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2022/6/23 21:00

超人気クイズ作家・日髙大介さんが語る。知識や教養だけでは味わえない本当のクイズの面白さ

『クイズプレゼンバラエティーQさま!!』(テレビ朝日系)『クイズ!ヘキサゴンⅡ』『全国一斉!日本人テスト』『百識王』『超逆境クイズバトル!! 99人の壁』(フジテレビ系)など、誰もが知っている人気クイズ番組を支え続けてきた人物がいる。『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK総合)でもフィーチャーされたクイズ作家の日髙大介さんだ。今回は膨大な知識と好奇心を武器にあらゆる“面白い”を日夜追究するクイズ作家と呼ばれるクリエイターの仕事について伺った。

 

(構成・撮影:丸山剛史/執筆:木村光一)

●日髙大介(ひだか・だいすけ1977年、宮崎県宮崎市生まれ、静岡県浜松市育ち。クイズ作家。クイズ解答者として『パネルクイズ・アタック25』『タイムショック21』優勝、『クイズ王最強決定戦』準優勝2回。2006年、本格的にクイズ作家デビュー。以降、『クイズ!ヘキサゴンⅡ』『全国一斉日本人テスト』『百識王』『超逆境クイズバトル!! 99人の壁』『クイズプレゼンバラエティーQさま!!』他の番組に10万問を超える問題を提供。2021年4月、『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK総合)に同業の矢野了平氏と共に出演して話題となった。著書に『クイズ王の「超効率」勉強法』(PHP研究所)、『大人気クイズ作家が教える!10秒雑学』(三笠書房)がある。

 

70本の番組に提供したクイズは10万問以上

──現在、担当されている主な仕事についてお聞かせください。

 

日髙 テレビ番組では『クイズプレゼンバラエティーQさま!!』(テレビ朝日系)、『超逆境クイズバトル!! 99人の壁』(フジテレビ系)、『カズレーザーvs.NHK高校講座』(Eテレ)など。他には15年以上連載している雑誌のパズル作成、早押しクイズが楽しめる専門店『クイズルーム・ソーダライト』(東京・江戸川橋)で月に2〜3回、企画・出題・司会進行を務めるイベントなども開催しています。

 

──これまでに関わったテレビ番組の数は?

 

日髙 最近、ある番組に出演して数える機会があったんですよ。『クイズ!ヘキサゴンⅡ』『全国一斉!日本人テスト』『百識王』といった懐かしい番組から、変わったところでは『ガキの使いやあらへんで!!』(日本テレビ系)や土曜ドラマの『戦力外捜査官』(日本テレビ系)、あと深夜番組や土日昼の時間帯に放送される特番まで全部含めてカウントしたら70本以上ありました。

 

──それらの番組に何問くらいのクイズを提供されたんでしょうか?

 

日髙 もう流石によくわからないです(笑)。クイズ問題の他、雑学ネタなどを含めれば、6桁に乗るかもしれないです。

 

──6桁ということは10万問!?

 

日髙 実はこの間、パソコンのハードディスクが落ちてしまって。ズボラなものでバックアップを取ってなかったんですよ。なんとかサルベージできてデータは戻ってきたんですけど、開いてみて改めて驚きました。100個以上のフォルダに20万問ぐらい入ってたんです。

 

──20万問!? すべて日髙さんがつくられた問題なんですか?

 

日髙 いえ、クイズ作家の資料用としてデータベース化した過去問題や、解答者としての勉強用のクイズメモなども含まれてました。他にも、今でいう「謎解き」の走りみたいな問題やパズル問題なんかも。プロになって一番忙しかった2006年から2010年あたりのデータがとくに多かったんですが、ひたすらガムシャラにやってたんでしょうね、作ったこともすっかり忘れていた問題がザクザク出てきました。自分でもびっくりしましたね。

 

1週間に2000問。限界を超えたクイズづくり

──日髙さんの肩書きは「クイズ作家」という一言で括ってしまって差し支えないのでしょうか?

 

日髙 肩書きはクイズ作家と名乗っていますけど、テレビに出て雑学を披露したり、クイズ王として芸能人の方と対決したり、ラジオでもパーソナリティをやったりと、たしかに我ながら多岐にわたりすぎですね(笑)。意識としてはクイズに軸足を置いて、いわばバスケットボールのピボットみたいな感じというか、“クイズ×○○”といったスタンスで自由にやらせていただいてます。

 

──クイズ作家としての活動はいつごろから始められたんですか?

 

日髙 1998年、大学2年生のときにアルバイトで『全国高等学校クイズ選手権』(通称『高校生クイズ』/日本テレビ系)の問題を作成したのがきっかけです。そこから数えればもう四半世紀になりますね。ときにはゲームセンターやアプリ用のクイズゲームも担当しましたが、とくにローンチ(立ち上げ)の時には、それこそ何万問もクイズを作らなければならないのが、過酷極まりない仕事でした(苦笑)。

例えば「黄色い」「滑る」「サル」といった6つのヒントから「バナナ」という正解を導き出すみたいな連想クイズを作る仕事があったんですが、ノルマが1週間に2000問だったんです。あのときは壊れました(笑)。毎日14時間くらいパソコンに張り付いて作業に没頭していたら、お風呂の栓を抜いてちょっとお湯が減ったのを見ただけで楽しかったり、マンションの1階にゴミ出しに行っただけで非日常的な感覚に見舞われたり、そのぐらいヤバい状態になってましたね(笑)。

 

バラエティーか? クイズか? 一言では説明できない日本のクイズ番組

──クイズ番組にもトレンドがあると思うのですが、最近はどういう問題が主流になっているんですか?

 

日髙 テレビのクイズ番組全体でいうとビジュアルの要素が増えていますね。昔は耳で聞いて直球のクイズに答えるというのがベーシックなスタイルでしたが、最近は知識クイズであっても、たとえば可愛らしい動物や絶景などの映像がたくさん画面に並べられて、わかるものから順番に答えていくみたいなクイズや、知識がなくても答えられる「謎解き」系の問題が主流なような気がします。ただ、ある傾向に偏っているかというとそうでもなくて、いまでも多種多様なクイズ番組がほぼ毎日放送されていて、勉強系からバラエティー系まで揃っていると思います。12色入りの色鉛筆みたいな感じ。きれいに棲み分けされている印象ですね。

 

──クイズ番組といっても千差万別でそれぞれ楽しむポイントが違うんですね。

 

日髙 そうですね。ただ、僕はバラエティー番組の一部にクイズが取り込まれる傾向が加速している気がします。ワイドショーやグルメ番組などでも、たとえばCMをまたいで結果を予想させたり、値段当ての要素を盛り込んだりといった演出なども含めて「クイズ」ですよね。それが日本のクイズ番組の特徴でもあると思います。エンターテインメントの要素が強いといいますか……。むしろ欧米のテレビのほうが、純然たるクイズ番組は多いような気がしますね。やはり視聴率がからんでくる以上、日本ではこれからも純粋なクイズ番組は生まれにくいと思います。地上波で46年以上続いた『パネルクイズ・アタック25」(朝日放送系)のような息の長い王道クイズ番組は、意外に少数派なのではないでしょうか。

 

──日本の視聴者には王道のクイズ番組はウケない?

 

日髙 はい。よく雑誌やネットのアンケートなどで「ウルトラクイズみたいな視聴者参加型クイズ番組の復活を期待する」みたいな意見などを目にしますが、昔のビデオをよくよく見返してみると、たとえば『アメリカ横断ウルトラクイズ』(日本テレビ系)もクイズ要素ってそんなに強くないんですよ。アメリカの名所でひたすら早押しクイズをしたり、砂漠にクイズ封筒をバラまいたりといったイメージが強いですが、実際には“アメリカの知られざる海外情報”や、“解答者の誰が勝ち上がるかを追いかけるドキュメント要素“や“罰ゲーム”だったりと盛りだくさん。海底でクイズをするなど、突拍子もないクイズのインパクトが抜群だったのは間違いないですけどね。正統派クイズとして語られる『アップダウンクイズ』(毎日放送)でもゲストの“シルエットクイズ”や、そのゲストのトークに多くの時間を費やしていました。結局、昔も今も、日本のクイズ番組は、あくまでもクイズの名を借りて視聴者を楽しませる構成になっているんですね。

 

クイズ作家がしている意外な仕事

──もう少し詳しくクイズ作家という仕事の中身について聞かせてください。

 

日髙 いま挙げたようなバラエティー色の強いテレビ番組の場合、あくまでも僕の場合ですが、クイズ作家として“どこまでクイズ色を出して、どこまでをバラエティー要素にするか”の境界を見極める役割というか、両者を橋渡しする役目を担っています。「こういう企画だったら、難しい問題のほうが相応しいです」「これは“知識クイズ”より“なぞなぞ”にしたほうがより企画が立ちますよ」といったアイデアを出したりします。あとは正解か不正解を判断する正誤判定も重要な仕事です。

 

──解答者が答えたあとの“ピンポン”“ブーッ!”というあの音を鳴らすボタンも日髙さんたちが押しているんですか!?

 

日髙 番組によりますが、最近はクイズ作家が判定する機会が多くなりました。そのためにロケに同行することもあります。入念な下準備と、現場での瞬時の判断が求められますね。変わった役割でいえば、番組で新コーナーを立ち上げる際にシミュレーションを行うんですが、その現場に立ち会ってクイズのルールをチェックしたりもします。若手の芸人さんやエキストラの方々がクイズ解答者になって、新しいクイズ形式が面白いかどうかを試してみる。そこでルールの穴や抜け道がないことも確認するんです。もしも解答者が1問も正解していないのに優勝するような事態が起きてしまったらコーナーが成り立ちませんからね。

 

──なるほど。クイズ番組をより面白くするための監修の役割まで果たされているんですね。 日髙さんのようなプロのクイズ作家は、今、何人ぐらいいらっしゃるんですか?

 

日髙 たぶん10人くらいだと思います。ただ、タイプは多種多様。テレビとは離れた立場でクイズの書籍を作っている方もいれば、イベントをメインに活躍されている方もいます。クイズ作家といっても考え方やアプローチ方法は十人十色なんです。

 

──それぞれ得意分野やクイズに対する考え方によって活躍のフィールドも自然に棲み分けされているんですね。

 

日髙 僕と同い年で(1977年生まれ)、NHKでも一緒に密着取材を受けた矢野了平という放送作家がいるんですけど、彼の場合、ナレーションや台本も書ける。もちろんしっかりしたクイズ問題も作る。僕にとっては25年近く、ずっと一緒に仕事をしてきた盟友で、まあ悪友でもあるんですが(笑)、正直、ことテレビというエンタメの世界では勝てないなと思ってます。あと『水曜日のダウンタウン』(TBS系)の演出としても有名な藤井健太郎さん。クイズ作家ではなく演出家・プロデューサーの方なんですが、『クイズ☆正解は一年後』(TBS系)みたいな発想は天才だと思います。『水曜〜』でもたまにクイズの企画がありますが、実はルールなどすごく緻密に作られていて、感動すら覚えます。こういう人たちと同じフィールドではとても勝負できないと悟ったこともあって、僕はクイズイベントやクイズMCなども視野に入れて、別の活路を見出そうと決心したんですよ。

 

どこにその問題を置けばクイズとして一番美しいか

──これまで作成した中で最も印象に残っている問題についてお聞かせください。

 

日髙 クイズ作家として会心の1問ということですね。う〜ん、番組によって、コーナーによって求められるものが違うので一概にこれが最高とは言えないのですが…。第29回の『高校生クイズ』(日本テレビ系)全国大会のために用意した「“春眠暁を覚えず”の次の一節は?」という問題は忘れられませんね。正解は「処々(しょしょ)啼鳥(ていちょう)を聞く」。かなり難しかったと思いますが、この問題はいわゆる「クイズによく出る問題」ではなく、まさしく“知の甲子園”に相応しい、高校生が正解できたことを誇りに思えるようにと考え抜いた問題でした。実際にこの問題が決勝戦のラスト、日本一を決する場面に採用されて、東大寺学園の皆さんが栄冠を手にした瞬間をスタジオで目の当たりにできたのがとても印象深いです。

 

──まさに高校生らしい問題で、クイズの日本一が決まったわけですね。

 

日髙 そうですね。あと『高校生クイズ』とは対極になりますが、『クイズ!ヘキサゴンⅡ』(フジテレビ系)の“アナウンスクイズ”も印象深いです。これはいわゆる“おバカタレント”と呼ばれる出演者に、あえて難読漢字が入った問題を読んでもらい、誤読によって混乱したチームメイトが何とか推理して答えるというクイズでした。「拾万円と壱万円、高いのはどっち」みたいな(正解は「拾万円〈じゅうまんえん〉」)。里田まいさんが「すてまんえん」とか「ひろまんえん」とかムチャクチャ読んでいましたね(笑)。

でも回数を重ねていくうち、読み間違えるような漢字がなくなってきた。そこで何とか捻り出したのが「〆鯖をつくるのに欠かせない調味料は?」という問題(正解は「酢」)。はたして彼らが〆鯖(シメサバ)をどう読むかがポイントだったんですが、なんとそれを山田親太朗さんが「アルファサバ」と読んだ(笑)。「〆」が「α」に見えたようなんですね。これは出題した側としてはホームラン。「鯖は読めるんかい!」みたいなツッコミも相まって現場は大爆笑でした。

結局、「処々啼鳥を聞く」から「〆鯖」の問題まで、適材適所というか、クイズにはそれぞれ置き場がある。かっこよく言うと、どこにその問題を置くとクイズとして一番美しいかを熟知している、そのセンスこそがプロのクイズ作家の腕の見せどころだと思います。

 

解答者としてボタンを押した者にしかわからない快感

──日髙さんはクイズ解答者としても華々しい実績を残されていますが、クイズ解答者にしか味わえない快感や悦楽というのはどのあたりにあるんでしょうか?

 

日髙 僕が主催する早押しクイズのイベントに初めて来られた方を見ていると、「信号機の3色といえば、赤と黄と何?」といった超簡単な問題でもなかなかボタンを押さない。正解がわかっていても押せないんです。おそらく、間違えたらどうしようという気持ちが強すぎるんだと思うんです。誰しも恥をかくのってイヤじゃないですか。でも、1問でも正解してハードルを越えると、その解答者が見事に一変する。あの「初正解」というのが得も言われぬ快感で、早押しクイズに病みつきになってしまうんだと分析します。

 

──病みつきになってしまう?

 

日髙 順を追って説明しますと、まずボタンを押すという行為は実際にやってみるとすごく勇気が要ります。そこを思い切って乗り越えると目の前のランプが光って一斉に視線を浴びます。そしてMCから自分の名前を呼ばれて正解と思われる言葉を発すると、それが正解なら“ピンポン”と祝福の音が鳴り響いて万雷の拍手に包まれる。というように、たった1問のクイズに答えただけで、勇気を振り絞って一歩を踏み出せたという満足感、喝采を浴びる快感、もっと正解したいという向上心が芽生えます。さらにそれを2〜3回体験すると勝者として次のラウンドへ進むことができる。大袈裟に言えば、この一連の流れの中で生存競争に打ち勝った喜びを味わえるんです。

 

──なるほど。そしてそのレベルが上がれば上がるほど快感も増幅され、ますます深みにハマってしまうんですね。

 

日髙 はい。勝てばうれしい、誇らしい。負ければ悔しい、でも楽しかった、次は頑張ろうと思う。クイズの解答者がそんなふうにステップアップしていく過程には、おそらく人間の普遍的な感情に訴えるものが凝縮されているんだと思います。

 

──今一番やりたいこと、これからの目標をお聞かせください。

 

日髙 感染症が収束したら、たとえば全国の都道府県にこちらが出向いて行ってクイズ大会を行い、そのチャンピオンたちが東京のどこかに一堂に会して最終決戦を行うといった大規模なイベントを開いてみたいですね。小学生のころに『高校生クイズ』や『ウルトラクイズ』のおかげでドン! とクイズの面白さに目覚めた僕としては、時代遅れと言われるかもしれませんが、せっかく先人の方々が築き上げてくれた、安全性や公平性を担保したうえで、屋外などの絶景の中でクイズをやる、正解して感動を共有するというノウハウを廃れさせてはいけない気がするんです。そのノウハウは財産だと思う。ですから、そのための場を提供できる機会があれば、どんな労力も惜しみません。きっとそれが自分に与えられた使命ではないかと思います。