単なるディスクレビューじゃなくて、アルバムを聴いて、曲とセッションしたような、身体の奥底までをさらけ出す【レビューコラム】を、人生早めの紆余曲折を七転び八起きしているアラサー女子・藤田華子さんがお届けします。第2回目は、フジロック直前!(厳密にはもうスタート!)ということで、最終日のヘッドライナーを務めるRed Hot Chili Peppersのニューアルバム「The GETAWAY」をレビュー。
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非常用に買っておいたペットボトルの水。発熱して朦朧としながら飲み物を探していたら、ふだん開けない戸棚で見つけた。しかし賞味期限がとっくに過ぎており、どうやら私は水を腐らせてしまったようだ。
「流れる水は腐らない」という。
中国の古い書物「呂氏春秋」に出てくる言葉で、漢文では「流水不腐、戸枢不蠹」。
水溜りや流れがない水は腐りやすいが、流れていると常に循環されるので腐らない。 転じて、絶えず動いているものは、状態が悪くならないということらしい。
さて、結成33年目のRed Hot Chili Peppersから届いた新譜「The GETAWAY」。ファンク、ヒップホップ、パンク、ハードコア、スカ、ロック――彼らの音楽性は縦横無尽に変化を遂げてきたが、今回はすべてを血肉に「円熟」したという印象を持った。
50歳を超える(!)フリーとアンソニーのなかに流れる川は、かつて股間にソックスをかぶせ裸でステージに立っていたころを激流とするならば、水質(音楽に向き合う気持ち)はピュアなまま、いまは悠々と流れ、澄んでいる。
彼らが33年間水を腐らせることなく流し続けてきたからこそ、辿り着いたサウンドだろう。そしてそれは、自分を、そしてまわりを「信じる」姿勢を崩さなかった結果だ。
今回は、新しくデンジャー・マウスという奇才プロデューサーを迎えた。バンドは2014年にすでに新曲を20〜30書き上げていたのだが、デンジャー・マウスが「スタジオで新しく曲を作ろう」と提案。メンバーは既存曲に愛着があっただろうに、この新プロデューサーを信頼し、アルバムの13曲中10曲を新たに書き下ろしたそうだ。
アンソニーは、自分やバンド、そして新たなプロデューサーを信じているから英断を下した。
「ずっと近くにいてくれる人がいたら、人間はこのままで十分だと思ってしまうんだ。でも、少しばかり心が折れたり気持ちが傷ついたとしても残酷なまでに正直でいてくれる人が必要なんだよ」(NMEJAPANインタヴューより)
日ごろまわりの女友達の恋愛話を聞いたり、自分のウジウジっぷりに目を向けたりすると、つくづく「臆病」という言葉には「こじらせ」とルビを振りたくなる。「傷つくのが恐いからいまのままでいい」と逃げてしまいがちなのだ。
恋愛だって仕事だって、相手や自分を信じなくてはグルーヴしない。殻のなかは誰にも侵害されず平和だが、時間が経つと、そこに溜まった水は腐ってしまうかもしれない。
《時間だ、君は大丈夫/繰り返しを終えろ》と、表題曲“The Getaway”に背中を押される。誰だって、賞味期限切れの水にはなりたくない。いつだって、自分を信じ、人を信じて螺旋階段のように歩いて行きたい。
さて、いまや伝説として語られる第一回目FUJIROCKに、レッチリは登場した。そして今年20周年を迎えるアニバーサリーなタイミングでも、最終日のヘッドライナーを務める。20年経ったいまも流れる彼らの川、そのフレッシュな飛沫を苗場で浴びて欲しい。
【商品情報】
The Getaway / ザ・ゲッタウェイ
価格 : 2300円+税
規格番号 : WPCR-17366