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2019/11/3 18:30

ズームエア、リアクト、EQT……もともとは〇〇だったスニーカーのテクノロジー

スポーツシューズの世界では日々、競技力を高めるための新しいテクノロジーが発表されています。マラソンで好記録を連発している“厚底マラソンシューズ”ことナイキの「ヴェイパーフライ」などはその好例でしょう。こうした最先端のテクノロジーを、一般人である私たちがストリートでも体感できるという点も、スニーカーの魅力の一つです。今回は、スニーカーのテクノロジーにまつわる、知られざるエピソードを紹介。もともとは……を知れば、今履いているシューズにより愛着がわくはずです。

 

[その1]

ナイキ「ズームエア」はもともと紳士靴用のテクノロジーだった。

ナイキ(NIKE)

AIR ZOOM ALPHA

実売価格1万4800円

「ズームエア」は90年代に登場し、多くの名作シューズに採用されたナイキの代表的テクノロジー。その原型が1995年発売の「エアゴーLWP」「エアズームLWP」などに搭載された薄型エアユニット「テンシルエア」であることは、スニーカーファンなら知っている方も多いのでは。

 

しかし、実はこれらは「テンシルエア」初搭載のシューズではありません。さかのぼること5年前の1990年、ナイキは当時子会社だった紳士靴ブランド、コールハーンから「テンシルエア」を搭載したビジネスシューズを発売しています。当時の「テンシルエア」はクッション性が不十分だったことに加え、価格も高かったことから不評に終わりました。このためナイキとコールハーンは2年近くの歳月を費やしてエアユニットをより薄く改良し、1993年に「テンシルエア」搭載のビジネスシューズを再発表。この改良が功を奏し、のちにスポーツシューズへの転用が可能となったのです。

 

コールハーンはその後もエア入りのシューズや、同じくナイキの技術である「ルナロン」を採用したウィングチップなどを発売し人気を博しましたが、2012年に売却され、現在ではナイキの傘下を離れています。

 

[その2]

「リアクト」はもともとコンバースの衝撃吸収システムだった。

コンバース(CONVERSE)

AEROJAM EW MID

実売価格1万3860円

主にランニングシューズ等に用いられているナイキのミッドソール「リアクト」。2017年の初登場以来、クッションと反発性を兼ね備えた独特の履き心地のとりこになるアスリートが続出しています。ですがこの「リアクト」、もともとはコンバースのクッショニングシステムの名称だったことをご存じでしょうか。1992年、コンバースは「エナジーウェーブ」に次ぐ新技術として、ジェル状の液体と圧縮空気を封入したパーツをかかと部分に埋め込んだ「リアクト」システムを発表。NBAの若手スター、ラリー・ジョンソン(当時ホーネッツ)、ケビン・ジョンソン(当時サンズ)などの着用モデルに採用しました。

 

足の動きに合わせてジェルが動くことで、クッション性のみならずフィット感や安定性をもたらす、という触れ込みでPRされましたが、NBAの試合中にパーツが破損してジェルが流出するなどのアクシデントが発生し、普及するには至りませんでした。

 

実はコンバースの「リアクト」も、ひっそりとですが現在に受け継がれています。2016年から日本国内で販売されている「オールスター」には、通気性とクッション性を強化した「リアクト」インソールが用いられています。もちろんジェルや圧縮空気は入っていませんが……。ちなみにコンバースは現在ナイキの子会社です。

 

[その3]

「EQT(エキップメント)」は、もともとアノ傑作を生みだした人物が手掛けた

アディダス(adidas)

EQT SUPPORT MID ADV PK originals

実売価格6600円

近年ストリート向けに復刻され、90年代感あふれるカラーリングとボリューミーなシルエットで好評を博しているアディダスの「エキップメント」シリーズ。もともとはシリアスアスリート向けの機能を追求したラインナップとして1991年に発表されました。

 

当時のアディダスは経営危機の真っただ中。特に米国市場の落ち込みは深刻で、RUN DMCに象徴される“オールドスクール”なシューズとしての一定の人気はあったものの、アディダスのことを“高い機能性をもったアスリートのためのブランド”だと思う人々はわずかでした。そこで、新しい経営陣が米国ビジネスの立て直しのために招聘したのが、ピーター・ムーアとロブ・シュトラッサー。二人はもともとナイキで「エアジョーダン」シリーズを立ち上げ大成功を収めたものの、ナイキ会長のフィル・ナイトと衝突して退職した人物でした。

 

ムーアとシュトラッサーは米国アディダスのトップに就任すると、まずは本格スポーツブランドとしての地位を取り戻すため、当時の最新技術を結集したラインナップ「エキップメント」シリーズを開発。あわせて、少々古臭いイメージがついてしまっていた「トレフォイル(三つ葉)ロゴ」に代わり、アディダスの機能性を象徴する3本線を図案化したエキップメントシリーズ専用のロゴを導入します。このロゴが、現在でも使用されているアディダスの「パフォーマンスロゴ」の原型です。

 

ちなみにムーアは「エアジョーダン」のジャンプマンロゴをデザインした人物としても知られます。つまり、アディダスのロゴと、ジャンプマンロゴのデザイナーは同一人物、ということになります。

 

[その4]

アシックスの「αGEL」はもともと氷枕だった

アシックス(ASICS)

GEL LYTE V

実売価格2万3833円

アシックスのシューズに多く用いられている衝撃吸収素材「αGEL(アルファゲル)」。実はアシックスの独自技術ではなく、静岡県のタイカ(旧・ジェルテック)という会社が開発した素材です。80年代前半、精密機器などの振動を抑えるための開発に取り組んでいた技術者が、過労による発熱でダウン。その際、彼の娘が冗談半分で溶けかけの氷枕を彼の頭に投げつけたところ、技術者は「当たっても痛くない」ことに気づきました。そこから技術者はあらゆる“ゲル状”の素材を研究。誕生したのが、高さ18mから生卵を落としても割れない、という驚異の衝撃吸収素材でした。1986年、アシックスは世界で初めてこの素材を「GT-Ⅱ」と「フリークスα」の2モデルに搭載します。ナイキの「エアマックス」発売(1987年)に先駆けてのことでした。

 

昨今、「GEL LYTE」シリーズに代表される80~90年代の同社のランニングシューズが「アシックスタイガー」ブランドで復刻され、海外でも高い評価を受けています。シューズのみならず衝撃吸収のテクノロジーも“日本生まれ”であることは、海外の皆さんにも知ってほしい事実ですね。