人気バラエティ番組『水曜日のダウンタウン』(TBS系)から生まれたアイドルグループ、豆柴の大群。異色すぎるオーディションを経て合格したのは、アイカ・ザ・スパイ・ナオ・オブ・ナオ、ミユキエンジェル、ハナエモンスター、カエデフェニックスの5人。クロちゃんがアドバイザーとなりスタートを切った彼女たちだが、結成3年目でカエデが脱退することに。同時に新メンバーオーディションが開催。過酷な合宿を経てメンバー入りした“前職・看護師”のモモチ・ンゲールさんに、あますことなくさらけ出してもらいました。
(構成・撮影:丸山剛史/執筆:有山千春)
師長だけが知っていたオーディション受験
ーー新メンバー合宿オーディション「豆柴の大群なりの合宿」に向けての二次審査では、現役看護師ということでクロちゃんに擬似採血したりと、場を盛り上げて話題となりました。それ以前からアイドルに興味はあったんでしょうか。
モモチ・ンゲール(以下、モモチ) 昨年4月に就職する前は、ほかのオーディションを受けていましたがなかなか通りませんでした。うちは家族がゆるい感じではなくて、「自由を尊重」というより「ちゃんとした道を行きなさい」という風潮で、レールを飛び出す勇気がなかったので就職したんです。
そもそも家族は、私がアイドルオーディションを受けていたことも知らないんですよ。
ーーずっと言っていなかったんですか!
モモチ はい、今回も言わずに受けて、しばらく知らなかったんです。友達にも話さず、唯一、看護師長さんだけに話していました。
ーー師長さんはなんとおっしゃっていましたか?
モモチ 「いい反応はされないだろう」と、罵声を浴びせられてもおかしくないとまで思っていました。泣きながら「こういうオーディションに参加したいので、お休みをください」と言うと、「いいことじゃん!」と言ってくださったんです。
「看護師はいつでもなれるんだから、今やりたいことをやりなさい」と、背中を押してくださって。
あの瞬間、とても心強かったです。職場でも師長さんしか知らないので、隠さなきゃいけないことや調整することが多くて、すごく大変だったと思います。
ーー師長さん、とてもステキな方ですね。
モモチ はい! 師長さんが今の方じゃなかったら、たぶん受け入れられていなかったと思います。
ーーそういった背景があると、生半可な気持ちでは参加できないですね。そして一次の書類審査を通過し、二次は面談で、クロちゃんとWACK代表の渡辺淳之介さんと初対面を果たします。クロちゃんの印象はいかがでしたか?
モモチ 部屋に入った瞬間にいることがわかり、カメラもたくさんあったのでびっくりして、私はガッチガチだったんです。その緊張感を解くためにクロちゃんが採血ごっこをしてくれたのかなと思うと、「すごく優しいし、プロだな……!」と実感しました。
ーー二次審査では歌のワンフレーズ披露もありましたが、選曲は?
モモチ 大原櫻子さんの「明日も」を、おっきい声で歌いました。WACKのオーディションをこれまで見てきて「歌の上手さも大事だと思うけど、気持ちが大事なのでは」と思ったんです。
ーー企業研究がしっかりできていたんですね(笑)。
モモチ 企業(笑)、そう、なんかオーディション動画のコメント欄にも「就活みたい」と書かれていました(笑)。就活、経験しているからですかね(笑)。
ーーそして二次審査の合否は、水面下でクロちゃんが、モモチ・ンゲールさんが現役看護師ということを慮り、即日で連絡が来たんですよね。
モモチ その日にすぐいただきました。今まで受けたオーディションは、落ちたら連絡が来ないんですよ。だから「合格する人って、こんなに早く連絡が来るんだなあ」と客観的に思ってしまいました。
ーーいままではオーディションに通らなかったわけですが、今回といままでの違いはなんだったんでしょう。
モモチ うーん……いままでは、アイドルになる自分をあまりにも遠くに想像していたのかもしれません。WACKはオーディション動画をたくさん見せてくれる環境で、「自分もアイドルになる」という過程をリアルに想像させてくれたのかもしれません。
ーー二次審査を通過したことは、師長さんにはすぐに報告しましたか?
モモチ もちろん、一番に報告しました。友達にも家族にも話していないから、ずっと相談していたし、ずっと応援してくれていたので。
辛いものが苦手なのにデスソース!!
ーーそして三次審査の合宿が12月11日から開催されましたが、その直前に、カエデフェニックスさんの脱退が発表されました。どう思われましたか?
モモチ 5人の豆柴が大好きだったし、カエデさんの存在感は大きいですし、5人の中に入ることを想定していたので、「カエデさんがいないところに自分が入って、いいのかな……」と動揺して、合宿への参加にも迷いが生じました。
合宿中も、ほかの参加者の子たちともそれについては話していて、「ああ、やっぱりみんな同じことで悩んでいるんだ」とは感じました。
ーー無視できない、大きな出来事ですもんね。一方で、過酷な合宿は淡々と進んでいきます。まっさきに思い浮かぶシーンは?
モモチ デスソースです!
ーーデスソースをかけた昼食を、完食しなければいけなかったんですよね。
モモチ 覚悟はしていましたが、あんなに強烈だとは……。私はただでさえ辛い物が苦手で、甘口カレーしか食べられないんですよ。辛いカレーに、さらに辛いものが入っていて、人の食べるものじゃないと思いました(笑)。
絶対に食べきれないと思いました。でもなんとか食べきり、「私は、本能的にも豆柴に入りたいんだなあ……」と実感して、「アイドルになる!」という気持ちをより強く固めるための時間だったと認識しています。
「看護師を辞める」という決断も大事でしたし、「自分は意外と迷いがないんだな」と再確認もしました。
ーー合宿では毎日、順位が発表されていましたが、モモチ・ンゲールさんは常に上位に食い込んでいました。
モモチ でも、やっぱり「今日は上位でも、明日は最下位かもしれない。いつ落ちてもおかしくない」とずっと思っていましたし、順位が高くても結局は渡辺さんとクロちゃん次第だと思っていましたし、自分のなにが評価されているのかもわからなかったし、気が抜けませんでした。
ーーデスソース以外に、乗り越えられたことはありますか?
モモチ 今回の合宿はずっと生配信されていて、元々自分を作るタイプではないものの、作る隙がまったくない環境で素を出さなきゃいけませんでした。カメラの前で素を出すことが気にならない、と思えたことが、乗り越えられたことでしょうか。
クロちゃんと渡辺さんが、みんなに言っていたのが「殻を破らないと」ということ。殻を破る=がむしゃらさを見せることは恥ずかしかったけど、それどころではなく、破らざるを得ませんでしたね。
ーー参加メンバー同士の切磋琢磨も、いい刺激になったかと思います。
モモチ やっぱりカエデさんが抜けるという事実が大きいこともあり、「豆柴を守りたい」と思うオリジナルメンバーの方たちが、命をかけて参加しているのを感じました。
ガリガリ君を早食いしたり、デスソースを食べたり限界までスクワットをしたり、「豆柴に残りたい!存続させたい!」という本気度を感じたとき、「すでに活躍している方たちと同じ気持ちで、夢に向かっているんだ」と実感できたことが、自分にとっていちばん大きな出来事でしたね。
ーー配信ではみなさん泣いている瞬間もあったかと思いますが、モモチ・ンゲールさんはいかがでしたか?
モモチ クロちゃんと渡辺さんとの面談中です。クロちゃんから、自分が言語化できなかった部分を見破られたとき、「あ、見透かされてる」と実感して。自分がアイドルになることに対して、厳しくもあたたかく真剣に向き合ってくれていることに、涙が出てきました。
私は「アイドルになりたい」という気持ちを親にも妹にも、友達にも言ってこなかったし、真剣に相談したこともなかったので。
ーー「アイドルになりたい」という本音を、隠したかったんですか?
モモチ そうですね……友達には「アイドルになればいいのに」と言われることはありましたが、親に少しでもその片鱗を見せると「いやいやいや、アイドルは見るだけにしておきなさいね」でしたし、覚悟もなかったし。
でも一方で、ある日突然アイドルになって、みんなを驚かせたい、という気持ちもありました。
親に初報告も信じてもらえず
ーーそれが現実になったのが、12月17日東京・ヒューリックホールで開催された「WE MUST CHANGE TOUR FiNAL」での合格発表でした。
モモチ 最初にレオナが呼ばれて納得したんです。「絶対に合格するだろう」と思っていたので。とはいえ、誰が合格してもおかしくないほどみんなが魅力的で。
キャラクター性が強い子、歌が飛び抜けて上手い子、ビジュアルがすごくいい子、WACKが求めていそうな子……たくさんいて、「じゃあ、自分が受かる理由は?」と顧みたときに何も思い浮かばなくて、正直自信はありませんでした。
もちろん半分は「どうか名前を呼ばれますように」と願っていたんですけどね。
ーー名前が呼ばれた瞬間のことを覚えていますか?
モモチ 信じられませんでした。スモークや光の影響で視界が白くモヤモヤしていて「夢なのかな?」と思っちゃったくらい(笑)。
今でも思い出しますもん、白いモヤモヤの向こうから、気づいたらメンバーがワーーッと集まってきてくれるあの光景……。
ーーそして、肝心のご家族への報告ですが、いつ報告したんですか?
モモチ 合格に関するネットニュースが出てから、そのスクショを送ったのが初報告です。
ーー突然すぎる!(笑)
モモチ でも、それでもまったく信じていなかったんですよ。私が騙されていると思ったみたいです。
ーーどういうことですか?
モモチ 「それほんとうにちゃんとした事務所なの?」とか「レッスン費とかって、お金取られるんじゃないの?」とか。
そもそも、私が上京したときに「芸能のスカウトに声をかけられてもついていっちゃダメ。あなたはそういうことをするような人間ではないし、絶対に詐欺だから」とずっと言われてきまして。
「エイベックスさんやタワーレコードさんも関わっているんだよ」と言っても、「いやいや、あなた歌もダンスもできないでしょ?」と。「顔も良くないし年齢も若くないし、何がよかったの? 受かった理由はなんなの?」とすごく詰めてきて。
ーー自分の意志と無関係に反対され続けると、たしかに反骨精神というか「突然アイドルになって驚かせたい」と思う気持ち、わかります。
モモチ だから信用してもらうために「クロちゃんにも会ったから大丈夫だよ」とLINEしたら、さらに信用を失ってしまって。
ーーあはははははは!
モモチ 「確かにそうだよな……」と(笑)。親はテレビでのキャラクターしか知らないですから。私が合宿を通してクロちゃんの誠実さを感じていたので、信じてもらえるかなと思ってしまったんです。
ただ、妹もWACKが大好きだったので、彼女が全力で親を説得してくれました。
ーー頼もしい妹さんですね!
モモチ 熱弁してくれて、それでやっと信用してもらえました。さらに、その後に渡辺さんと親との面談があり、そこで全面的に信用されました。
ーーさすが渡辺さん。
モモチ きちっとした会社説明から理路整然と話してくれて。父は契約書をめちゃくちゃ読み込んでいた一方、母は素直に受け入れていました。
ーーギリギリでどうにかなって、よかったです(笑)。
モモチ 師長さんにもずっと親に話していないことは言っていて、「最後まで反対されたらどうするの?」と心配してくれていたんですけど、なんだかんだ、私の親は応援してくれるだろうと思っていました。
ーーようやく枷も外れて豆柴のメンバーとしてスタートをきりましたが、お披露目ライブ「豆柴の大群のりりりスタート」は1月6日に開催されたとあり、練習期間が数週間しかなかったんですよね。
モモチ 前職の事情もあり、家で一人泣きながら必死に練習していました。ライブ直前まで泣いていました。
ほんとうに全然できなくて、終電直前までみんなで練習して。いま、家の中が過去イチで汚いです。
ーーそれほど没頭していたんですね。当日はいかがでしたか?
モモチ いやー、一瞬でしたね。豆粒(※ファンの総称)の方たちは、「誰も応援してくれないんじゃないか」「笑ってくれないんじゃないか」と思っていたら、めっちゃ応援してくれるし笑ってくれるし、ニコニコしながら相槌を打ってくれるんですよ。あったかいな……と思いました。
平手友梨奈とエヴァンゲリオン
ーー今後、ファンの方にどんな自分をアピールしていきたいですか?
モモチ そうですね……元気いっぱいです! 明るいです! 優しいです! あと、うーん……元気です!
ーー元気さが伝わります(笑)。オーディション動画では、モモチ・ンゲールさんの応募した際の写真がたびたび映りましたが、ショートカットで笑顔がなく、いまとまったく違うイメージですよね。
モモチ 二面性を出したいと思ってあの写真にしたのと、実は昔から平手友梨奈さんが大好きでして。私の好きなアイドル像が平手さんに凝縮されているんです。「アイドルって、“可愛い”“女の子らしい”以外にもいるんだ」と衝撃を受けたころから、アイドルになりたい気持ちが芽生えました。そしてBiSHさんを知り、WACKさんを知り、今があります。
ーーじゃあ平手さんが所属していた、欅坂46の握手会にも行かれましたか?
モモチ はい、自分のできる範囲で、10枚以上積んでいました(笑)。
ーーガチ勢ですね。ほかにハマっているものはありますか?
モモチ 『エヴァンゲリオン』です! 観るのも好きだしグッズも集めていて、この前もエヴァの1番くじを引いたら初号機の模型が当たったんです! エヴァコーナーがあって、そこにずらっとフィギュアとかを置いているんです。あと私はメモを取るのはノート派なんですが、ノートもエヴァだしペンもそう。
ーー突然、熱量が高くなって早口になりましたね(笑)。好きなキャラは?
モモチ 渚カヲルくんです!
ーー21年公開『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』は何回観に行きましたか?
モモチ 映画館で4DXとかIMAXとか通常版とか……設備違いで7回観て、そのあと家で3回くらい見ました。4DXは農業をやるシーンで土の匂いがしたり、水が出てきたりして面白かったですね。
何度も観てはYouTubeの考察動画を観て、「なるほどね」と思って、それを確かめるためにまた行って、自分でも考察を深めてまた行って……みたいな観方をしています(笑)。
ーー考察動画まで(笑)。
モモチ お風呂とかメイク中、料理しているときとか、ずーーっと観ています。
ーー熱さが伝わりました(笑)。最後に、今後も目標を教えてください。
モモチ 豆柴としては「日本一チケットが取りづらいアイドル」になりたいですね。私個人としては、今はパフォーマンスではみんなを追いかける場所にいるので、これから頑張って「パフォーマンスで好きになった」「歌声が好き」と言ってもらえるようになりたいです。
ーーご両親も手放しで応援してくれることを願っています。
モモチ あ、母の推しメンはナオさん(※ナオ・オブ・ナオ)だと思います。母はナオさんのことを「一番背負っているね」と頼もしい目で見ているようで。メンバーを支える存在感の大きさに注目しているようです。
それに「応援しているよ」というLINEとともに、ブルーレイの写真が送られてきました。私が加入する前の作品を買い集めているみたいです(笑)。
ーーもうすでにじゅうぶんに豆粒なんですね!
【information】
「MAMEQUEST」
【初回⽣産限定盤】BOX仕様CD+Blu-ray+写真集/1万1000円 (税込)
新⽣⾖柴の⼤群始動︕3rd Album「MAMEQUEST」リリース︕
新メンバーのレオナエンパイア、モモチ・ンゲールを迎えた6⼈体制初のアルバム︕
Blu-rayには昨年12⽉17⽇にヒューリックホール東京にて開催された「WE MUST CHANGE TOUR FiNAL」のライブ映像+副⾳声&ツアードキュメンタリー映像を収録︕