短編の魅力って何でしょう?
時間が無い時でも楽しめる?
テイストが違うものを一気に何本も見られるからお得?
削ぎ落とされているのに、ぎゅっと内容が濃いところが短編の良さだと思います。そう、日本人にはなじみ深い短歌や俳句のように。
主人公がここに至るまでに、一体何があったのか?
いまなぜこんな気持ちになっているのか?
物語をつくったり伝える上で重要とされる、起承転結や5W1Hなどのルールは無視、コアの部分だけを抽出する短編は、作家性がガツンと出るのでハマるいろいろ見たくなってしまいます。描かれなかった部分にどんなメッセージが込められているのか、思わず語りたくなるのもいいところ。
小説でもマンガでも短編がうまい作家は名手だと言われますが映像も同じだと思います。
日本映画なら、1人のミュージシャン(1バンド)と1人の監督でショートフィルムを1本撮り、対バン形式で上映するという「MOOSIC LAB」が毎年人気を博していますし、テレビドラマなら、新進ホラー映画監督を積極的に起用したオムニバスドラマ「怪談新耳袋」は、第5シーズンまで制作されるほどの人気を得て、映画化もされました。
さて、世界のショートフィルムはどうでしょう?
テレビではもちろん、映画館でもあまり見る機会がありません。短いからこそできる実験作(韓国のパク・チャヌク監督が2010年にiPhone4だけで撮った「Night Fishing」は、一部で話題になりましたが……)や意欲作があるはずなのですが、コストパフォーマンスを考えたらなかなか公開まで踏み切れないのも確か。そんなショートフィルムのプラットフォームになりそうなのが配信なのです。
今年も6月26日まで開催されている米国アカデミー賞公認・アジア最大級の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」にあわせて、U-NEXTでもよりすぐりの作品が週替わりで配信されているので、雨で出かけられないこの時期にぜひチェックしてみてください。
「フレンドリクエスト」
シルバー世代のかわいらしいネット恋愛エピソード。リテラシーがやけに高いメアリーおばあちゃんが、恋バナはもちろん、下ネタも遠慮なく話せる親友リンダと、気になる男性のSNSアカウントを探し出して「交際ステータス」をチェック、独身と判明するやどうやってアクセスするか、まさにガールズトークを繰り広げます。「(チャットでの第一声)『ハーイ』は90年代よね」「古風な女は嫌われるわ」「LOL(日本でいうところの「w」的なネットスラング)なんて最低!」などなど、とても微笑ましい1本。今の日本で、ミクチャ(MixChannel=10秒の動画を共有できるSNS)とかやってる女子中高生も、40年後はこんな感じなのかも?
「森の中の狂気」
ケネス・プラナーの演技力だけで見てしまう1本。尺の無さを逆手にとったタイムラプス映像とカットバックの使い方が、さらにスリリングな雰囲気を高めます。原因はあくまでも匂わされるだけ。ハッキリと解明されずに終わる分、イヤ~な後味も味わえます。
「二人」
英国の人気俳優ベネディクト・カンバーバッチが、社会的成功者と落伍者にわかれてしまった双子を2役で演じています。ナレーションには頼らず、場面をサクサク切り替えることで状況を説明する手法は、映画リテラシーを上げてくれそう。彼らがなぜ格差のある人生を歩んできたのかは、それぞれの妄想で補完しましょう。それもショートフィルムの楽しみです!
「廊下の彼氏」
キャリアウーマンが暮らすアパートに転がり込んだ青年。ただし、彼は玄関前の廊下に座ったまま。寝るのも、食事するのも、本を読むのも、爪を切るのもそこ。場面は狭いアパート(の玄関スペース)のみですが、撮り方によっては立派なセットになることを教えてくれます。「君のために居座っている」と独特すぎる愛情表現をする彼に、ある日、彼女は決意を……。15分とは思えないほどいろいろなものがみっちり詰まっている人間ドラマになっています。なぜ彼がそこにいるのか?なぜこの結末なのか?は、もちろん見る側が考えましょう。
他にも「ある夏の日」「スティーブ」など、コーヒー1杯を楽しむ間に見られる作品ばかりです。マネタイズしやすいせいか長編コンテンツが持てはやされる昨今(劇場映画で独立していない前後編とか3部が増えてますし)、ちゃんとした短編文化が根付くといいなと心から願っています。いやホントに。