元BiSHのセントチヒロ・チッチがソロプロジェクトをスタートさせ、CENT名義で1stアルバム「PER→CENT→AGE」をリリースした。さらに、加藤千尋名義では、女優としての初舞台も控えており、多方面での活躍が話題になっている。解散から2か月ほどたった今、チッチは何を思うのか。そして、新たに始まったソロプロジェクトの今後とは。セントチヒロ・チッチの今とこれからについて、じっくりと話を聞いてきた。
(構成・撮影:丸山剛史/執筆:kitsune)
【セントチヒロ・チッチさん撮り下ろし写真】
あの日、考えていたこと。「みんなを置いてけぼりには、したくなかった」
──6月29日に東京ドームで行われたBiSH解散ライブから、2か月ほどたちました。いま改めて振り返ってみてどうですか。
チッチ よかったんじゃないですかね。……正直、今はそれくらいしか言えないです。「振り返ってどうか」ってよく聞かれるんですけど、まだ何て言えばいいか分からないんですよね。今まで、ライブの映像はすぐ見返すタイプでしたが、今回はまだ見返せていないくらいで。だから、今言えるのは、よかったんじゃないかなってことだけなんです。もう少したったら、何か言えると思うんですが……。
──なるほど。解散前のインタビューでは、「(解散に)納得できていない」というお話もされていましたが、そういった気持ちもありつつのライブだったということでしょうか?
チッチ いえ、ライブ自体にその気持ちを持ち込むことはなかったです。それは私の中だけでの問題だったので。ラストライブ中は、「みんなでやり切る」ことだけを考えてやっていました。
結局、あの日は最終的に、身体も気持ちも疲れ果てちゃって。ライブの打ち上げがあったのですが、2次会に行く元気もないくらい(笑)。 ただ、全てを出し切ったんだなっていうのは、自分でもよく分かりましたね。みんなも全力を出し切って、すごく楽しそうでしたし。健康にその日を迎えて、気持ち的にも、全員が晴れやかな表情でステージにいた。それは、本当によかったと感じています。
──ファンの方に対しての思いや感じたことは何かありましたか?
チッチ 当日は、こっち側の私たちだけじゃなくて、あっち側にいるみんなも晴れやかな気持ちでいてほしいと思っていました。泣いても笑っても怒っても別によくて、ただ、そういうものが全部ここで出し切れないと、意味ないなって思っていました。
──ファンの方にも、清々しい気持ちになってほしいというか。
チッチ ただ、お客さんにも「解散おめでとう」って人と「解散してほしくない!」って人たちがもちろんいて、そういう気持ちを私たち全員が分かっているはずなのに、「よし、もうすぐ終わります!」みたいなテンションで最後を迎えるのは、ちょっと勝手すぎるかなとも思っていました。少し違和感を感じてはいたんです。だから、みんなを置いてけぼりにはしないよう、ライブもMCに関してもそこだけは必死にやっていましたね。
──そうなんですね。チッチさんの思いは皆さんに伝わっていたと思います。
チッチ 記憶や思い出はきれいに構成されてしまいがちですが、きれいなことじゃないことも全部記憶しておきたい、そう思っています。心に刻んで、忘れないようにしたくて。そうして、また少し時間が経過したら、違った感情が生まれて、改めてお話できると思います。
「BiSHで生まれたセントチヒロ・チッチがいたからこそ、CENTが始まった」
──チッチさんは、昨年からCENT名義でソロの音楽活動を開始されました。そして、解散後も休む間もなく、活動を続けていますね。
チッチ 私は自分に自信があるタイプではないので、休むほどの自信はなかったし、休みたいとも特に思わなかったですね。その後のことは、解散前によく考えるべきだと思っていたし、応援してくれる人たちのためにも時間を空けずにやりたいっていうのが自分の中ではありました。
──他のメンバーの方を含め、皆さんそれぞれの方向で止まらずに活動を続けられています。
チッチ BiSHは燃え尽きて終わったわけじゃないからだと思いますよ。道半ばながら、自分たちで決めて終わることになったので、まだ燃えたぎるものがメンバーの中にあった。自分たちが一番かっこいい時に解散するけど、じゃあ今後、それぞれが自分自身をかっこよく見せていくにはどうするか。そこを考えることに、みんなワクワクしているし、今その真っ最中なんですよね。
──皆さん自身も楽しんでいらっしゃる時期であると。 その中で、チッチさんはBiSHの所属事務所であったWACKに継続して所属していらっしゃいますね。そこは、何かお考えがあったのでしょうか?
チッチ この先は分からないですが、BiSHが終わったその瞬間、 私はBiSHを切り離して生きていきたいっていう意思はなかったんです。これまでの人生で、何かを全うした経験ってあまりなかったのですが、BiSHは、やっと成し遂げられたと感じたものだった。それを今後の人生にどう生かすかを考えていきたい時間だから、WACKにいたいな、と考えたんです。
だから、CENT名義での活動もその1つですね。BiSHで生まれたセントチヒロ・チッチがいたからこそ、CENTが始まった。そこから切り離すわけではなく、CENTとして活動を継いでいきたいという気持ちがあります。
──なるほど。BiSHで得たものを生かしていきたいという意味が込められていたんですね。
チッチ はい。丸々違う名前にしてもよかったんですけど、なんかそうじゃないなって自分の中で思って。ただ、セントチヒロ・チッチのままだと性に合わない部分もある。自分1人だけで生きていきたいと思ったんじゃなくて、CENTを囲む人と一緒に作っているクルーのような気持ちになれる気がしたので。
ハッピーなアルバムが完成。「自分のお気に入りが詰まったスペシャルなおもちゃ箱です」
──先日、CENT名義でのファーストアルバム「PER→CENT→AGE」が発売されました。アルバムのテーマやコンセプトは何か考えていたんですか?
チッチ アルバム自体のコンセプトは特になくて。収録されている曲は、最近できたものもあれば、3年前に作ったものもあるんですよ。バラバラな時期にできているんです。
──そうなんですね。ただ、全体を通してハッピーな雰囲気を感じました。
チッチ それはそうかもしれません。私は、ネガティブな曲を作れないというか、ネガティブにあまり寄り添えないなって、自分で感じていて。だったら、ネガティブに共感するんじゃなくて、ポジティブな方面に引っ張ってあげられるような曲を作ろうとは常々思っているんです。私がピースの風を振りまいていたら、みんなも同じ方向に向かえるかな、と。
──そのお気持ちが、楽曲に乗せられているんですね。伝わってきました。
チッチ 目指すものは「PEACE」なので。曲の性格はそれぞれ似てるなって思ったし、出来上がったら、なんだかおもちゃ箱みたいだなって思いました。おもちゃ箱って同じものが一切入っていないじゃないですか。
──自分のお気に入りが詰まったスペシャルな箱ということですね。
チッチ 例えばですが、友達が遊びに来て、私のおもちゃ箱を見た時に「これいいね!」ってなるものは、友達によって全然違うと思うんですよ。それと同じように、今回のアルバムを聴いたお客さんが、「これが好き」と言ってくれる曲がきれいにバラバラでした。
──面白いですね。ファンの方の反応もいろいろだったんですね。
チッチ はい。あ、そんなにバラけるんだって思ったくらいで(笑)。でも、それぞれの楽曲がいろんな愛され方をしてほしいと願っていたので、嬉しいですね。
憧れの存在との楽曲制作。「ただ、峯田さんが私に授けてくれる音楽が楽しみだった」
──今回のアルバムでは、豪華なアーティストの方々が制作に関わっていらっしゃいますね。皆さんのスタイルや楽曲を聴いて感じたことは、何かありますか?
チッチ 今回、たくさんの尊敬している方や、音楽の仲間が協力してくれてありがたかったですね。例えば、真島昌利(ザ・クロマニヨンズ)さんは、私の曲を聴いていただいた上で「あそぼーよ」を提供してくださったと聞いて、すごく光栄でした。今までそこまで接点が作れなかったんですが、そんな中、憧れの人に書いてもらえたっていうのは、ものすごく嬉しくて。一番童心に返れるような、子どもから大人まで響く曲を作ってくださったので、たくさんの方に届けたいです。
曲作りからいろいろと相談したのは、えみそん(おかもとえみ・フレンズ)ですね。もともとプライベートで仲良くさせていただいていたんですが、このアルバムを作るにあたり、ガールズパワーも欲しいと思って。こんな雰囲気の曲に生まれ変わらせたいとか、まだ自分の技術が足りない部分をどうしたらいいか、など深く相談させてもらいました。
──峯田和伸(銀杏BOYZ)さんとはレコーディングも一緒にされたそうですね。憧れの存在と仰っていましたが、実際に曲作りをしてみていかがでしたか?
チッチ 何の疑いもなかった状態というか。最初、峯田さんがやると決めてくださって、不安や焦りは1ミリもなく、ただ峯田さんが私に授けてくれる音楽がすごく楽しみだったし、最初のディスカッションからワクワクしていました。
いただいた瞬間から、早く歌いたいってずっと思っていて、一度私1人でレコーディングしたのですが、その後に峯田さんが「僕も行くからもう1回レコーディングしよう」と来てくださったんです。すごく濃い時間でしたし、嬉しかったですね。
──峯田さんの思いも感じますね。
チッチ もちろん誰に曲提供する際でも思いはあると思いますが、実際に来てくれて、その場で生まれるコーラスに心を感じました。
──峯田さんからアドバイスは何かありましたか?
チッチ 特にはないのですが「チヒロさんのその感じがいいと思いますよ」って、肯定してくださいました。あとは、いろいろアイデアを出してくれました。曲名もレコーディングの最後に「どうするの?」って言われて、ん~って悩んでいたら、「“決心”ってどうかな?」って付けてくださって。
──おお、考えてくれたんですね。
チッチ 全然繋がりがないところから生まれた「決心」って言葉には、正直びっくりしたんですけど、「歌詞を読んだ時に、決心を感じたので」と言ってくれて感動しました。すぐに「それにします!」と言って決めました。
──歌詞から気持ちを感じ取ってくださったと。
チッチ 自分では浮かばない曲名だったし、峯田さんでしか生まれなかっただろうと思って、「これしかない!」と思いました。たくさんの方に聴いてもらいたいですね。
実現できなかった海外公演。「好きでいてくれる人たちに、自分で会いに行きたい」
──アルバムを発売されて、次にソロ活動でやりたいことは何かありますか?
チッチ 実は、BiSHでできなかったことが1つあって……それは、海外ライブなんですけど。そこは、本当に悔しかったですね。今までの活動に後悔はないけど、正直やりたかったことの1つだったので。CENTとして、今まで会いたいと思ってくれていた人たちに、自分が出向いて会いに行きたいと思っています。
──いいですね。やはり他国からのお客さんや、海外からメッセージがきたりすることは多いですか。
チッチ 結構いろんな国の方からありますね。先日のリリースイベントでは、日本人の方ですが、アフリカから3日かけて来てくれた方がいて。頑張ろうって思えましたね。
──すごいですね!
チッチ ファンの方もそうですし、サマソニやフジロックで出会った海外のアーティストの方との繋がりも少しずつ増えて。共演した方に「かっこよかったです! 大好き!」みたいな気持ちを一生懸命文章にして送ると、みんなフレンドリーにメッセージを返してくれるんです。私は、実は結構暗いので(笑)、普段はそんなメッセージ送らないんですけど、海外の方は変な奴だって思わないでいてくれそうだと思って、社交的にコミュニケーションしています。
──そうなんですね。今、きっと世界中で待っている方がいらっしゃると思いますよ。
チッチ BiSHの時は、たくさんの人に受け入れられたいという気持ちが強かったですが、今は、好きでいてくれる人に会いに行きたいという、真逆の願望が強いかもしれません。いつも遠くから来てくださっていた皆さんに、今度は私から会いにいきたいです。
女優という新たな挑戦。「安定より、いろんなことに飛び込んで生きていく方が、自分らしい」
──音楽活動はもちろんのこと、加藤千尋名義での女優活動もスタートされました。
チッチ 演技のお仕事は、BiSH時代からちょこちょこやらせてもらっていたのですが、今までは、本人役や当て書きでの役が多かったので、これからが挑戦だなと思ってます。中途半端にはやりたくないので、その1歩目を踏み出すために、覚悟を見せたいという決意の表れとして、こちらも名義を分けて活動しようと考えました。
──女優として、また別の活動であるから、ということですね。
チッチ ただ、別ものではありますが、表現者としては何も変わらないです。私は、一生表現をして生きていきたいと思っているので、今回新たな試みではありますが、挑戦したいと思いました。安定を求めるよりかは、いろんなことに飛び込んで生きていく方が、自分らしいかな、とも思うので。
──女優として、こんな作品やジャンルに挑戦してみたいというものはありますか?
チッチ なんでもやってみたいですが、個人的にはホラーが好きなので積極的に演じてみたいですね。あ、でもお化け役じゃなくて(笑)。怖がる方や襲われる方ですね。逆に、サスペンス系でサイコパスの殺人鬼役とかもいいです。サイコスリラーやスプラッター系の!
──あはは。それはぜひ拝見したいですね。
チッチ ただ先日『ほんとにあった怖い話』(フジテレビ系)に出演させていただいて、怖がるって難しいなと演技をして思いました。そこは、作品をいろいろと見つつ研究したいです。あとは、アクション系にもチャレンジしたいです。私、戦ってみたいんですよね(笑)。
──戦ってみたいとは……!?
チッチ 日常を生きてる中で他人と戦うことってできないじゃないですか。でも、映像の中ではそれが可能であって。そういう表現の仕方、体で体現することは、音楽ではできないことなので、新しい表現として、とてもワクワクするなって思っているんです。
──なるほど。それは演技ならではの表現かもしれませんね。ちなみに、映像だけでなく11月には長編舞台作品『雷に7回撃たれても』が控えていらっしゃいます。
チッチ 舞台も楽しみです。が、同時に怖いですね。このセリフの量みんなどうやって覚えているの? って(笑)。 今は、監督とプロデューサーと主演の大下ヒロトとディスカッションしながら、役を自分の中に投影していく時間にしています。
もともとヒロトとは友人で、尊敬していた人だったので、今回共演できて救われました。初めましての方と、初舞台で主演とヒロインだとしたら、もっと緊張しただろうなって思ったんですけど、尊敬して信頼できる友達だからこそ、私もしっかりぶつかっていきたいなと思えたんです。
──そうだったんですね。新たなステージ、楽しみにしています。
チッチ はい、緊張はしますが……。でも、峯田さんも音楽を続けながら、お芝居もやられているじゃないですか。対談の時に「お芝居も楽しいよ」って言ってて。そうやって楽しんでいる姿を見ると、頑張れそうってすごく思って、力をもらいましたね。やり遂げたいですね。
これからやりたいこと。「声のお仕事が、何か形になればいいなって」
──多方面で活躍されているチッチさんですが、最近はバラエティ番組にもかなり出演されていますね。
チッチ テレビ出演はいつも楽しんでやらせてもらっています。多分、バラエティだけで生きていくって決めてたら、性格的に悩むことも多いだろうけど、たくさんの表現の中の1つなので。今でさえ、ちょっと反省しながら帰る時もあるくらいなので……(笑)。
──それはちょっと意外です。出演したい番組や会いたい方はいますか?
チッチ BiSHをやっている中で、いろんな方にお会いできたのですが、今お会いしたいのは、とんねるずの石橋貴明さんですね。母の影響もあって、ずっととんねるずさんのファンなのですが、ノリ(木梨憲武)さんには今ではかわいがっていただいてて、すごく幸せで。ですが、タカさんにはお会いしたことがないんですよ。
──石橋さんでしたら、もしかしたらYouTubeのゲストで呼ばれる可能性もあるかもしれませんよ。
チッチ それは本当に夢ですね。ぜひいつかお会いしたいです。あとは、番組で言ったら『クレイジージャーニー』(TBS系)の大ファンなので、出演してみたいですね。やっぱりスリルを求めて生きている方に魅かれる部分があるんです。生き方自体に興味があるというか。好きな回がたくさんあるので、コメントをつけながら紹介したいくらいです。
──特別企画で、番組が好きなタレントさんが「クレイジー旅」ランキングを紹介する回がありましたね。
チッチ うわ~、それは出演したいですね。これからもアピールし続けたいです。
──さて、最後になりますが、今後新たに挑戦したいことは何かありますか?
チッチ 声のお仕事をしたいとは昔からずっと思っていたので、何か形になればいいなと思っています。昔からアニメやゲームが好きで、声のお仕事は1つの夢ですね。
──とても向いてそうですし、イメージが沸きます。
チッチ 高校生の時は、果てしなくどうしようもない人間だったのでずっとアニメを見てました(笑)。音楽とアニメで生きていて、屋上でサボって音楽聴くかアニメ見るかって感じの学校生活でしたから。
ちなみにですが、今回のアルバムの最後の曲「:Q」は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の映画を見て、帰り道にどうしても曲が作りたくなって作った曲なんですよ。
──そうだったんですか! それは改めて映画を観て、聴いてみたいですね。
チッチ 何かしなきゃ、という衝動に駆られて、自分が作品の中にいるような気持ちで書きましたね。そういった部分でアニメ作品には大きな影響を受けていますよ。
──声優をやりつつ、主題歌を歌うアーティストさんはいらっしゃいますから、そういったお仕事もあり得そうですね。
チッチ わ~。めちゃくちゃやりたいです。すごく理想です。今後、実現できるように、頑張っていきたいと思います。
──応援しています! 本日はありがとうございました。
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