昨年は「仮面ライダーシリーズ」50周年、「スーパー戦隊シリーズ」45作記念という節目の年。今年は5月に「シン・ウルトラマン」の公開が控え、来年は「シン・仮面ライダー」が公開予定。分冊マガジンでは「ウルトラセブン」に登場したポインターの組み立てキットが発売されている。リアルタイム世代にとっても初めて触れる世代にとっても、昭和特撮作品シリーズに注目が集まることの多いここ数年だ。
20代なかばにして、そんな昭和特撮作品を愛してやまない女子がいる。好きなだけではなく、リアルタイムな昭和世代も驚くほどの知識を持ち、変身ポーズの再現度もかなり高かったりする。
“ツインテメイド声優”、せんす。その名の通りツインテール&メイド服をアイコンに、おもに声優として、ゲームキャラクターやCMの世界で活動する。“おもに”と書いたのは、その活動の幅が、声の仕事だけに収まらないからだ。
昨年11月までは、アイドルグループ「#ペンタプリズム」のメンバーとしてアイドルとしても活動していた。さらに、個人での歌手活動、イラストやデザイン製作、ネット配信、朗読劇への出演などマルチに活躍し、注目を集める存在だが、とくに際立つのは、「やたら昭和特撮に造詣が深い」ことではないだろうか。
自身も「特撮参謀」として参加するYouTubeチャンネル「秘密結社 ざまぁ味噌漬け」(毎週木曜深夜24時更新)では、その名の通り特撮ネタ、しかもほぼ昭和特撮を作品ごとに掘り下げ紹介している。「ウルトラQ」、「仮面ライダー」、「秘密戦隊ゴレンジャー」といった大メジャー作品から東映版「スパイダーマン」や「アクマイザー3」、映画「怪獣大奮戦 ダイゴロウ対ゴリアス」など、昭和40~50年代生まれ男子感涙のラインナップ。
その知識と愛に、ときどき「人生2周目」「昭和40年代生まれ」疑惑ネタがあがることもあるほどだが、これらの昭和特撮の名作の数々を、1995年生まれの20代女子がリスペクトたっぷりに語ってくれ、世代を超えた共通言語となる。それはもう、ある層にとってはドストライクすぎる存在だ。
昭和特撮好き女子・せんすは、どのようにして形づくられたのか。それは、後追いでハマるタイプの〝昭和好き女子〟とは全く違う生い立ちにある。せんすの源流に、迫る。
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昭和特撮の産湯を使い……生まれてすぐからの超英才教育的環境
せんす・赤ちゃん時代に撮影された一枚の写真がある。
「赤ちゃんの私の周りを、ゴメスやナメゴン……30センチぐらいのリアルなソフビがそびえ立ち、取り囲んでいたんです(笑)。それを見たときに、『あ、なんか覚えとる!』って」
せんすの父は、一部のマニアに人気の作品もある、特撮やアニメのガレージキットなどの原型師。父親の趣味であり仕事の資料でもある怪獣やヒーロー、さらにはアニメ作品のソフビやビデオ、書籍などがあふれかえり、それらをさながら産湯のように使い、生まれ育った。
「テレビでは録画した特撮ヒーローモノがいつも流れていました。生まれは平成なわけですが、当時放送していた平成の作品のおもちゃもほとんどなくて、見るものも周りにあるものも、昭和特撮だらけでした。赤ちゃん用のおもちゃもほとんどなかったと思います(笑)」
なかでも大きな影響を受けた作品は、「仮面ライダー」シリーズだったという。
「はじめて作品としてちゃんと見たのは『仮面ライダーアマゾン』でした。『アー、マー、ゾーーン!』というおたけび、『アマゾン、トモダチ……』、まさひこ、モグラ獣人……子どもながらに『ええ話やなぁ』と泣いた記憶があります(笑)」
チャンネル権も、基本的に父。とはいえ、リアルタイムで放送している児童番組・子ども番組を見ることがNGだったり、昭和特撮を強制的に見せられていたわけではない。
「そこはそうですね。『おジャ魔女どれみ』シリーズとか好きでした」
主題歌なども自然に覚えていた。
「覚えようとして覚えた記憶はないですね(笑)。『レッツゴー!! ライダーキック』、『戦え!七人ライダー』、みんな聞いてるよね! 常識だよね! ぐらいの感覚だったかもしれません」
ある意味での超英才教育的環境。「プロ」として仕事をする父から、特撮作品に関する知識を直接学ぶようなことはなかったのだろうか。
「それはほぼないのですが、仮面ライダー1号が旧1号と新1号、桜島1号とあってカラーリングやマスクの造形が違うんだよとか、初代ウルトラマンのマスクはABC3つのタイプがあるよとか、そういったことは教わって、『なるほど、今よく見るのはCなんだ』とか学んでいました(笑)」
ここで気になることがひとつ。女の子がよく遊ぶ人形遊びを、ヒーローや怪獣のソフビでやったりしていなかっただろうか。
「友達がみんな持っている女の子のお人形を使った遊びをすごくしたいと思ってました。でも、うちにはない(笑)。あるとしたら、美少女フィギュアが少しあるぐらいで」
「とっとこハム太郎」の人形が欲しいとねだったことがあった。
「指にはめるタイプの、ちっちゃいハム太郎の人形が欲しいってねだったことがありました。そうしたら、全然違うハムスターの人形がやってきて(笑)。『あ、ありがとう(ハム太郎じゃないけどね)……』って(笑)」
物心がつき成長するなか、他の家とはちょっと違うなという意識は……?
「完全にありました! 絶対違うって(笑)。普通にアニメも見てたので、話が合わないということまではありませんでしたけれど。昭和特撮の話はさすがに分からないだろうなという意識はありました。ヒーローごっことかも……やりたかったなぁ!(爆笑)。そのぶん一人でヒーローになることを妄想することはあったのだと思いますが、それを発散する機会がなかった。だから今やっちゃう、みたいなところはあると思います(笑)」
人生で影響を受けた特撮作品3本
同世代の友達との微妙なズレ、そのためか、ネットの世界に飛び込んだのも、少し早めだったかもしれないという。
「それまで自分だけが好きな作品だったものを、共有できる人たちがここにいるんだ! という発見。そこでやっと『仮面ライダー』の話を他の人とできた気がします。まだ中学生だったので、『なんで知ってるの!?』と言われて盛り上がる、みたいな」
せんす像が、少しづつ形づくられてきた。リアルタイム世代と好きなものを通じて会話が成立することを得だと感じたことは、「めちゃめちゃあります!」。
「会話をするきっかけになりますし、ここまでは話しても通じるかな、距離を縮められるかなと測りながら。そこは自分の知識にありがとう! 実家、ありがとう! 特撮好きにさせてくれてありがとう! ですね(笑)」
新旧特撮作品に愛を捧げ続けるせんすが選ぶ、これまでの人生で影響を受けた特撮作品3本とはどんなものだろうか。
1本目は「仮面ライダー」。
「こういう世界があるんだと、視野が広がった、好きの入り口にもなった作品です」
2本目は「電光超人グリッドマン」。
「2018年のアニメ『SSSS.GRIDMAN』を先に知ったのですが、アニメの原作にもなったこの作品がちょうど配信されていたので見たところ、ズブズブと沼にハマり。当時もどこかマイナーな存在だったからか、そういう作品には思い入れが強くて、『え、あの!?』って盛り上がることも多いです(笑)。好きでいたことで、主人公を演じた方とお仕事をすることができたり、世界が広がりました」
そして3本目は平成の作品、93年公開の映画「仮面ライダーZO」だ。
「メイキングを見たときに、こんなことが特撮でできるんだっていうことをあらためて知ることができた作品です。低予算だったことを知り、その予算でこの表現ができたんだという驚き。みんな見ろ! と、オススメしたい気持ちも強くなる作品です(笑)」
声優を目指し上京してツインテメイドに
ヒーローに憧れながらも、進路として選択したのは、特撮の世界ではなく声優への道だった。
「特撮はあまりに日常的な存在だったり、どこかで父の世界という感覚があったのかもしれません。声に関しては、ほめてもらえる機会が何度かあったりして、もしかしたらむいているのではないかと。憧れもありました」
憧れるきっかけとなった作品が、「涼宮ハルヒの憂鬱」だ。
「杉田智和さん(キョン役)と平野綾さん(ハルヒ役)、お二人を目指したいなと思って。杉田さんのお話の面白さ、マルチな才能。平野さんの歌のうまさとビジュアルのよさ。こういうふうになれたらなって」
高校卒業後、大阪の声優専門学校に通いながら、メイドリフレクソロジーの店で働くようにもなる。
「そこで『名前を考えてきて』と言われて。それで、当時ドハマりしてた『物語シリーズ』に出てくる忍野扇(おしのおうぎ)という女の子をすごく愛していたので、その名前からいただいて、扇→せんすという名前にしたんです」
せんす・誕生、である。
「私なんぞが扇ちゃんの名前をとるなんておこがましいと思ったので、漢字じゃなくてひらがなにしたんですけど、センスあるなしのほうのイントネーションで呼ばれることも多くて、『いや、あおぐほうの“せんす”です』と説明することは多いです(笑)」
その後上京し、声優活動と並行して、東京でもメイドリフレクソロジー店「フェリシー」で働くようになる。
「ツインテールをそれまでも好きでちょくちょくやってはいたのですが、面接したときにメイド長に、『せんすちゃんはツインテね!』って言われて固定となり(笑)。制服もメイド長が、『(丈は)長いのじゃなくて短いの!』と(笑)。今の私の姿は、メイド長の趣味で出来上がったものでもあります」
せんす・ほぼ完成、である。
「今ではこの姿でいることでスイッチが入る気もします。スイッチを入れるときはツンテールです!」
「ミスiD2020」岸田メル賞からアイドルに、そして……
2019年、友人にすすめられ、「ミスiD2020」オーデションに応募した。
「完全に転機になりました。『せんす』の名前で応募してファイナルに残り賞もいただけたことで、私はこの先『せんす』の名前でやっていくんだ、という覚悟をつけることもできました」
ミスiDでは、「欲しかった」という岸田メル賞を受賞。多くの人に知られるきっかけとなった。ミスiD当時はまだアイドルグループのメンバーとして活動することは、全く想像もしていなかった。
「歌うことは好きでしたが、やっぱりアイドルって、特別な職業だと思うんです。歌以外にもいろんな能力が必要ですが、大体が目に見えないもの。それを可視化していくことがアイドルというお仕事だと思うんです。そこで自分と照らし合わせたときに、私はむいてないだろうなって」
それがなぜ、アイドルに転身したのか。
「たまたまお話をいただいたときに、人生のやる選択肢、やらない選択肢があるなら、やらないのはもったいないなと思いまして。これも一種の覚悟ではあります(笑)。メイドリフレをやめた時期と重なってはいるのですが、やめたのは、ここで自分の中での環境的断捨離をしようと思ったからで、アイドルやるからメイドをやめたわけではありません。断捨離したらアイドルになる話がついてきたみたいな(笑)」
アイドルグループ・#ペンタプリズムのメンバーとなり、21年5月にプレデビューを飾った。自らの属性を「真面目系燃え属性」と位置付けるが、メンバーカラーは“ヒーロー”らしさ全開の赤。衣装もヒーロー然としたマフラーが一人だけ装着されるなど、「らしさ」が前面に出されたものだった。
「私、戦隊に入るなら赤じゃなくてブラックか金、または白もアリかなと妄想してたんですが(笑)。好きな色は薄い紫と赤なのですが、妄想と他の人から見る似合う色は、また違う色なんですね」
メンバーからも「せんすちゃんはヒーロー!」と言われるような存在だったが、アイドル活動を通じて得たものは何か。
「私、ダンスがすごく苦手なんですね(爆笑)。だけど、がんばればちょっとは見える形になるんだな、という気づきはありました」
努力するヒーローアイドルは、11月末に卒業公演を開催し、アイドルとしての活動は終了した。卒業を決意した理由は、
「グループの中のせんすと、個人としてのせんす。グループの中での役割というものはもちろんあるわけなのですが、やっぱり一人のほうが自分の個性、色をもっといかせるんじゃないかなと思って。アイドル活動と声優活動をうまく両立していきたかったのですが、声優活動をやる時間がなかなか持てなくなってしまった部分もありました」
せんすにとっての#ペンタプリズムのメンバーとはどんな存在なのだろうか。
「自分にないものを全部持ってる人たちです。さっき言った、アイドルをやるうえで必要な目に見えない能力。それを可視化する能力が5人には備わっていて、そこに刺激を受けましたし、だからこそ、私のいない5人でも全然大丈夫だな、と感じました」
それはどこか、ヒーローが平和を守り去っていく姿とオーバーラップして見えてくる。
「そうそう!『私がいなくても君たちは大丈夫だ。がんばれよ』って(笑)」
最後にメッセージを一言!
「常に面白さの探求をやまない人間です。ツインテメイド声優・せんす、そして昭和特撮の魅力をどうぞ知ってください!」
近日公演予定の「朗読劇かんづめ なな缶目」への出演が決まっている。2022年、せんす・新章。〝ヒーロー〟のこれからの活躍に、注目していきたい。
【PROFILE】
●せんす(@SSSS_sensu)
1995年、大阪府出身。ツインテメイド声優。ミスiD2020岸田メル賞受賞。声の仕事を中心に、さまざまなエンタメに挑戦する。YouTubeチャンネル「秘密結社ざまぁ味噌漬け」の団員として〝特撮参謀〟を担当し特撮作品の魅力を紹介中。ミスiDデジタル写真集『せんす「おもてなし」』、PCゲーム『スペースマウス2』主人公「ゆー」の声など。好きな食べ物:香草、生ガキ、ゆで卵、ブロッコリー。好きな東京の街:秋葉原、中野。座右の銘:災い転じて福となる。
執筆:太田サトル/撮影:我妻慶一
※写真撮影時のみマスクを外しております