眼鏡専門の小売りチェーン、メガネースーパーが培ってきたノウハウを活かしたメガネ型ウェアラブル「b.g.(beyond glasses)=ビージー」を開発。今春、BtoB向けを中心に発売を予定してます。従来のメガネ型ウェアラブル端末とひと味違う高精細な画面表示と快適な装着感を実現しているとうわさの新製品を、発売前に一足早く体験してきました。
60g以下の軽い付け心地
メガネ型のウェアラブル端末といえば、2013年にグーグルがアメリカで発売した「Google Glass」のようなメガネのリムに装着する片眼視のシースルータイプから、エプソン“Moverio”のような両眼視のシースルータイプなど、これまでに様々なタイプの製品が発売されてきました。広い意味ではソニーのゲーム機「PlayStation VR」も、人間の視覚体験を拡張するウェアラブル端末の仲間といえるかもしれません。
「b.g.」の開発はメガネースーパーを経営するビジョナリーホールディングスのグループ会社であるエンハンラボが進めるプロジェクト。メガネスーパーが40年間に渡るビジネスのなかで培ってきたアイケアのノウハウを投入して、ビジネスの現場で即戦力として役立つメガネ型ウェアラブル端末をつくろうという発想から開発がスタートしました。
「b.g.」は「ノンシースルー(非透過型)」のディスプレイを搭載。1/2インチ・1280×960画素(QVGA)カラー有機ELの映像をプリズムミラーに反射させて結像させる「両眼視」のディスプレイとしています。メガネに取り付ける必要もなく、ベータチタン製のフレームをメガネの上からかけられるオーバーグラススタイルを採用。日本で最もメガネ製品の製作が盛んに行われているという福井県・鯖江市のプロダクトデザイナーがデザインを担当しています。
本体にはバッテリーユニットを設けず、給電やコンテンツを表示するプレーヤーの機能は外部機器と有線ケーブルで接続でまかなうため、本体の質量は60g以下。装着時の負担が軽く抑えられていることも特徴です。
PCやモバイルなど様々な機器につながる
今回筆者はエンハンラボで「b.g.」の開発を指揮している、代表取締役社長の座安剛史氏に製品のコンセプトをインタビューしてきました。まずは「b.g.」をノンシースルー・両眼視という特徴的なデザインにすることを決めた理由を訊ねています。
「b.g.は屋外・屋内を問わず様々なビジネスの現場で使われることを想定したデバイスなので、ディスプレイに表示される映像が“見やすい”ことが最も大事と考えました。ノンシースルーであれば周囲の明るさやディスプレイの後ろにあるものに影響を受けることなくクリアな映像が見られます。長時間装着した時の眼にかかる負担を考えれば両眼視の方が有利です。」(座安氏)
本機でコンテンツを視聴する時は本体固定のHDMIケーブルをスマホやプレーヤー機器などにつなぎます。また電源についても同じ固定式のケーブルからHDMI端子と二股にわかれたUSB端子に電源アダプターや2.1A以上のモバイルバッテリーを接続しながら給電します。本体にメディアプレーヤーやOS、バッテリーなどを一体化したメガネ型ウェアラブルにしなかった理由を座安氏は次のように説明しています。
「本機専用のプラットフォームのようなものを作り込んでしまうと、パートナーに余計な開発の負担をかけてしまうことになります。b.g.はお客様が既存のPCやモバイル端末のプラットフォームをそのまま活かて、様々な機器やサービスにつないですぐに現場に投入できる製品にしたいと考えました。」(座安氏)
メガネ型のデバイスはリストバンドやヘッドバンド型のウェアラブル端末に比べて装着時のバランスが取りにくく、電源ユニットを一体化してしまうと重さの負担を感じるようになったり、発熱による不快感も避けがたくなるものです。バッテリーを外部に切り離すという選択についてはメリットの方が大きいといえるでしょう。
用途に応じて装着ポジションを変えられる
では、実際に「b.g.」を装着すると映像がどんな風に見えるのか。今回特別に用意していただいた試聴機で映像の見え方や装着感を体験することができました。
筆者は普段からコンタクトよりメガネ派なので、メガネの上から装着しなければならないウェアラブル端末や3Dメガネはどちらかといえば苦手でした。「b.g.」は極細のフレームとメガネと同じ“鼻あて”によって、やさしく安定したホールド感が得られます。ディスプレイ部も想像以上に軽いので、前方に重みが集中して感じられることがありません。ケーブルはフレームに沿わせるようにして耳の後ろ側に回してスマホに接続しています。
ディスプレイ部は人それぞれに違う瞳の位置に合わせられるよう、左右が個別にスライドします。またフレームとディスプレイを接続するハンガーは、手前と奥の2段階で縦方向にもディスプレイの固定位置が変えられるように設計されています。
ディスプレイの位置を最適なポジションに固定すると、ちょうど15インチ相当のカラー表示の映像が約1mほど手前の位置に浮かんでいるような視聴感になります。解像度や明るさは申しぶんなく、両眼で映像を見るので確かに負担が少ないのが魅力です。
映像の精度が高いこともさることながら、ディスプレイが現実の視界をがっつりと塞いでしまうことがないため、「b.g」を装着しながらゆっくりと歩いたり、手もとを見ながらノートにメモを取ることも自然にできました。
ディスプレイの位置を2段階に変えてみると、それぞれ視野の手前とやや上方向にディスプレイが表示されるような格好になります。
ディスプレイの表示に集中したい時と、手もとを動かす方がメインで、たまにディスプレイを確認するような作業に使う時の、どちらにも柔軟な対応ができると思います。
ディスプレイを使わない時は、フレームを装着したままディスプレイ部を完全に上へ跳ね上げれば視界を広く確保することも可能です。
医療や製造の現場などで活用
「b.g」はBtoB向けを想定した端末ですが、スマホにスピーカーやイヤホンを接続すれば動画も楽しめるビュワーになりそうです。ディスプレイのサイズが小さく、実視界も広く目に飛び込んでくるので「映画の世界に没入する」タイプの使い方にはあまり向いていないかもしれませんが、WebニュースやYouTubeの映像を簡易に楽しむ用途なら問題ないように感じました。
エンハンラボでは「b.g.」のプロトタイプを、年初に開催されたウェアラブルEXPOなどいくつかの場所に出展してきました。座安氏は「ご覧いただいた方から『こんな用途に使えそうだ、使ってみたい』といういい反応をいただいている」と語っています。
ウェアラブルEXPOでは医療や製造の現場、ドローンとの連携や観光ガイドのツールとしてなど、「b.g.」を使った具体的な活用例を示したことも来場者のイマジネーションを刺激したようです。ただいま春の発売に向けて、開発は順調に最終コーナーに差し掛かっているとのこと。発売後には色んなイベントやメガネスーパーの店頭などでも「b.g.」を体験できる機会があれば嬉しいですね。