2011年、中学生時代にダンス&ボーカルグループのメンバーとしてキャリアをスタートさせて、現在は俳優として舞台を中心に活動する野元 空。自身にとって映画初主演となる公開中の映画「ファンファーレ」で演じるのは元アイドルグループのメンバーだった駆け出しのスタイリスト。自身の境遇に似ていて共感することが多かったという本作の撮影エピソードや、俳優の道を選ぶまでの道のりを語ってもらった。
【野元空さん撮り下ろし写真】
アイドルのセカンドキャリアを描いたストーリーに共感した
──これまで映画の出演経験はありましたか?
野元 「ファンファーレ」が2作目です。同じく今年公開の映画「30S」が1作目で、短いスパンで撮影がありました。
──映画出演2作目にして初主演はすごいですね。
野元 オーディションで選んでいただいたんですが、(水上)京香ちゃんとW主演という形で出させていただいて、私にとって大切な作品になりました。
──オーディション前に大体のストーリーは知らされていたんですか?
野元 事前に台本をいただいていました。それを読んだ時点で絶対に出たいと思って、「このチャンスに懸けよう!」という思いでオーディションに臨みました。
──物語は、野元さん演じるスタイリストの玲、水上さん演じる振付師の万理花、そして喜多乃愛さん演じる、かつて二人が所属していたアイドルグループ「ファンファーレ」の現役メンバー・由奈を中心に進んでいきます。
野元 長いこと一緒のグループで活動してきた二人がアイドルを辞めてからのお話なので、自分の人生と被るところが多くて。だから余計にやりたいと思ったんです。
──オーディションの時点で、それぞれの役は決まっていたんですか?
野元 この3人の誰かでということでオーディションを受けました。まず私の経歴から言って、由奈ではないだろうから、万理花か玲だろうなと。この2人だと、私の性格に近いのは玲なんですよね。私も小さい頃からダンスをやり続けているので、そこは万理花に共通するところもありましたけど。
──オーディションの手ごたえはいかがでしたか。
野元 気合を入れて臨んだので、力み過ぎたなという部分もあって、自分の中で思い描いていたほどうまくできなかった気がして100%落ちたと思いました。オーディションが終わったその足で近くの喫茶店に入って、めちゃくちゃ落ち込みながらコーヒーを飲みました(笑)。だから玲に決まったと聞いて、めっちゃうれしかったです。
──性格は玲に近いと仰っていましたが、落ち着いたテンション感も共通しているんですか。
野元 ほとんど一緒です。3人が集まって、「初めてファンファーレのメンバーが揃ったときのシーンを再現してみよう」というシーンがありますが、そのときに自己紹介する感じとかも一緒でした。だから私としては本当に演じやすかったですし、玲で良かったです。
──役作りについて、監督から具体的な指示はあったのでしょうか。
野元 女の子の人生を覗き見しているような作品にしたいというお話があって、「あまり演じようとせず、飾らず、ありのままで」みたいなことを仰っていました。そもそも玲は私に近い性格というのもあって、フラットに演じようと思いました。
──玲と現役ファンファーレメンバーとの、ちょっとぎこちないやりとりがリアルでした。
野元 玲は後輩との付き合い方が分からなくて、慕ってくれるのはうれしいけど、すごく面倒見が良いかというとそうじゃない。私自身、そういうところがあるのでリアルなのかもしれません。
──玲は上司や取引先の人とコミュニケーションがうまく取れずに悩みますが、そこも共感しましたか?
野元 私自身は誰かと折り合いが悪いみたいな経験はないんですけど、人付き合いが得意なわけではないので共感しました。世渡り上手な人って、すごくうらやましいです。玲と「そんなふうにうまく生きられたらいいのにね」って話しながらお酒を飲みたいです(笑)。
──水上さんと喜多さんも、演じた役に近いところはあるんですか?
野元 近いですね。それを踏まえて、監督もキャスティングしたと思います。京香ちゃんも乃愛ちゃんも今回が初めましてだったんですが、本当に10年来の仲だったんじゃないかというぐらい、一緒にいて居心地が良くて。準備期間1週間、撮影期間1週間、トータル2週間ぐらいしか一緒にいなかったのに、すごく仲良くなりました。映画の取材で半年ぶりに会ったときも、「久しぶり」って挨拶もなく、いきなり「聞いてよ。昨日こんなことがあってさ」って、ずっと一緒にいたような空気感でいられるんです。
──まさに映画の関係性と一緒ですね。
野元 2人ともサバサバしていて、肩の力を抜いて接することができるので、縁と言いますか、会うべくして会った気がします。まだ2人のことを知らなかったときは、どうやって長いこと一緒にいるという空気感を出そうかとか、どうやって関係性を築いていこうかとか考えたんですけど、余計な心配でした。そういう雰囲気って出そうと思って出せるものではないですから。
──顔合わせして、すぐに打ち解けられたんですか?
野元 最初に監督が、3人だけで話す時間を作ってくださったんです。お菓子と飲み物が置かれた部屋に入れられて、「1時間後にまた来るから話しておいて」と(笑)。そのおかげで、すぐに仲良くなって、自主的に3人でご飯に行きましたし、撮影が始まる前も3人で過ごして、普通に友達になったというか。映画での関係性を作るために仲良くなろうとしたわけじゃなくて、普通に仲良くなっちゃったみたいな。
一人で歌って踊る勇気はなかったし、過去にいたグループ以外での活動も考えられなかった
──「ファンファーレ」は元アイドルのセカンドキャリアが描かれています。野元さん自身も同じ芸能とはいえ、歌とダンスをメインにした活動から、俳優へとシフトチェンジしました。
野元 私の場合、前にいたグループの活動が終わることもあって、致し方ない状況ではあったんですが、前の環境から抜け出して、役者をやろうと決めたのは間違いなく自分の選択でした。私自身、なかなか思い描いていたような活動ができない時期もあったからこそ、玲の気持ちが分かるし、それを考えると苦しくなりました。
──前の事務所を退所されて、しばらくはフリーランスで活動されていたんですよね。
野元 一年半ほどフリーランスでやっていたんですが、いかにそれまでの環境が恵まれていたのかを痛感しました。自由な活動はできたんですけど、自分で責任を負わなきゃいけないじゃないですか。自分で選んだ道なので、そこを楽しむことはできたんですが、細かい話ですけど、請求書やスケジュール管理、ギャラ交渉も自分でしなきゃいけない。それまでマネージャーさんたちがやってくれていた事務的なことを、自分でやらなきゃいけない状況になったときに、事務所のありがたみを感じました。守ってくれる人がいないから、自分の身は自分で守るしかないですしね。
──ギャラの未払いや契約内容と違うみたいなトラブルに見舞われる可能性もありますからね。
野元 その点で言うと、私は本当に人の縁に恵まれていて。これまでの人生を振り返ったときに、周りの人にたくさん助けていただいているんですよね。だから何かあったとき、たくさん周りに相談したので、精神的に助けられた部分も大きかったですし、一人で不安になることもなくて。なんだかんだ楽しくやれていました。
──そもそもお芝居に興味を持ったきっかけは?
野元 メンバーや先輩が出ている舞台を観劇しているうちに、すごく面白いし、いつか自分もお芝居をしてみたいなと思ったんです。そしたら19歳のときに初舞台に出ることになって、やってみたら演じるのも楽しかったんです。
──それまで演技レッスンは受けていたんですか?
野元 受けてはいたんですけど、遊び半分みたいなところもあって。本格的な稽古が初舞台でした。それでお芝居の楽しさを知ったんですが、やっぱり事務所の演技レッスンは自分に合わないなと感じて。もっとお芝居を勉強したいなと思って、20歳のときに友達に紹介してもらって、自分でお金を払って外部の演技レッスンに通い始めました。
──すごい情熱ですね。
野元 そこで知り合った演技トレーナーの方には、今もお世話になっていて。たまたま今所属している事務所の演技レッスンも担当していらっしゃるんですが、ずっとその方に教わり続けていて、もう5、6年経ちます。
──相性的なものが大きいのでしょうか。
野元 そうですね。何でも話せて、親戚のおじさんみたいなところもあるんですけど(笑)。お芝居のことで分からないことがあったときに質問すると、ちゃんと答えが返ってくるんです。当たり前のことに聞こえるかもしれないですけど、意外と難しいことだし、そこも相性かもしれません。お芝居の課題は尽きないので、今後も末永くお世話になると思います。本当は卒業したいんですけどね(笑)。
──どのタイミングで、お芝居をメインに活動しようと考えたんですか。
野元 最初はそこまで深く考えていませんでした。ただただお芝居が好きだったので、演技レッスンが楽しい、もっと上手になりたい、いずれは映像作品もやってみたい、という感じでした。だからこそグループの活動が終わるときに、役者になるという選択肢ができたのかもしれません。
──グループでの経験を活かした選択肢はなかったんですか?
野元 もちろん歌って踊ることは大好きなので、そのまま続ける選択肢もあったんですけど、一人で歌って踊る勇気はなかったですし、そのグループ以外での活動も考えられませんでした。それで一人になったときに、何をしたいのかを考えて、やっぱりお芝居だなと。役者をやるんだったら、事務所を辞めようと思ってフリーランスになったんです。
──ダンス経験がお芝居に活きている部分はありますか。
野元 直接的に関わっているわけではないんですが、間の取り方なんかは感覚的に活かされているのかなと思います。特に2.5次元の舞台では、リズムの取り方などが役立っています。逆に変な癖がついているところもあるみたいで、ある現場で振り向くシーンがあったときに、「振り向き方がダンサーっぽいのでやめて」と言われたことがあります(笑)。
今は自分のやりたいことを、自由にさせてくれる環境
──2022年からASOBISYSTEMに所属していますが、前にいた事務所との違いはありますか?
野元 以前はグループだったというのもありますが、前の事務所は待っていたらお仕事が来て、来たお仕事をやるという感じでした。今はお芝居のお仕事に関してはオーディションがあったら、自分で頑張って取りにいかないといけないし、それ以外でも自主性が必要です。SNSに強い事務所なので、どれだけ自分の個性で目立っていくかみたいなところが大事なんですよね。
──フリーランスを経験したことで、事務所という後ろ盾があることで安心感も大きいのではないでしょうか。
野元 そうですね。事務的なこともやってくれますし、事務所という看板に守ってもらえるのはありがたいです。演技レッスンにも通わせてもらっていますし、私はファッションが大好きなので、そういう系統のお仕事もさせてもらっていて。自分のやりたいことを、自由にさせてくれるところは大きいですね。
──「ファンファーレ」に出演して、映画ならではのやりがいって感じましたか。
野元 監督が役のことを大事にしてくれていて、好きな食べ物は何とか、どういう彼氏がいそうとか、実際のストーリーには関係ないところまで一人ひとりの設定を細かく作るんです。しかもめっちゃリアルで、「玲に彼氏がいたら同棲をしてどうこう」と2人で話し合いながら紙に書いていくという時間があって、それによって役を膨らませることができました。見た目も、玲を演じるためにインナーカラーを入れたんですけど、個人的にスタイリストさんってインナーカラーが入っているイメージがあるんですよ。玲はスタイリストさんについているアシスタントさんなので、とにかく忙しい。だから髪の毛の色も綺麗に染まっているんじゃなくて、インナーカラーを新たに入れる暇もなく抜けっぱなしになって、ちょっと汚いみたいな。
──細かいですね~。
野元 そういう役を演じると美容師さんにお伝えして、「根元から入れるんじゃなくて、なんならプリンぐらいからスタートしてください」とリクエストしました。そういう細かいところまで監督と話し合って作ったのが玲というキャラクターですし、キャストさんとスタッフさん全員で一緒に作ったと実感できる現場でした。すごくいい経験でしたし、より映画が好きになれました。
──最後に改めて「ファンファーレ」の見どころをお聞かせください。
野元 アイドルのお話ですけど、誰にでも自分と同じだなと思えるところがある作品だなという思いがあって。理想と現実のギャップがある中、それでも自分の選んだ道で生きていかないといけないから、必死にもがいて、ちょっと報われたり、全く報われなかったり、いっぱいいっぱいになって泣いちゃったりして。万理花も玲も大きな壁にぶつかるわけじゃなくて、ちっちゃなしんどさが積み重なっていくんですけど、そういう状況に置かれている人って多いと思うんです。だから、こういう苦しさってあるよなって共感してもらえると思いますし、そこに救いもあって、また明日も生きていこうという希望が持てる映画です。
ファンファーレ
全国公開中!
【映画「ファンファーレ」よりシーン写真】
(STAFF&CAST)
監督・脚本・編集:吉野竜平
出演:水上京香、野元空
喜多乃愛 / 橋口果林、松崎未夢、白井美海、外原寧々
松浦慎一郎、土居志央梨、中島歩
(STORY)
同じアイドルグループ「ファンファーレ」にいた万理花(水上京香)と玲(野元空)。2人はグループ卒業後、振付師とスタイリストの道へ進んでいた。そんなある日、かつての仲間だった現ファンファーレメンバーの由奈(喜多乃愛)から、卒業ライブのために振付と衣装を担当して欲しいと声がかかる。自分の夢や現実と向き合っている日々のなかで突然やって来たチャンス。しかし追いつかない技術や、決して良好ではなかった過去の関係により衝突が発生する……。それでも自分と向き合って前に進もうとする彼女たちの姿を、準備期間からライブ当日までを追いかけた物語。
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(C)「ファンファーレ」製作委員会
撮影/武田敏将 取材・文/猪口貴裕