鈴井貴之さんによるプロデュース公演・OOPARTS(Out Of Place ARTiSt)の最新作『D-river』(ドライバー)がCS衛星劇場にて放送される。渡辺いっけいさんや温水洋一さんなどベテランを揃え、集大成として挑んだ本作。また、コロナ禍において鈴井さん自身は舞台の創作活動についてどのように感じたのか――。公演を終えた彼に、今の思いを聞いた。
自分たちで地球に対して墓穴を掘って、今になって埋めてる。
そんな人間の情けなさを以前からずっと抱いていたんです
──OOPARTSの最新作『D-river』は人間とAI(人工知能)との共存がテーマでした。まず最初に、この物語が生まれた経緯から教えていただけますか?
鈴井 今の時代って、実生活の至るところにAIが使われていますよね。炊飯器にまで《AI搭載》って書かれていると、“何ぞ!?”と思ってしまいますけど(笑)、それぐらい日常にあふれている。そうした中で、今回はクルマの自動運転に着目してみたんです。実際に自動アシスト機能が付いたクルマに乗っている方に話を聞くと、性能が非常に優れていて、僕らが想像している以上に便利らしくて。ただその一方で、僕が今乗っているクルマにもたくさんのカメラが付いていて、バックで駐車する時なんかもとてもラクなんですが、少し前にそうした機能を搭載していないクルマにたまたま乗ったら、駐車場で何度も切り返さないといけないぐらいバックが下手になっている自分がいたんです。昔は切り返しなしで、一発で駐車することに美学を持っていたぐらいなのに(笑)。その時、AIの進歩は人間の暮らしを助けるけれど、その反面、退化させることにもつながっているんじゃないかと思い、そこから今回の物語を考えていきました。
──以前からOOPARTSの作品では人間のエゴを描いている印象がありますが、今作でも決してウソをつかないロボットに対して人間が放つ、「機械が一番人間らしい」というセリフが皮肉めいていて、すごく心に残りました。
鈴井 自分も含めてですが、やっぱり人間が一番身勝手だと思うんです。ほかの生き物に対してもそうですし、機械や道具に対しても、どこか自分より下の存在として扱っているところがある。それに、今僕は北海道の赤平という大自然に囲まれた田舎で暮らしているのですが、そこで生活していると、どうしても“地球って人間だけのものじゃないよな”っていう思いが湧き上がってしまって。ヒグマが札幌市内に現れたというニュースや、海岸にプラスチックゴミがあふれているという問題にしたって、どれも人間が自分の都合で動物たちや地球の環境を破壊して墓穴を掘り、それに対して、今頃になってSDGsだとかいって自分たちでその穴を埋めようとしているように思える。そうした人間のバカげた行動への情けなさは昔から抱いていたことなんです。
──自然の中で暮らすようになり、その思いがより強くなっていったんですね。
鈴井 そうですね。特に自分の中の変化として顕著だなと思ったのが、ヘビ嫌いがちょっとずつなくなってきているんですよ(笑)。「水曜どうでしょう」をご覧になっていた方ならお分かりだと思いますが、昔はヘビを見るだけでギャーギャー騒いでました。でも、山の中で暮らしてると、当然ながら年に十数回は出くわしますし、今年もすでに5回は見ています。それで最近は慣れてきて、じーっと見ていたら、“あれ? 俺、コイツ、手で触れるなぁ”と思えるようになってきたんです(笑)。
──それは大きな変化ですね。
鈴井 ホントに。それに考えてみたら、もともとは彼らが生息していた森に僕が後から入ってきたわけで。なのに、“もう、おまえどっか行けよ!”って、偉そうな態度を取っているのはどうなんだろうって(笑)。それからは「ヘビさん、これまで嫌っていてごめんね」みたいな気持ちになりましたし(笑)、そうした思いも今回の物語に少しは投影されているのかなと思いますね。
──また、今作でAIをテーマにしたということは機械もお好きなんですか?
鈴井 いや、それが僕は機械というものを全く信用していないんです。“100%壊れないものなんてない!”と思っていて。だから遊園地のジェットコースターとかもスピードや急降下が苦手なんじゃなく、“ネジが外れたらどうするんだ!?”という考えが先に立って、不安になるから乗れないんです。普段、家の中にある機械をいじる時だって、常に最悪の危険を想定しながら使ってますからね(笑)。
──(笑)。ということは、今回の物語に登場するAIを信用しない渡辺いっけいさんの役柄には、ご自身の思いが反映されているんですね。
鈴井 それはすごくありますね。将来的にクルマの自動運転が実用化したり、なんでもAIがこなす時代になった時、人間はそれを100%信じられるのか……というのも、今作で描きたかったことの一つでしたから。
部下の行動を我慢して見守るのが理想の上司像。僕はそれが全くできなかったですね(苦笑)
──今作の出演者には渡辺さんをはじめ、温水洋一さんなどベテラン勢が揃いました。
鈴井 皆さん、過去に何らかの形で一緒にお仕事をさせてもらった方ばかりです。特にいっけいさんは稽古初日から全力できてくれる素晴らしい役者さんで。稽古序盤だからといって手探りで芝居をするようなことが一切ないんです。僕と同年代で、年長者でもあるので、そんないっけいさんの姿を見せられると、当然ほかの共演者たちも全力で挑まないといけない。それもあって、今回の芝居は完成するのがものすごく早かったです。
──温水さんに関しては、物語が進むに連れて、どんどんかわいく見えてくる不思議さがありました。
鈴井 それは狙いとしてありました。実際に稽古場でもそうでしたから。こういう言い方をすると失礼かもしれませんが、どんどんチャーミングに見えてくるし、マスコットキャラクターみたいに感じて(笑)。でも、役柄的にもそれがすごく合ってましたよね。
──ネタバラシになるので、どんなキャラクターなのかを言えないのがもどかしいです。また、そうした中で鈴井さん自身は久々に“イヤな男”を演じていらっしゃいました。
鈴井 “下請けの人間はすべて自分より下”と思っている男でしたよね。こういう人間って、いなさそうで、実は結構いると思うんです。僕自身も、昔はたくさん経験してきましたから。ただ、そこに対して問題提起を投げかけたかったわけではなくって。今回はおっしゃっていただいたように、純粋に“イヤな男”を演じたかったというのが大きかったですね。
──ちなみに、作品の中にはいろんなタイプの上司やリーダーが登場しますが、鈴井さんが思う理想の上司像とはどんな人間でしょう?
鈴井 そうですねぇ……僕、これまで上司がいたことがないんですよ(苦笑)。会社務めをした経験がないし、師匠や指針となった先輩というのもいないので、理想の上司がどんなものなのか分からなくて。ただ、自分が上に立つ立場になって“これはできなかったな……”と思うのが、部下の意見を尊重し、我慢して待つということ。慣れない仕事を頼んでも、経験値がないと当然スムーズに事を運べない。僕はせっかちなんで、そういう部下を見ると、「いいよ、俺がやってやるよ」って手を差し伸べちゃうんです。けど、それって部下の成長につながらないからダメなんですよね。本当はじっと我慢して、「いいよいいよ、頑張ってやってみなよ」って待ち続けなきゃいけない。そのほうが下の人間もやる気を感じるだろうし、成長していくんじゃないかと思いますから。ただ、僕は本当にそれが苦手でしたね(苦笑)。
本当は今回でOOPARTSを一回閉めようと思っていたんです
──今作は鈴井さんにとってコロナ禍になって初めての舞台でした。やはりこれまでと違いを感じることはありましたか?
鈴井 SNSなどを通していろんなお客さんの声が聞けましたね。「久々に劇場に足を運びました」という方もいれば、「かなりの覚悟を決めて来ました」という方もいて。もちろん、中にはチケットを買っていたけど、ギリギリで断念された方もいて。ですから、チケット自体は売れていても、空席が目立っていたりしたんです。そうした空席についても、これまでとは意味が違って感じられました。“本当は見たかったのに……”という皆さんの悔しい思いが感じられましたし、そんな無念さが聞こえてくるような体験も初めてのことでした。それもあって、最終公演では「ぜひまたお会いしましょう」というメッセージを残すことにしたんです。これで終わりにしないからって。というのも、実は前作の『リ・リ・リストラ~仁義ある戦い・ハンバーガー代理戦争』(2019年)を上演している時に、“OOPARTSはもういいかな”と思い始めていたんです。自分の気力や体力を考えて、ここらで一回閉めようかなって。
──それは活動に区切りをつけるという意味ですか?
鈴井 そうです。ですから、今回の『D-river』ではスタッフにも「これで最後かもしれないよ」と伝えた上でスタートさせてもらっていて。でも、あの空席を見て考えが変わったんですよね。いろんな方が待ち望んでくださっているのを実感しましたし、舞台を完走させるために多くの方が背中を押してくれて、協力もしてくださったので、逆に今回でやめるわけにはいかないという思いに駆られたんです。ですので、また2年後か3年後……もうマスクなんて必要なくて、なんの気兼ねもなく劇場に足を運んでいただける状況になったら、また芝居をやりたいなと思っています。
──なるほど。となると、今回の『D-river』については当初、ご自身の中で集大成にしようという思いもあったのでしょうか?
鈴井 ありました。それもあって、今回は結果的にAIをテーマにした作品になりましけど、それとは別に、原点回帰といいますか、自分が20代のころに感化されたり、感銘を受けた映画・マンガ・音楽に触れ直すというところから創作活動を始めていったんです。『ブレードランナー』や『レザボア・ドッグス』を見たりして。それに、今回の放送では残念ながら使われていないのですが、舞台の幕が開く時のオープニングの曲もOOPARTSの初期のころから使っていたものを復活させたりしてました。そうやって最後の作品に向けて、“自分は何か好きだったのか”“どんなことをやりたかったのか”ということを検証しながら舞台を作っていったんです。……ただ、何度も言いますが、これで最後じゃありませんからね(笑)。
──そうだったんですね。実は最初に出演者のお名前を見た時に、“オールキャストだな”という印象を受けましたので……。
鈴井 そう、それもこの作品を最後にしようと思ったからですね。もう一度、皆さんと共演したいなという気持ちが強くありましたから。
──ではOOPARTSの新作はもう少し先まで待つとして、2022年も半分を過ぎたということで、残りの後半でやりたいことはありますか?
鈴井 そうですね……本を書きたいなと思っています。それも2冊。1つは物語……つまり小説ですね。それともう1つはエッセイ。なぜ僕が森で生活しているのかという思いや、そこで経験したことを綴っていきたいな、と。これは“書きたい”というより、“書かなきゃいけない”という義務として感じていることですね。
──楽しみです! また、コンサドーレ札幌の社外取締役としての活躍も期待しています。
鈴井 ありがとうございます。ただ、コンサドーレ札幌に関しては立派な肩書きを頂いてますけど、別に球団経営を任されてるわけではないですからね(苦笑)。サポーターの皆さんや来場者が楽しんでくださる企画を考えたりする、いわゆるアドバイザー的な立場ですので、頑張ってJリーグとコンサドーレ札幌を盛り上げていきたいと思ってます。
TAKAYUKI SUZUI PROJECT OOPARTS vol.6 「D-river」(ドライバー)
CS衛星劇場 2022年6月12日(日)後 4・00よりテレビ初放送!
【TAKAYUKI SUZUI PROJECT OOPARTS vol.6 「D-river」(ドライバー)よりシーン写真】
(STAFF&CAST)
作・演出:鈴井貴之
出演:渡辺いっけい、温水洋一、田中要次、竹井亮介、大内厚雄、舟木健(NORD)、藤村忠寿(北海道テレビ)、鈴井貴之
(STORY)
高額な報酬に引き寄せられて集まった、互いの素性を知らない3人の中年男性たち。出された指示に従って自動車に乗り込むも、一人はペーパードライバー、一人は免停中、もう一人は免許すら持っていなかった。だが、彼らが乗る自動車には最新の自動運転装置が備えられ、どんなトラブルも回避していく、はずだった。さらには3人のうちの一人が実はロボットであることも判明し……。はたして、人間は機械を信用し、命を預けることができるのか!?
取材・文/倉田モトキ