主人公の高校生が“30年後の自分と名乗る男”と追想の旅に出る姿を描いた映画『追想ジャーニー』が11月11日(金)に公開。劇中、30年後の文也を演じる高橋和也さんに、どこか哀愁も感じさせる30年後の文也の役柄についてや“俳優として初めて経験した現場”でのエピソード、さらには再始動ライブを成功させたばかりの「男闘呼組」メンバーとして、今後について語ってもらいました。
【高橋和也さんの撮り下ろし写真】
監督の狙いが見事に的中していましたし、とても不思議な作品になった
──本作への出演を決めたポイントは?
高橋 脚本を読ませてもらったとき、物語の面白さに惹かれました。それで「ぜひやりたい!」と思ったのですが、撮影期間が3日間というタイトなスケジュールに対して、とにかくセリフの分量が多い。しかも、クランクインまでの一週間ほどしかなかったので、それまでにセリフを入れなきゃいけない。「これは俳優業を始めて、初めての経験になるな」といった覚悟で挑ませてもらいました。
──30年後の文也を演じるにあたり、彼のキャラクターをどのように捉えましたか?
高橋 僕は文也のように、自分の人生を後悔したり、過去に戻りたいと思ったりしたことがないんですよね。逆に、その気持ちが分からないからこそ、文也という人物に興味を惹かれたし、彼を演じてみたいと思ったんです。また、年齢を重ねていくことで見えてくる、自分ではどうにもならない人間関係や苦しみみたいなものは、誰にでもあるので、そこにはとても共感しました。そんななかで、僕が文也を演じることで人生の痛みや人間の弱さを出していければいいな、と思いました。
──文也の青年時代を演じる藤原大祐さんとの掛け合いなど、印象的な撮影エピソードを教えてください。
高橋 僕としては、「しっかりリハーサルをやりたい」という気持ちがあったんですが、監督は一回だけテストして、「はい、本番」という感じで進んでいくので、とにかく目まぐるしかったですね(笑)。藤原くんとは、衣装合わせのときに一度会っただけで、ほとんど話をしてないから、僕は彼のことをよく知らないし、彼は僕のことをよく知らない。それでも、彼はとてもシャープで、セリフもしっかり入っていたし、現場ではほぼ一発勝負で、掛け合いが成立していったんです。
──ということは、高橋さん自身が戸惑うこともありましたか?
高橋 僕のなかで「今ので大丈夫だったのかな?」と思うことは、確かにありました。でも、出来上がった作品を観ると、それがとても演劇的で、臨場感を生み出していて……。普通の映画だと、もっとリアリティーを突き詰めていくと思うんですが、この作品はあくまでも虚構の世界を俳優が演じることで、お客さんが物語の中に引き込まれていく。そういう監督の狙いが見事に的中していましたし、とても不思議な作品になったと思いますね。
役が僕を呼んでいるような気もしないでもないんですよ(笑)
──高橋さんが演じられたことで、情けない文也がより魅力的なキャラに見えました。
高橋 完璧でかっこいい人間を演じるよりは、挫折していたり、孤独を抱えていたりする人物を演じる方がリアルだと思うんです。はたから見れば、情けない男に見えるかもしれませんが、俳優としてはとても魅力的なんですよね。僕自身が年齢を重ねたからかもしれないんですが……。自分自身、勝者を演じるより、敗者を演じた方が似合っていると思うし。今の僕の持っている雰囲気からか、最近はそういう役で多くオファーしてくださることも増えていて、役が僕を呼んでいるような気もしないでもないんですよ(笑)。
──本作とは内容こそ違いますが、以前ドラマ「日本ボロ宿紀行」で演じられた、かつての栄光を引きずっている一発屋の歌手・龍二の姿も重なりました。
高橋「日本ボロ宿紀行」の龍二は売れない歌手で、『追想ジャーニー』の文也は売れない役者。歌手も俳優も、僕が実際にやっている職業なので、その部分から、とても感情移入しやすいんですよね。僕自身、十代のときに「男闘呼組」というグループにいたことで、芸能界の華やかな部分を知ることができましたが、その後に苦労した経験があるのも大きいと思いますね。それに、売れないけど、夢を追いかけている先輩たちの姿もたくさん見てきたし、むしろ僕はその人たちと酒を酌み交わすことで、演技論や俳優論などを学んできたんです。
──さて、先日は男闘呼組のメンバーとして、2日間(4公演)の再始動ライブを成功させた高橋さんですが、今の率直な感想を聞かせてください。
高橋 再結成は心の底から願っていたことだったので、夢にまで見た光景でしたし、人生のピークかと思えるぐらい最高の2日間でした! 現実問題として、あまりにいろんな壁がありすぎて、できないことだと思っていましたから。それを乗り越えるために、支えてくれるスタッフがいて、4人のメンバーの強い絆と友情があったからこそ実現した出来事だったと思います。
──今後も、5日間(10公演)の追加公演のほか、2023年8月まで期間限定が続いていきます。
高橋 全身全霊で、今持てる力を出し切って、目の前にあることに対し、メンバーと一緒に行けるところまで行こうという気持ちで、いっぱいですね。ただ、最高の2日間を過ごした後、来年の8月まで夢のような時間は続いていきますが、その後に関しては、人生がバラ色になるわけではないと思っています。これまでどおり、地道に俳優をやっていくだろうし、音楽を作っていくだろうし。ただ、バラバラな個性を持った4人がこうやって集まれたことは、自分にとって大きな意味があることを痛感したし、こんなにファンのみんなが待ち望んでいた再結成だということも、改めて知ることができました。
ちょっとズレた昔のメディアに触れるのが楽しいですね
──そんな高橋さんが現場に必ず持っていくモノを教えてください。
高橋 地方ロケや地方公演が多いこともあり、爪切り、眉毛やまつ毛のブラシなど、身だしなみを整えるためのエチケットセットは必需品ですね。個人的に電動シェーバーが苦手なので、T字カミソリとシェービングフォームなんかも入っています。特にメーカーなどのこだわりはなく、丈夫ですぐに壊れないモノを選んでいます。音楽を聴くときは、iPhoneひとつで全部済んでいますね。
──音楽にとても造詣深い高橋さんですが、今はどんな音楽を聴くことが多いですか?
高橋 山の中に行くときは必ずカントリーを聴くし、最近は再結成気分を盛り上げるため、ロックをガンガン聴いていますね(笑)。基本、1960~70年代の音楽が好きなので、アナログのレコード盤で聴くのが最高なんです。あと、あえてレーザーディスクで、名作映画を観たりもするんですが、ちょっとズレた昔のメディアに触れるのが楽しいですね。
──ちなみに、演奏される楽器のこだわりも教えてください。
高橋 昔から「男闘呼組」のときは、必ず「フェンダー・ジャズベース」を使っています。前は60年代のものだったんですが、今は70年代のもの。アコースティック・ギターに関しては、一番オーソドックスな楽器ですが、「マーチンD-28」が好きですね。
追想ジャーニー
11月11日(金)より池袋シネマ・ロサほか全国公開
(STAFF&CAST)
監督:谷 健二
脚本:竹田 新
出演:藤原大祐、高橋和也、佐津川愛美、真凛、髙石あかり、岡本莉音、伊礼姫奈、外山誠二
(STORY)
母親と喧嘩した高校生の文也(藤原)は、勉強もせずに居眠りを始め、気づくと舞台の上にいた。そばには見知らぬ男(高橋)がいて、「今日がお前の正念場だ。ここを逃したら一生後悔する」と進言される。やがて同級生で幼馴染のくるみ(髙石)やクラスメイトのゆりえ(岡本)が現れ、その後見知らぬ男は、文也の30年後だと告げる。夢なのか現実なのか理解できないなか、高校生の文也と30年後の文也はよりよい人生を送るために、自分の選択を見つめ直していく。
【映画「追想ジャーニー」よりシーン写真】
(C)「追想ジャーニー」製作委員会
撮影/干川 修 取材・文/くれい響 ヘアメイク/鎌田順子(JUNO)