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2024/5/11 5:30

『光る君へ』玉置玲央が“汚れ役”藤原道兼のラストシーン秘話を明かす「(柄本)佑君が道長で本当に良かった」

現在放送中の大河ドラマ『光る君へ』の主人公は、平安時代に千年の時を超えるベストセラー「源氏物語」を書き上げた女性・紫式部(まひろ/吉高由里子)。変わりゆく世で、藤原道長(柄本佑)への変わらぬ愛を胸に、懸命に生きた女性の物語を描く。

『光る君へ』玉置玲央 ©NHK

 

今回は、そんな本作で道長の次兄・藤原道兼を好演した玉置玲央さんにインタビューを敢行。そのヒールぶりが大きな話題を呼んだ道兼への思いや印象的なシーン、柄本さんとの撮影秘話などを聞きました。

 

◆道兼は第1回からまひろの母・ちやは(国仲涼子)を刺し殺すという衝撃のシーンが描かれましたが、当初ヒール役である道兼を演じるプレッシャーはありましたか?

第1回については、台本を頂いて読んだ時に過去の大河ドラマを見てもあまりない流れで、言い方は悪いですが、正直面白いなと思ったんです。なので、プレッシャーを感じるということはあまりなく、芝居もその先の物語や今後の道兼の人物像にどうつなげていこうかということを意識しながらやっていたような気がします。

 

ただ、やはり衝撃的な終わり方ではあるので、“こういう話が続くなら今回の大河ドラマは見なくていいや”と思われてしまったら嫌だなと思って。そうなってしまうとしたらそれは僕の所業…だなと、そういう意味でのプレッシャーはありました。僕も道兼がやったことは肯定できないのですが、物語の流れとして、そして今後のまひろと道長の運命としては大事な出来事で。なにより共演者の皆さん、スタッフの皆さんが肯定してくださったのがとても心強く、それを機にヒール役を全うしようと思うことができました。

 

◆道兼を演じると決まった時の心境は?

僕、これまでクズや殺人犯を数多くやってきたので、嫌われ者はお手のものなんです(笑)。道兼も作者の大石(静)先生から「玉置さんにピッタリな役があるの」と頂いた役で、よしやるぞと思っていたのですが、いざフタを開けてみたら“こいつはなかなかじゃねえか…”と。もう“クズ役やるよ”と“これをやるのか”という気持ちのジェットコースターでした(笑)。

 

でも、この作品の撮影を通して、もっとたくさんクズ役をやれるなと思えて。数をこなしたいというわけではなく、クズ役にもいろんなやり方があるという意味で、まだまだやれるなと思えました。でも、いい人の役もやりたいです!(笑)。

 

◆ヒール役として躍動しつつ、第18回では“汚れ役”を全うし死を迎えます。父・兼家(段田安則)が死去してからの道兼の変化についてはどう感じられていますか?

よくぞ聞いてくださいました(笑)。兼家が亡くなって以降、第15~17回にかけて道長との関係性の変化が描かれてきましたが、一番信奉していた父という自分の柱のような存在を失い、ポキッと折れて崩れてしまった道兼を道長が救ってくれた、それが大きなきっかけになったと思っています。人間そんな簡単に性根は変わりませんが、彼の中ではその出来事を機に変化が起き、“汚れ役”というのが言葉通りの意味ではなく、藤原家を守る、藤原家のために何かを成していく、という方向にシフトしていって。

 

これは僕の想像でしかないですが、自分が亡くなるとは思っていなかった道兼は、この先の道長の未来のために、そして人々のために“汚れ役”を担っていこうと思っていたのではないかなと。道長のおかげで、最後に彼は少しだけ真人間になることができたんです。

 

◆最期はそんな道長が道兼に寄り添う、涙のラストシーンとなりました。

実は、台本上では道兼が見舞いに来た道長に対し、家を守るためにも入ってくるなと突っぱね、御簾越しにやりとりをして去っていく…とあったんです。でも、佑君が「道長なら入っていくのでは。御簾の中に入っていって、道兼に寄り添うと思います」ということを監督に提案してくれて。その後、リハーサルの段階では流れが確定しなかったのですが、数日後にあった撮影の時にも佑君がその意見を主張してくれ、監督も「やってみましょう」とああいう最期になったといういきさつがあるんです。それが道兼としてはうれしかったですし、すごくありがたくて。

 

もちろん台本のままやったほうがいい可能性もあったのですが、道兼が道長に救われたと思っていたのが一方的な思いじゃないというのが分かるし、僕自身も分かった瞬間だったんですよ。兄たちとは違い、自分という存在をぶらさずに貫いてきた道長が、これだけぶれてきた兄に寄り添ってくれたことに救われましたね。本当に佑君が道長で良かったな、共演できて良かったなと思いました。

 

そういういろんな思いが刻まれたラストシーンで、カメラが止まった後も咳が止まらなくなってしまったのですが、佑君がずっと僕の背中をさすりながら「つらいよね、つらいよね」と言ってくれたのを今でも覚えていて。道兼としての役割及び死というものを全うできたな、と思えて幸せでした。

 

◆ほかに玉置さんが思う、道兼としてやりがいのあったシーンは?

第14回で兼家に「とっとと死ね!」と言い放ったシーンでしょうか。道兼は割と自我を押し殺してきたキャラクターだと思うのですが、信奉していた人物に対して、しかも生みの親に対してそういう言葉を吐けたというのは、すごく意味のあることだったのではないかなと。 物語上でもインパクトのあるシーンとして演出されていましたが、彼の人生においても自分に嘘をつかず表現できるようになった、ものすごく重要な瞬間であり、ターニングポイントだったんじゃないかなと思います。

 

また、家族が一堂に会するようなシーンも演じがいがありましたね。それぞれがよーいどんで自分を出してきて、“おお、お前はそう来るか”とこちらも返す、みんながそろうシーンはもう演技合戦なんです(笑)。リハーサルで言葉を特別すり合わせることもなく、本番でのやりとりのみだったのですが、それがあの家族を表していた気もするし、俳優としてもある種あうんの呼吸で1シーンを作るというのがすごく楽しかったです。

 

◆舞台である平安時代には、どのような印象を感じましたか?

現代に通ずる部分はたくさんあるんだなと。家族が抱える問題とか自身の欲求とか、そういう根幹の部分は変わらないんだなと思いました。平安時代だから難しそうと見るのを敬遠している方もいらっしゃるかもしれないのですが、意外と共感できる部分があるよと。そこをたぐり寄せて自分に置き換えてみたり、日常生活を振り返ってみると「これってこういうことかも」と思える部分がたくさんあって、僕はそういう意味でもこの作品を楽しめましたし、視聴者の方にとってもそうであったらうれしいです。

 

また、僕は最近まで「リア王」という舞台に出演していて、これは約400年前にシェイクスピアが描いた物語なのですが、もう本当に『光る君へ』のような話なんですよ。年老いて親が死んでいくに当たり、子供たちはどう振る舞えばいいのだろうか…という物語で、極論同じことをやっているなと思って。きっとそこは国や時代が違っても変わらない部分で、この作品もいろいろな方に響く要素があるんじゃないかなと思っています。

 

PROFILE

玉置玲央

●たまおき・れお…1985年3月22日生まれ。東京都出身。劇団「柿喰う客」の中心メンバーとして活躍。

 

番組情報

大河ドラマ『光る君へ』

NHK総合ほか

毎週日曜 午後8時~8時45分ほか

 

●text/片岡聡恵