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2021/7/1 20:00

女優・釈由美子の足裏のお芝居に注目!?『ロックダウン・ホテル 死・霊・感・染』

コロナ禍の世界を予言したかのようなカナダ制作のパンデミックホラー作品『ロックダウン・ホテル 死・霊・感・染』。7月2日から全国でロードショーされるこの作品で世界進出を果たしたのが女優・釈由美子である。なぜ、今海外作品に出演したのか? 彼女自身がこの映画にかける思いを語ってもらった。

(撮影・構成/丸山剛史/執筆:松本祐貴)

 


釈由美子(しゃく・ゆみこ)

1978年東京都生まれ。女優。1997年にグラビアでデビューし、写真集も多数出版。その後、映画『修羅雪姫』、『ゴジラ×メガゴジラ』やドラマ『スカイハイ』などでも女優として活躍。今回の映画で世界進出を果たした。美容関連本も出版し、山ガールとしても有名。

 

本作と現実のコロナウイルスがリンク……「夢ならさめてほしかった」

 

ーー本作は、殺人ウイルスがホテルで感染爆発するというホラー作品です。どんなふうに出演のオファーがきたのでしょうか?

 

 オファーは2018年の夏にいただいて、同時にドサっと英語の台本も届きました。妊婦役の日本人を探していると聞いて、あらすじを見て、やってみたいと思いました。なによりも、外国人の監督、出演者、スタッフという知らない環境で、どんな物づくりをしているのかという興味が一番でしたね。実は、500ページ以上の台本の翻訳も自分でやったんですよ。「床を這う」「痙攣する」など、受験英語で出てこないような言い回しが多かったですね(笑)。

 

ーー夫から逃れて海外のホテルに辿りつく妊婦役のナオミという役柄です。釈さんも結婚して、子育てをしています。そこに演じやすさはありましたか?

 

 身ごもっている最中の動きは、妊婦期間中をそのまま参考にしました。例えば、お腹の下に手をおいて「ふぅ」と息をついたり、腰を反らせてふんぞり返ったように歩くとか、転ばないようにがに股気味にするとかですね。実体験を元に役作りができましたね。

 

ーー映画の中では、パンデミックが起こり、感染者たちがうめいたり、凶暴化したりという恐怖シーンもあります。そして公開は、2021年の夏ということで、実際の新型コロナウイルスとのリンクをどう考えますか?

 

 この映画が完成するぐらいのときに、日本でもコロナウイルスの流行が始まったんです。現実とリンクしていて、デジャブのようで、悪夢のようで……。「夢ならさめてくれ」と思っていました。監督もスタッフも出演者も、まさかこんなふうになるとは思ってもみなかったでしょう。コロナの状況とシンクロして見てもらえると、違った感想も生まれるのではないかと思います。個人的には、この状況で公開できるのかどうかが心配でしたね。

というのも、コロナの影響で海外の映画祭への出席もなくなってしまって、監督と再会の約束もしていたのですが、会えないのが残念ですね。監督は日本にも舞台挨拶に来たいとメールがきていたのですが、今の状況では、なかなか難しいです。

 

子どもを生んだことで、私は強さをもらった

ーー今作は家庭の崩壊が裏のテーマとして設定されているように感じました。そのような家庭の崩壊、母子関係についてどう思われますか?

 

 子どもがいなくても母親役を演じている役者さんはたくさんいます。でも、自分が母親になったことが、今作の芝居に活きた部分はあります。私にとっても、子どもは唯一無二の存在で、自分を捨てて、命とひきかえでも守れる。そんな感情は子どもにしか感じません。子どもを生んだことで、私は強さをもらったと思います。

 

ーーこの映画で、釈さんがこのシーンは見てほしいというのはありますか?

 

 

 意外でしょうが、足の裏のお芝居ですね。私が演じるナオミは殺人ウイルスに感染し、麻痺していきます。もう腕の力も残ってなく、体が動かない……。そんな場面で監督から「足の爪先だけ唯一力が残っているんだ。その力を振り絞って前に進むんだ」と指示が出ました。だから妙に足の裏のクローズアップが多いんですよ。そのシーンを撮るときは、足が何度もつって、実は、寝ているときに金縛りにもあいました(笑)。

 

海外の撮影はきっちり撮影時間が決まっていた

ーー海外の映画の現場は、実際どんな感じなんですか。

 

 ハリウッド映画だと、トレーラーやクレーンがあって、大掛かりなセットをイメージしますよね。この映画はローバジェット(低予算)なので、そんなことはありません。私もマネージャーがついてくることもなく、ひとりで現場に入りました。そして、宿泊するホテルは、映画の現場でした。ワンフロアは借り切って撮影現場として使用し、違うフロアに監督や出演者が泊まっていました。オンオフはなく、まさにロックダウン状態です。

撮影場所となった真冬のカナダ・モントリオールはマイナス20℃です。あまりにも寒すぎて、オフの日にあわててカナダグースのダウンを買いました。スーパーも近くになく、外食もできないので、ウーバーイーツを頼みましたね。

 

ーーそんな状況だったんですね。共演者の方とは仲良くなりましたか?

 

 

 食堂で会話しながらごはんを食べましたね。クランクアップの日には監督とおいしいステーキを食べに行きました。今回は、新人のつもりでイチから仕事をするのは新鮮でした。日本と似たような撮影スタイルもあれば、まったく違うところもありました。

 

ーーカナダの映画現場は、日本の現場とどんなところが違いましたか?

 

 俳優の組合によって撮影の時間がきっちり決まっているところです。撮影時間が延びることがないんです。「あと2カットでこのシーンが終わる」というときにも、時間が来れば終わります。夜中に撮りたいシーンがある日は、お昼すぎからスタートしていました。

 

ーー役者の働き方改革も進んでいるんですね。ほかには、どんなところに違いがありますか?

 

 あとは、監督個人の演出の違いなので、これは日本人の監督にもあると思います。役者さんのアプローチの差も感じましたが、それも個人次第ですかね。

例えば、今回はホラー映画です。日本だと映画『リング』シリーズの貞子が登場して、「キャー」というような演出を思い浮かべるかもしれません。でも、本作では、主演のカロライナさんが押し殺した恐怖の芝居をしていました。スクリーム系ではなく、多くを語らず佇まいで見せるという演技は勉強になりました。

 

夜中や早朝にオンライン英会話で語学の準備

ーーなるほど。今作は、特殊メイクもスゴかったですが、いかがでした?

 

 特殊メイクは、担当の方が2時間ぐらいかけて作り込んでくれました。そのVFX(ビジュアル・エフェクツ)の方はハリウッドでも仕事をしているそうで、携帯で写真も見せてくれました。実際にいろいろ体に貼り付けられ、足の血管を浮き上がらせてくれたりと、リアルに仕上げてくれました。

 

ーー日本の撮影現場に慣れているとはいえ、現場はすべて英語で進めているんですよね。釈さんの英語力はほんとスゴいです。

 

 オファーをいただいたときの一番のネックはやはり英語でした。今回は、英語をイチからやり直しましたね。20代のころは『英語でしゃべらナイト』で英語の勉強をしていたんですけど、そこから10年空くと、すっかり忘れていました(笑)。ただ、あのときの英語が苦手だけどもがんばった努力は無駄ではなかったです。改めて、大人になってからの英語は本当に身につかないです。できれば子どものころから勉強した方がいいですね。

 

ーー具体的にはどのように英語を勉強したのでしょうか?

 

 撮影に入る前の準備期間は半年あったので、コーチングスクールに行って、マンツーマンで、シャドウイング、ディクテーションなどの勉強法から学びました。ほかにもオンライン英会話を毎日1時間、子どもがいるときはできないので、夜中の1時、朝の5時なんかに予約して進めました。それでも、付け焼き刃でできるものではなくて、やっと耳が慣れて、言いたいことが言えるようになったぐらいの時期に出発しました。

でも、現地はカナダのケベック州だったんです……。そこではフランス語が飛び交っていて、全然思ったのと違いました。一応、英語で質問すれば、英語で答えは返ってくるんですけど、日常会話はフランス語なので、私はポカーンとなっていました(笑)。

 

ーーフランス語までは手がまわらないですもんね。今回、海外で役に立つアイテムはありましたか?

 

 ポケトークみたいな小さな翻訳機は役に立ちました。今回はフランス語もありましたからね(笑)。

ただ、撮影現場では、自分の英語を信じて、使わなかったですね。今回は映画のために必死に英語の勉強をしましたが、短い海外旅行なら、翻訳機があればなんとかなると思いました。買い物のときとか、ホテルでは役に立ちますよ。「加湿器ください」とかフランス語でパッと出てこないですよ。

 

ーー今回、英語の勉強時間を作るのは大変じゃなかったですか。

 

 子どもが今より小さかったんですが「時間はあるものじゃない作るものだ」と思っていました。幼稚園の送り迎えの間にもイヤホンで英語を聞いたりもしていましたね。

 

海外作品だから殻を破れて、新しい私を見せられた

 

ーー普通の人はその頑張りもなかなか難しいです。40代になっても学びの姿勢を持つ釈さんを見習いたいですがどうすればいいですか。

 

 うーん。今回はイチから新しい環境で学びたいと思って撮影に参加しましたからね。ある意味新しい私を見てもらえる作品だと思います。例えば、予告編でも、顔が苦痛に満ちて歪んでいる場面は、今までのイメージからするとありえないです。海外作品だからこそ殻を破れて、これまでにない私を見せられたと思います。

公開が決まったときには、戸惑いもありましたよ。あの演技をお客さんに見せるんだって。でも、最終的には「ま、いっか」と思えました。

 

ーーその強さは、年齢を重ねたからですかね。

 

 人間誰でも老いますし、年をとったからこその覚悟ですね。同じことをしていないで、次のフェーズにいくためにチャレンジした作品です。

 

ーーでは、今作の次は、ハリウッドデビューもありますか?

 

 いえいえ。実はこの作品の後、別のアメリカ映画作品の撮影も続きました。コロナの直前、20年の1月にオクラホマで撮影し、今年完成です。

たまたま2作続いて、これを足がかりにハリウッドデビューと言われることもありますが、まったくそんなことはないです。そんな甘い世界ではありません。ただ、監督が『ゴジラ対メカゴジラ』のファンとのことで、私が積み上げてきたキャリアや経験が次につながって、釈由美子が求められるなら全力で応えたいと思います。それは、海外作品でも、日本作品でも同じです。

 

ーー家庭と仕事を両立させながら、海外作品にも挑戦するというパワーはどこから生まれるんですか?

 

 本作も、語学の準備なども含め、大変なことはわかっていました。でも、心の声を聞いて、自分をワクワクさせてくれるなら挑戦することがパワーの源ですね。素直な気持ちが一番です。本作品でも、妊婦役のナオミには、いち役者として勝負しました。そんな私の姿をぜひスクリーンで見てもらえればと思います。

 

【映画情報】

ロックダウン・ホテル死・霊・感・染

7月2日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、新宿シネマカリテほか全国でロードショー。

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