タレントのタモリが古地図を片手に街をブラブラする――。そんなシンプルな構成ながら、老若男女問わず多くの人を惹きつけてやまない「ブラタモリ」。5月には、「多くの人が地図や地理に興味を持つきっかけとなった」との理由で、国土地理院から感謝状も授与されるなど、ますます注目を集めています。
そこで今回は、その人気の秘密を探るべく、2015年より番組制作に携わっている浜崎智史ディレクターを直撃! これまでに「鎌倉編」や「博多編」、さらにはまだ記憶に新しい「伊勢編」で番組史上最高視聴率を記録した浜崎ディレクターが語る番組制作の裏側、そしてこだわりとは……?
ひとつのスポットにかけるリサーチはおよそ2か月
――まずは感謝状の授与、おめでとうございます。
浜崎 ありがとうございます。感謝状の件は僕らにとっても驚きでした。番組が注目を浴びてタモリさんがいただくのはまだ分かるんですが、まさか制作スタッフに贈られるとは思ってもみませんでしたから(笑)。
――ここ数年、散歩番組や旅番組が増えてきていますが、「ブラタモリ」が他番組と一線を画しているのは、ひとつに徹底したリサーチと、その土地の魅力を引き出す演出力であり、それが今回の感謝状につながっているように思います。そこでまずは、番組がいかにして作られているのかを教えていただけますでしょうか?
浜崎 最初にとりかかるのは場所選びですね。これは放送時期に合わせて選んでいくことが多いです。たとえば北陸新幹線の開通に合わせて金沢に行ってみたり、新緑の時期に合うように仙台を選んだり、視聴者の興味が湧く場所をセレクトするようにしています。よく聞かれるのですが、タモリさんから「あの場所に行ってみたい」とリクエストされることはまったくありません。場所が決まると、同時に担当ディレクターが選ばれ、担当者は早速リサーチにとりかかります。
――リサーチにはどれほどの期間をかけるものなのでしょう?
浜崎 毎回異なりますが、平均すると2か月ぐらいですね。まず、その土地に関する本を読みあさり、基礎知識を頭に入れたところで、次に現地へ向かいます。最初は観光名所も回るのですが、地元の図書館に行き、そこにしかない書物や地図を見て新たな情報を入れたり、現地の学芸員の方や大学教授を紹介してもらって一緒に街を歩いたりします。ここで大事なのが、できるだけ公共交通機関は使わないこと。“この曲がった道は何か意味があるのかな……”なんて想像しながら歩くことで、いろんな点に気付くことがあるんです。そうやってネタになりそうなものを細かく探していくわけですが、ここまでの作業に大体1か月ほどかけます。
タモリ、近江アナには毎回内容を一切知らせず撮影を開始
――地道に足を使ってネタを探す。まるで記者のようですね。
浜崎 情報収集のために、1か月の間に何十人もの方とお会いしますからね。その出会いも数珠つなぎで紹介をしていただくパターンが多いのですが、たまに不思議な縁に巡りあうこともあります。「伊勢編」のときも、古い佇まいの着物屋さんを見つけて飛び込みで取材をさせてもらっていたところ、たまたまお客さんとしてお店に来られた方が山田羽書(※:伊勢の人たちによって使われ始めたという日本最古の紙幣)を持っているという富田定子さん。しかも、翌日にその富田さんのお宅にうかがった際、偶然家の前を通りかかったのが、案内人としてもご登場いただくことになった学芸員の千枝大志さんでした。こうした出会いの妙も、この番組作りの面白さのひとつだなと感じています。
――案内人の話が出ましたが、人選はどのように行っているのでしょう?
浜崎 リサーチを終えて東京に戻ってきてから、残りの1か月で構成台本を書いていくのですが、その際に案内人の候補も考えていきます。選び方に関しては、僕の場合、初めてお会いしたときにこちらの質問に対して丁寧に説明してくださる方を選ぶことが多いですね。というのも、この番組では、タモリさんにも近江友里恵アナにも一切台本をお渡ししていないんですね。とりあえず現地に来ていただき、何の説明もなくいきなり、「では、カメラを回します!」という感じで撮影を始めていくんです(笑)。ですから、前知識が何もないお2人に対して、わかりやすく説明できるかどうかというのも、とても重要な要素になってくるんです。
自由なタモリの言動が番組をより面白くしている
――次に本番の撮影についてですが、事前に台本を見せないということは、逆に言えばタモリさんにはいつも自由に動いてもらっているわけですか?
浜崎 そうです。たまにタモリさんが、「この先、もうちょっと行ってみよう」と予定にない場所にどんどん進んでいって新たな歴史の痕跡を見つけることがありますが、あれはまさにイレギュラーな出来事です(笑)。
――予定調和ではない面白さですね。
浜崎 もちろん僕たちも、タモリさんが面白がってくれたり、食いついたりしそうなネタを頭に入れて台本を書いているんですよ。でも、ご存知のようにタモリさんの知識量は本当にすごいので、僕らの予想を超えることのほうが多い(笑)。「鎌倉編」のときは、番組のクライマックス用に“江戸時代に起こった鎌倉の観光ブームの火付け役は実は水戸黄門だった”というネタを用意していたのに、撮影開始30分ぐらいで全部気付かれてしまって。あのときはさすがに“まじかぁ〜”と、本気でガックリきました(笑)。
――いかにこの番組にタモリさんの存在が欠かせないかがよくわかりますね。
浜崎 そうなんです。ほかのディレクターともよく話すんですが、仮にこの進行役がタモリさんではなく、別のタレントさんや案内人だけが登場する番組だったら、きっとここまで面白くないんだろうなって思います。そもそも番組の企画会議で、“古地図を持って、日本の街を歩く”なんて企画書を出しても、「それの何が面白いの?」って却下されるでしょうし。“タモリさん”という人間を介するから、何気ない街でもいろんな発見が生まれ、魅力的に見える。これは本当にすごいことだと思います。
作っている自分も、「いい番組だなぁ」って思います
――そうした知られざる日本の風土や地学などを楽しみながら学べるところも「ブラタモリ」の面白さですよね。
浜崎 僕らも勉強になることがたくさんあります。地形や地質にやけに詳しくなりました(笑)。番組で度々登場する赤色立体地図なんて、最初は一体何のためにあるものなのかもよくわかってなかったんですが、いまでは地盤の強い場所やそこに街が生まれた理由などが理解できるようになってきました。「伊勢編」でも、当初は普段カメラがなかなか入れない場所を紹介していければいいと思っていたのですが、地形や歴史をリサーチしていくうちに、式年遷宮が20年ごとに行われる理由や、河岸段丘の上に建てられている意味、それに近くに五十鈴川が流れている必然性などがわかってきて――しかもそれぞれのファクターが最終的にすべてひとつに繋がっていったんですよね。あのときは改めて、人を惹きつけ、長く歴史を刻むものの裏には、必ずその理由があるんだということがわかりました。
――まさに、日本の魅力を再発見するきっかけを作ってくれている番組だといえますね。
浜崎 そこもこの番組の核のひとつですからね。視聴者に「なるほど、それは気付かなかった!」と思ってもらえたら勝ちだと思ってます(笑)。全国の多くの人に、「日本にはこんなすごいところがあるんだ」と知っていただき、逆に地元の人たちにも新たな発見でたくさん驚いてもらえる。自分で作っていても、「いい番組だなぁ」ってたまに思ったりしますね(笑)。
【本日放送のブラタモリ】
7月30日 19:30~20:15放送
#45「~新潟は“砂”の町!?~」
ブラタモリ、新潟へ! 日本を代表する米どころとして知られる新潟。 なかでも新潟市は、信濃川と阿賀野川という2つの川の河口に位置する日本海側を代表する都市です。そんな新潟市が、実は「砂の町」だったとはいったいどういうこと? 川がつくりだした地形と繁華街に残る痕跡、そして一面の水田の中のわずかな高低差をヒントに、砂に翻弄され、砂と戦い続けてきた新潟の知られざる姿にタモリさんが迫ります。
新潟市の中心部から日本海の方へ向かうと、なぜかタモリさんの大好きな上り坂が……? 実はこれ、日本最大級の「新潟砂丘」。この巨大砂丘と新潟の町との関係とは? そして新潟の町がとった大胆不敵な作戦とは? 幕末には開国五港に選ばれ、港町として大いに栄えていた新潟。その繁栄ぶりを知るためタモリさんが向かった先は……なぜか老舗料亭? タモリさん、初のお座敷遊びを体験することに……。
【URL】
ブラタモリ http://www.nhk.or.jp/buratamori/