Amazon.co.jpが8月3日より開始した電子書籍読み放題サービス「Kindle Unlimited」は、月額980円で約12万冊の書籍やマンガ、雑誌などが読み放題になるというもの(初回30日間は無料)。たくさんの本やマンガが読み放題で楽しめる反面、どれを読んでいいかわからないという声も聞かれます。そこでゲットナビウェブでは、マンガ好きライターが選んだおすすめマンガをピックアップしてご紹介します! こちらを参考に、読み放題サービスを活用してみて下さい!
※記載した価格は、8月29日時点でのKindle版(電子版)のもの
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「マンガでしか表現できないこと」を思い知らされた10作
上杉久代(イラストレーター)
【1冊目】「誰でもないところからの眺め」いがらしみきお(太田出版) 1200円
東日本大震災と認知症。仙台在住の被災者であるいがらし氏が、お母様の介護の経験を経て生み出した本作は「祈り」のようだと思いました。2011年3月11日は、絵描きである自分が「絵の力のトロさ」を思い知らされた日でもあります。暗くて寒い体育館や避難所、そこに小さな明かりを灯したのはラジオから響いた歌だったとか。絵にはそれができなかった。でも、数年を経て、こんな形で昇華されたかと思うと、つくづくマンガ好きでよかったと思うのです。言葉では敢えて説明されていないものもたくさん描かれているので、あと何回かは読み返さねば。
【2冊目】「ナナのリテラシー」鈴木みそ(Kindle Single) 第1巻499円
天才だけど奇人のITコンサル・山田仁五郎の元で就業体験をすることになったJK七海が、自らも成長しながら、出版業界、ゲーム業界の構造に大胆にメスを入れるという生々しいストーリーが、見事なエンターテイメントになっていて一気読みしてしまいます。実際に、自らの手だけで過去の出版物を電子書籍化し、2013年は1000万円を超える売り上げを出した鈴木みそ氏の実体験によるものなので当然といえば当然なんですが、普通にビジネスマンガとして面白いのです。さて、社会の構造がすごい速度で変化しています。もう抗えないほどに。どうやって生き残ったらいいのでしょう?七海がたどりついた答えのひとつが”愛のある小商い”。戦略はもちろん、勇気ももらえる実用書です。
【3冊目】「同人王」牛帝(太田出版) 540円
マンガ家志望だけど努力嫌い&自意識高めという厄介な無職青年・タケオが、人生に詰んでいたところに(エロ)同人誌界の超売れっ子で、慈愛過多のマザーテレサのような描き手・肉便器先生(かわいい女子)と出会い、ノウハウやら愛やらを伝授されトップ(コミケの壁サークル)を目指すという、門外漢にはわけのわからない話、ですがグングン読んでしまいます。同人誌業界の特殊性はあるものの(それはそれで面白い)、絵の上達法についての具体的なレクチャーはかなり使えます! 何より、ラストに行くにつれて牛帝氏の絵がどんどん上手くなっているのが説得力ありすぎ! 私も自己管理のためにキッチンタイマーを買ってしまいました(笑)。
【4冊目】「火星田マチ子」吉田戦車(太田出版) 540円
吉田氏はとにかく「不条理ギャグ」というジャンルを構築したことがすごい! そして、デビューから30年近く経った今も第一線で描き続けてらっしゃるのがすごい! 同じ絵描きから見ると、ベテランなのに、画力を上げることに執着が無さそうなのがまたすごい! さらに、不条理すぎて思わず笑っちゃうような目に遭った事を人に説明するのに「吉田戦車のマンガに出てきそうな……」で通じるのが最高にすごい! 実際、火星田マチコのようなOLさんに会ったことがありますが、”天然”を通り超してまさに”宇宙人”でした。
【5冊目】「ロマンス タムくんのラブストーリー短編集」ウィスット・ポンニミット(太田出版) 540円
ポンニミット氏はタイの漫画家。MANGAといえば日本特有のものだったのに、ボーダーレスに読める時代が来るとは……。「タテ書き、右ページ始まり」と、日本のセオリー通りですし、キャラクターもストーリーもとってもラブリーなのでフラットに読めます。ただ、いつかMANGAのレイアウトが「横書き、左ページ始まり」というグローバルモードになったら、もっといろんな国のマンガ家さんの作品が読めるのかな? と、ちょっと期待もしてみたり。
【6冊目】「実録企画モノ」卯月妙子(太田出版) 540円
エロ業界の中でも”底辺”と呼ばれたジャンルの海(沼?)を豪快な自由形で泳いできた卯月妙子氏の実録マンガ。その後、統合失調症を発症し、自殺未遂までしたことを赤裸々に描いて話題になった「人間仮免中」(2012年)の前章と言ってもいいかもしれません。卯月氏がAV嬢として活躍していた90年代のV&R(AVメーカー。平野勝之監督、バクシーシ山下監督などが在籍)のAVが個人的に大好きでして、奥に秘している”見られたくないモノ”がむき出しにされていく様を表現するのにはやっぱエロの力を借りるのがベストだよなぁと思っております。このマンガもまさにそれ。自分は表現者としてどこまで脱げるのか? 読むたびに問いかけられているような気もするのですが。
【7冊目】「『エイジ』コンプリート・エディション」江口寿史(小学館クリエイティブ) 540円
今やイラストレーターとして活躍する江口氏の、漫画家時代の集大成と呼べる作品だと思っています。しかもお得意のギャグではなくド直球の青春モノなので、江口タッチの美男美女がたくさん拝めて眼福眼福(笑)。大友克洋氏(もしくはメビウス)の影響で画力がグンと上がった(あくまでも主観です)ことで、時代とどんどんリンクするようになり、ついには80年代のポップアイコンにまでなった江口マンガ。元は少年ジャンプ掲載だったとは思えないですよね。絵が上手くなるだけでここまでスタンスが変わるものなのかと、同じ絵描きとして興味深いです。
【8冊目】「私は貴兄のオモチャなの 」岡崎京子(祥伝社) 540円
マンガや映画などのカウンターカルチャーが「サブカル」と呼ばれ始めた頃のアイコンとして、好き嫌いはともかく抑えておかなくてはいけない作家の一人が岡崎氏だと思います。「サンプリングってクール! クリティック最高!」な80〜90年代初頭の風潮には個人的には乗りきれませんでしたが(バブル経済にも乗り損ねました)、それまで、”頭でっかちな優等生で、売れるとなぜかロココ調の家を建ててしまう”という絶望的なセンスでも好しとされていた少女マンガを、ストリートと見事にリンクさせたという意味でもやはり読んでおくべきでしょう。恋愛についての感覚が今とはかなり違っているのですが、それも時代の合わせ鏡ということで。
【9冊目】「謎のあの店」松本英子(朝日新聞出版) 第1巻500円
イラストルポからマンガまで手広く手がけている松本氏。緻密なのにちょっと枯れた味わいの描写がたまりません。そこに差し込まれるセンチメンタルなモノローグ……これは写真にはできない技だよなぁ、とページをめくりながら、じっくり味あわせていただいております。さて、イラストとマンガは同じ「絵で表現すること」なのですが、実はベクトルが真逆だったりします。1つのテーマについてイラストはどれだけ「削るか」なのですが、マンガはどれだけ「膨らませるか」。なので、両方こなせる松本氏の絶妙な間合いは見習うところが多いです。コマとコマとの間に潜む「時間」をモノにできればマンガを描いてみたいんですが……。
※読み放題対象は1巻のみ
【10冊目】「BLUE・ブルー」山本直樹(太田出版) 540円
記憶が正しければ、山本氏は最も早くフルデジタルに移行したプロマンガ家さんだと思います。まだ液晶タブレットというマンガ家必須アイテムも(コンシューマーレベルでは)存在せず、MacOSは漢字Talk7あたり(!)で、CPUもまだMHz、ジャギーがわかるほど線もギザギザ、グラデーションも8bitみたいな荒いドットで……でも妙にエロくて、却ってアーティスティックに見えたのはやはり山本氏の才能ゆえでしょう。「愛と才能を信じろ!イノベーションに臆するな!」と教えてくれた山本作品のおかげで、わたくしも15年経ってやっとMacのClassic環境から卒業できました(とほほ)!? もちろん、”エロが突き抜けた先に見える景色”を見せてくれる、山本氏ならではの作風も大好きです。