お茶の名産地として知られる岡山県・美作(みまさか)地域を舞台に、この地を訪れた女性ピアニストと、茶葉屋を営む兄弟をめぐる物語を描く『風の奏の君へ』が、6月7日(金)より公開。本作で兄・淳也を演じた山村隆太さんが、自身の役柄からflumpoolとしての音楽活動とは異なる、俳優としての表現の仕方、俳優業の難しさなどまで伺いました。
【山村隆太さん撮り下ろし写真】
お芝居はやればやるほど、奥深いもの
──今回、初となる映画出演のオファーがきたときの感想を教えてください。
山村 台本を読ませていただくと、かなりの大役ですし、感情が高ぶって涙するシーンもあったので、「自分にできるかな?」という迷いはありました。でも、監督やスタッフさんとの顔合わせで、「淳也という役を演じるというよりも、ご自身が発声障害になって活動休止されたときの挫折感や、そのとき音楽を諦めそうになった気持ちを表現してほしい」というリクエストがあったんです。それで、当時のモヤモヤしていた自分の経験を生かせるなら、プロの役者さんには出せない、自分の持ち味を出せるかもしれないと思い、「ぜひやらせてほしい」という気持ちに変わりました。
──ドラマ『突然ですが、明日結婚します』で俳優デビューされている山村さんですが、今回の淳也を演じるお芝居に関しては、どのように捉えていましたか?
山村 お芝居はやればやるほど、奥深いもの。しかも、周りの皆さんがすごすぎて、その世界に自分が足を踏み入れることは失礼だと思っていました。そんななかで、今回は淳也と似ていると思うところ、共通点が多かったところに助けられました。家族や愛する人に対して、素直になれない。それはとてもクールに見えるし、完璧を装っているように見えるけど、実は自分を守るための強さなんです。それについて共感し、理解できたことで、役作りをする必要はないと思ったほどでした。僕、幼稚園の頃から、他人に感情を見せなくて、母親にものすごく心配されていたんです。
──そのほか、岡山にある家業の茶葉屋さんを継いだという淳也の役作りは?
山村 まずは東京にいるとき、狭山のお茶農家の方を訪問させていただき、丸一日かけて作る工程を教えていただきました。茶葉がとても霜に弱いことなどを知りましたね。方言に関しては、僕はそもそも関西弁なので、親しみやすさという面では岡山弁に通じるものを感じていました。だから、そこに細かいイントネーションを変える程度だったと思います。
時が止まっているように感じる美作での撮影
──お茶の名産地として知られる、岡山県美作市でのロケの思い出は?
山村 東京で暮らしていると、いろんなものに流されすぎて、時間が経っていることすら分からなくなると思うんです。でも、美作は時が止まっているようでちゃんと雨動いていて、穏やかに吹いている風とか、温泉が流れる音とか、そのコントラストの大きさを感じるんです。クランクインの二日前に現場入りしたときは、どこか違和感があったのですが、それがだんだん身体に染み込んでいって、心地良いものになりました。僕、もともとピオーネを取り寄せるぐらいブドウが好きなんですが、4月下旬からの撮影時期は時期じゃなかったみたいなんです(笑)。
──元カノ・里香を演じた松下奈緒さん、彼女に恋心を抱く弟・渓哉を演じた杉野遥亮さんとの共演はいかがでしたか?
山村 現場ではとにかく、お二人に引っ張ってもらいました。松下さんは、やはりピアニストというイメージが強かったのですが、実際会ってみると、ものすごく気さくで、常に何か誰かを笑顔にしようとされているんです。同じ関西人ということで親近感も持ったのですが、そういう親近感こそが淳也が里香に惹かれていった理由だと捉えました。杉野くんは役に対してものすごくストイックで、その熱量を見習いたいと思える存在でしたね。仲違いしている兄弟役だったからなのか、楽屋でもほとんど話してないんです。あれは役作りか、それとも僕のことが嫌いだったのか……。今度、本人に確認しようと思っています(笑)。
──終盤の淳也の感情があふれるシーンについては?
山村 自分が泣けるほど、感情が高まらないとできないことですし、本当に淳也の気持ちの理解とともに、過去と向き合い、それを許す作業をすることなので、かなり大変でした。スタッフの皆さんに雰囲気を作っていただいて、渓哉が気持ちを押し殺しながらぶつかってくれることに助けられたこともあり、あまりテイクを重ねずに、監督からのOKを出してもらえました。
「息づく」と「生きることに気付く」の意を持つ主題歌
──主題歌として、エンドロールに流れるflumpool「いきづく feat. Nao Matsushita」はどのように作られたのでしょうか?
山村 先に出演が決まり、その後で「主題歌もお願いします」ということだったのですが、美作にいるときから、少しずつ歌詞を考えていました。自然の中で、わずかな生命と向き合う里香という主人公が誰かを思い、誰かのために生きようとするなかで、生命の大切さであったり、人を愛する人ことの素晴らしさであったり、いろいろなものに気づいていく。だから、「息づく」と「生きることに気付く」の2つの意味を持つ「いきづく」というタイトルにしました。
──最後に、GetNaviwebにちなんでモノについてお話ください。現場にいつも持っていったり、今ハマっているモノなどはありますか?
山村 気付かない姿勢の悪さや身体の力みに敏感になっているので、マッサージガンを常に持ち歩いています。長時間座っているときによく使っています。今3個持っていて、ツアー用のトランクに1個、自宅用に1個とか、欲しいときに常にあるように、いろんな場所に置いています。あと、この作品きっかけで、お茶にもハマりました。色や味の違いも分かりますし、利き茶もかなりできると思います。うま味のある狭山茶にも衝撃を受けましたが、やはり美作茶は甘味があっておいしいですね。
風の奏の君へ
6月7日(金)より公開
(STAFF&CAST)
監督・脚本:大谷健太郎
原案:あさのあつこ
出演:松下奈緒、杉野遥亮、山村隆太(flumpool)、西山潤、泉川実穂、たける(東京ホテイソン)、池上季実子
(STORY)
美作で無気力な日々を過ごす浪人生の渓哉(杉野遥亮)と、家業の茶葉屋「まなか屋」を継いで町を盛り上げようと尽力する兄・淳也(山村隆太)。ある日、コンサートツアーで町にやって来たピアニストの里香(松下奈緒)が演奏中に倒れ、療養を兼ねてしばらく滞在することに。かつて大学時代に東京で里香と交際していた淳也は、彼女に対して冷たい態度をとるが、渓哉は里香にほのかな恋心を募らせていく。実は里香には、どうしてもこの地へ来なければならない理由があった。
(C)2024「風の奏の君へ」製作委員会
公式サイト:https://kazenokanade-movie.jp/
撮影/中村功 取材・文/くれい響 ヘアメイク/菊地倫徳 スタイリスト/本庄克之(BE NATURAL)