広島県尾道市で、昔ながらの豆腐店を営む職人気質の父と頑固な娘の心温まる愛情物語を描いた『高野豆腐店の春』が、8月18日(金)より公開。劇中、父・辰雄を演じた藤竜也さんと娘・春を演じた麻生久美子さんに、心温まる撮影エピソードのほか、おススメの豆腐料理などについても紹介していただきました。
【藤竜也さん&麻生久美子さん撮り下ろし写真】
26年ぶりとはいえ、とにかく藤さんとお芝居できることに緊張していました(麻生)
──今回、お二人は藤さんが探偵役を演じられた『猫の息子』以来、26年ぶりの共演だったそうですね。
麻生 あのときは藤さんと直接の共演シーンはなくて、正直「女子高生役で、ヴァイオリン弾いたな……」という思い出ぐらいしかないんですよ。私自身、映画出演もほぼ初めてみたいなものでしたし。
藤 そうだったんですね。本当にきれいな女優さんになられて。名前の響きも美しいですし。麻生さんにはそんな印象がありました。
麻生 嬉しいです(笑)。26年ぶりとはいえ、初共演の気が引き締まる思いというか、とにかく藤さんとお芝居できることに緊張していました。
──今回演じられた辰雄と春の父娘は、一緒にお酒を飲んで帰るなど、とても仲良しですが、そんな関係性については、どのように思われましたか?
藤 実際の私は息子だけで、娘がいないので、娘を持つ父親の気持ちがどうも分からなかったんですよ。でも、麻生さんが心のこもった演技をしてくださったことで、見事にそれに引っ張られまして……。春の縁談の話が持ち上がる展開あたりから、気持ちがあたふたオロオロしていました。麻生さんの顔を見ると、涙が出ちゃいそうになるから、なるべく見ないようにしていましたし(笑)。
麻生 お互い信頼し合っているいい父娘関係だなと思いました。私も父親とはずっと暮らしていなかったので、「もし、今ぐらいの年齢でお父さんがいたら、こんな関係性なのかな?」と想像していました。とても理想的ですし、藤さんのアドリブも相まって大好きなシーンになりました。
藤 あ、あれね! 最初は「どんぐりころころ」を歌う予定だったんですが、なんとなく「ずいずいずっころばし」に変えたら、そっちの方が合っているような気がしたんですよ。幸せになるために、肩を寄せ合って生きる辰雄と春だけでなく、それを温かく見守る地域の仲間たちとの関係だったり、三原(光尋)監督が作られた設定も素晴らしかったですね。
私はいつも演じる役の履歴書というかプロフィールみたいなもの考えるんです(藤)
──今回の役づくりについて教えてください
藤 私はいつも演じる役の履歴書というかプロフィールみたいなものを考えるんですが、今回は特に辰雄が尾道で豆腐店を始めるまでのいきさつを考えました。でも、芝居はナマモノですから、麻生さんとカメラ前に立つことで、自然と辰雄になっていけるんですよ。台本には書かれていない亡くなった妻や親友のことまで、情感がどんどん溢れてきました。
麻生 私は必要以上に話さなくてもいい親子関係に見えるため、辰雄さんを演じる藤さんと一緒にいる時間を大切にしたいと思っていました。そのほかに、事前に何か特別な準備はしませんでした。
──ロケ地である尾道の景色も印象的ですが、藤さんはロケハンから同行されたそうですね。
藤 辰雄が暮らす場所、辰雄がいつも歩いている路地、辰雄が使っている郵便局や銀行などをしっかり見ておきたかったんです。そうやって、街を見ることが役作りに繋がりますし、本来なら1か月ぐらい実際に住んで、撮影隊を迎えたい気持ちでした(笑)。
麻生 私は初めて尾道に行ったのですが、すごくきれいな所で、大好きになりました。初めてなのに、どこか懐かしさもありましたし、地元の方もとても優しく温かく迎えてくださいましたし、春が住んでいることもしっくりしました。
藤 現場では僕が自転車のシーンで膝をぶつけてしまって、走れなくなって、麻生さんが病院まで走るシーンが急きょ追加されたんですよ。それがすごいいいシーンになりましてね。三原監督と一緒に、「あれはけがの功名だね」と言っていました(笑)。
この撮影をきっかけに、朝に温かい豆乳を飲むことにハマっています(麻生)
──舞台となる豆腐店での豆腐作りについてはいかがでしたか?
藤 豆腐作りはとても新鮮でした。今はほとんど機械での作業で、的確なタイミングでスイッチを入れたり、切ったりするぐらい。その中で大変だったのが、大きい水槽に入った出来上がった豆腐を切る作業。真冬の撮影だったものですから身を切るような冷たさで、「これ、やらせるの!?」というほどで(笑)。そしたら、実際の豆腐店の親父さんが「大丈夫ですよ! そのうち、熱く感じてきますから」と言われて(笑)。
麻生 今まで生きてきて、水がこんな冷たいと思ったことはなかったほどですが、不思議なことに冷たすぎて、だんだん手が熱く感じてくるんですよ。
──毎朝、豆乳を飲まれているシーンもありますね。
麻生 お豆腐屋さんに聞いたら、「子供の頃から豆乳を飲まされることで日課になった」と言われていました。私もこの撮影をきっかけに、豆乳のおいしさに気づき始めて、朝に温かい豆乳を飲むことにハマっています。豆腐について、ちょっとだけ詳しくなりましたが、辰雄さんの朝のあいさつも印象的でしたね。
藤「おう!」という、ちょっとハードボイルドみたいな感じで。辰雄の情が厚い部分とは違った職人としての一面が出ているようなシーンになったと思いました。
──また、本作に出演されたことで豆腐へのこだわりみたいなものは生まれましたか?
麻生 木綿と絹の違いとか、にがりだけで作ったお豆腐のおいしさとか考え方が変わりました。でも、三原監督は本当にご自身で作られているんですよ!
藤 僕はウィンドサーフィンしにハワイのマウイ島によく行っていた頃、健康志向の子のまねをした食べ方がありまして。それは木綿豆腐の上に、洗った生もやしを置いて、ゴマ油と醤油をかけるだけ。ずっとウチの定番になっていますよ(笑)。
麻生 その食べ方、撮影中に藤さんに教えていただき、ウチでもやってみました! すごくおいしかったです。あと、冷奴なら、シンプルにお塩で食べるのもいいですね。
生きることはそれ以上に素敵なんだということを教えてくれる(藤)
──本作のテーマや見どころについて教えてください。
藤『村の写真集』『しあわせのかおり』に続いて、今回3作目となる三原監督との映画に通じるものは、みんな何かしらの問題を抱えて生きているということだと思うんですよ。すべてを投げ出したいぐらい辛いかもしれないけれど、生きることはそれ以上に素敵なんだということを教えてくれる。今回も、そういうメッセージが込められた素敵な作品になったと思います。
麻生 私は出来上がった作品を観て、「人は一人では生きられない」ということを痛感しました。どんなかたちであれ、周りに支えてくれる人はいると思いますし、人が人を思いやる気持ちがたくさん描かれた作品になったと思います。
──藤さんといえば、NHK朝の連続テレビ小説「おかえりモネ」で、ときどき英語が飛び出す龍己じいちゃんが大きな話題になりました。
藤 僕自身はピンときていませんが、「ファンタスティック」とか「ハニー」が評判になっているという話は現場で聞きました。公園を歩いたりしていると、小さい子から「モネちゃんのおじいちゃんだ!」と言われることもありましたね。
──麻生さんはオダギリジョーさんと共演された日本マクドナルドのCMの反応も大きかったのでは?
麻生 いろんな方から、すごい反響があります(笑)。「時効警察」でおなじみのオダギリさんとの共演を喜んでくださる方が多いんですが、じつはCMでの共演は初めてなんです。もちろん現場は楽しかったですけれど、私にとってはご褒美みたいな感じでしたね。
クルマは僕にとって大きな存在で、「ありがとう」と言いたい感じです(笑)(藤)
──現場に必ず持っていくモノやアイテムを教えてください。
藤 僕は60年、ずっと横浜に住んでいるので、現場までは必ずクルマに乗っていくようにしているんです。免許取ってから、20台目ぐらいでしょうかね。今はイタリアのアバルトに乗っていて、長距離のときのステーションワゴンと乗り分けています。一人っきりになれる特別な空間ですし、いい気分転換になります。乗っているときは音楽やラジオはほとんどかけないですね。それだけ、クルマは僕にとって大きな存在で、「ありがとう」と言いたい感じです(笑)。
麻生 私は喉にいいスロートティーを入れたポットですね。特に甘くもなく、ノンカフェインのもので、声が枯れてきたときや風邪のひき始めのときに飲むと、すぐに良くなるんです。あとはアロマ・マッサージオイル。ちょっと眠くなったり、疲れたり、気分転換したいときに付けると、スーッとして、気持ちいいんです。
──また、現在ハマられているものがあれば教えてください。
藤 20年ぐらいやっていた陶芸をやめて、もう十年ぐらいになりますが、その後は趣味っぽい趣味がないですね。あえて言うなら、飯づくりですね。和食でも洋食でも中華でも、なんでも作ります。我が家のシェフですから。困ったときには、YouTubeを見て参考にします(笑)。昔だったら、レシピ書を引っ張り出してきたけれど、かなり楽な時代になりましたよ。
麻生 私は本当に趣味がない人なんですが、今は子育てぐらいでしょうか。2人とも小学生なので、放送中の出演ドラマを一緒に見たりすることもありますが、習い事の送迎が多いですね(笑)。YouTubeの楽しみ方を藤さんに教えてもらいたいです。
藤 YouTubeって、玉石混交だから、自分の興味あるものに関しては参考になるので、うまく使ったらいいし、使いこなせばなかなか便利なものだと思いますよ。
高野豆腐店の春
8月18日(金)よりロードショー
【映画「高野豆腐店の春」よりシーン写真】
(STAFF&CAST)
監督・脚本:三原光尋
出演:藤竜也、麻生久美子、中村久美
徳井優、山田雅人、日向丈、竹内都子、菅原大吉 / 桂やまと、黒河内りく、小林且弥、赤間麻里子、宮坂ひろし
(STORY)
尾道の風情ある下町。その一角に店を構える高野豆腐店。父の辰雄(藤)と娘の春(麻生)は、毎日、陽が昇る前に工場に入り、こだわりの大豆からおいしい豆腐を二人三脚で作っている。ある日、もともと患っている心臓の具合が良くないことを医師に告げられた辰雄は、出戻りの一人娘・春のことを心配して、昔ながらの仲間たち──理髪店の繁(徳井)、定食屋さんの一歩(菅原)、タクシー運転手の健介(山田)、英語講師の寛太(日向)に協力してもらい、春の再婚相手を探すため、本人には内緒でお見合い作戦を企てる。辰雄たちが選んだイタリアンシェフ(小林)と食事をすることになり、作戦は成功したようにみえたが、実は、春には交際している人がすでにいた。納得のいかない辰雄は春と口論になり、春は家を出ていってしまう。そんななか、とある偶然が重なり言葉をかわすようになった、スーパーの清掃員として働くふみえ(中村)が、高野豆腐店を訪ねてくる。豆腐を作る日々のなか訪れた、父と娘それぞれにとっての新しい出会いの先にあるものは──。
(C)2023「高野豆腐店の春」製作委員会
撮影/映美 取材・文/くれい響 ヘアメイク/ナライユミ(麻生) スタイリスト/井阪 恵(ダイナミック)(麻生)