレジェンドとも言えます。まさに雨上がりの陽だまりを描いたような、ハートウォーミングなサウンドがたまらない。時代を経たいまでも、国内外のハウスミュージックのDJが明け方にプレイするアフターアワーズの定番曲でもあります。後期のアルバム「Street Sence」に収録。
雨を題材にした楽曲は洋楽・邦楽問わずにまだまだ無限に存在します。それこそ、雨あがりの「虹」を扱った名曲もたくさんあったりします。皆さんのお気に入りのあの曲、この曲をSpotifyでぜひ探してみてくださいね。