かつて、MEN’S CLUB編集長を務めた名物編集者・戸賀敬城。現在は、「ナノ・ユニバース メンズ・ディレクター」「ヒルトン・アンバサダー」など、名だたるブランドをコーディネートする役割を務めながら、多岐に渡ってファッションアイテムの価値を啓蒙しています。また、そんな毎日をつづったブログ「トガブロ。」が、アパレル業界内外を問わず大きな反響を呼んでいます。
そんな戸賀さんのラグジュアリーな価値観を、一冊にまとめたムック本が先日発売されました。
トガ本。The Bag
多くのファッションメディアを牽引してきた戸賀敬城がプロデュースする、ラグジュアリーブランド読本。本作がテーマとするアイテムは、「バッグ」。定番品から新作まで、大人の男を格上げするバッグを独自の目線で紹介しています。また私物コレクションも披露した、豪華な仕上がり。
本記事では特別に、誌面で紹介している企画をチラ見せしています。
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今回は、戸賀さんのバッグに関する最もプライベートなお話になります。戸賀さんとバッグの物語、お楽しみください。
僕をとても可愛がっていたおばあちゃんは…
もう亡くなって20年くらい経つが、ばあちゃんは日本航空の客室乗務員だった。まだ「スチュワーデス」と呼ばれていたころ。その後、新人スチュワーデスの教育係を経て定年まで勤め上げたそうで、当時の女性としてはかなりのキャリアだったようだ。
そんなわけで、ばあちゃんは小金持ちだった。初孫だった僕は、とても可愛がられていたことを覚えている。どれくらい可愛がられていたかというと、就職してすぐ、新入編集者の僕に携帯電話を買ってくれそうになったほど。
しかも「仕事に使いなさい」ということではなく、ばあちゃんが僕の声を聞きたいからという理由で(笑)。通話料も1分100円くらいする時代。そんな高価なもの、当時の編集部の先輩は誰ひとり持っていなかった。
ばあちゃんの家の物置きから出てきた、「スティーマー・バッグ」
数年前、ばあちゃんの家の物置きから、ルイ・ヴィトンのバッグが出てきた。叔母いわく、40年くらい前に海外で買ってきたものではないか、と。底革は硬くなってるし、ハンドルにもヒビが入っていて、とても使える代物ではなかったけど、ばあちゃんの愛用品だし、捨ててしまうのはしのびない。そんなわけで、僕が預かることにしたのだった。
2016年に開催された「旅するルイ・ヴィトン」展をご覧になられた方もいるだろう。貴重なヴィンテージの品々が並べられた特別な展覧会だったが、そこに、ばあちゃんのバッグと同じものが展示されているではないか!
「スティーマー・バッグ」というそのバッグが初めて作られたのは1901年のこと。100年以上が経過したいまも、現行品にラインナップされる超定番だった。そこで、思い切って甦らせることに。革を張り替え、金具も全部交換したら30万円くらいかかって「これなら欲しかった別のバッグが買えたかも」と思ったけど、これもばあちゃん孝行だしね。
フラップに取り付けられたハンドルは、きちんとベルトを締めないと口がだらしなく開いてしまうし、大型なので持ち歩くには重たくて、お世辞にも使いやすいとは言えない。1泊2日くらいのドライブ旅行にはちょうどいいかもしれないけどね。クルマの助手席にも似合うし。これ持って旅に出たら、ばあちゃんと一緒にドライブしてる気分になるんだな。
「トガ本。 The Bag」では、このような、戸賀さんの高級バッグへの思想が読み取れます。興味を持って頂いた方はぜひ読んでみてはいかがでしょうか?
トガ本。The Bag
文/ゼロヨンラボ 撮影/鈴木泰之(Studio Log) イラスト/ソリマチアキラ
※写真は「トガブロ。」より